JC 流し読み:画像検査が多い医師ほど死亡率,再入院が多い!?
Physician-level variation in clinical outcomes and resource use in inpatient general internal medicine: an observational study
BMJ Qual Saf. 2021 Feb;30(2):123-132.
画像検査が多い医師ほど死亡率,再入院が多い!?という入院管理をする総合内科での研究
□Abstract
背景:入院患者の医療のばらつきは一般的にシステム,病院,患者要因に起因する。病院内の医師レベルのばらつきに関してはほとんど知られていない。一般内科/GIMにおける医師レベルのばらつきによる臨床転機とリソース使用に関して調査した
方法:2010年から2015年までの5年,カナダのオンタリオ州の7つの病院で総合内科に緊急入院した患者を対象とした観察研究。入院患者の死亡率,入院期間,30d以内の再入院,高度画像検査(CT,MRI,US)の使用頻度を測定した。それぞれのアウトカムについて各病院で医師を4つのグループに分類し,最も良いグループと悪いグループで比較した。(患者レベルは傾向スコアに基づいてマッチングした)
結果:135人の総合内科医,103085人の入院患者が含まれた。傾向スコアマッチあと,死亡率の差は2.4%,再入院は3.3%,高度画像検査の使用は1入院あたり0.32,入院期間は1.2d違いがあった。入院期間と画像診断の使用における医師レベルの差は一貫しており,経時的にも安定していた。死亡率と再入院の差は一貫していたが,経時的には安定していなかった。
結論:病棟診療における患者の転帰と資源の使用は医師によって大きく異なっていた。在院期間と画像診断の使用における医師レベルのばらつきは患者要因によって説明される可能性は低いが,測定されていない交絡因子によって説明される可能性もあり,死亡率と再入院の差は慎重に解釈すべきである。医師レベルのばらつきは,質の向上の機会に対する実践違いを浮き彫りにしている可能性がある。
利用可能バイアスに関して(Memo)
●利用可能バイアスに関して
□vs診断エラーに関して(私見ふくむ)
一般論として知識や技術の不足からくる診断エラーは11%(知識が4%,読影などの技術が7%)ということになっています(Arch Intern Med. 2005;165:1493–1499)
ですが自験例ふくめどうもそうじゃないんじゃね?と個人的に思っています。
(HALTチェックなど)de-biasも大事なのは言うまでもないのですが、Medicalの部分をきっちりつめれば強引な(結果として間違える)診断プロセスを回避できることもあります。
最近の文献的には
・バイアスを認識することを目的とした教育戦略は、エラーを減らすことには効果がないが、逆に、エラーを減らすための知識の再編成に焦点を当てた戦略は、わずかだが効果がある(Acad Med. 2017 Jan;92(1):23-30.)
・Debias戦略やポイント毎のチェックよりは知識と経験の習得と統合の改善に焦点を当てるべき(Diagnosis (Berl). 2019 Jun 26;6(2):151-156.)
という雰囲気を感じます。そうはいってもde-biasが意味ないかというと、これはこれで効果あるんじゃね?とおもっています。
おそらく
□illness scriptの強化
短期Outcome改善のエビデンスあり
長期Outcome改善は不明
疾患特異的なものなので,そう長い間得られた知識が変化することはない
疾患特異的なものなので,使えるシーンは限定的
□debias戦略
短期Outcome改善のエビデンスは現状ない
長期Outcome改善は不明
debias戦略自体は身につければ患者さんの症状/徴候にかかわらず使える
どれくらい使えるかは場合による(状況次第?症例次第?)
このような感じなのかなとイメージしています。
で、今回は強力なバイアスの一つ利用可能バイアスに関してちょっとまとめてみました(ハッスル/感情系、早期閉鎖/アンカリング、Diagnostic momentumあたりも相当強いバイアスですよね)
●利用可能バイアス
→想起しやすい事柄を優先して評価してしまう認知バイアス
例:インフルエンザ,ノロ,COVID-19など流行性疾患が流行している時に鑑別のメインに考える
例:最近経験した症例やカンファレンスで出た症例を鑑別のメインに考える..
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32776898/
The effect of prior experience on diagnostic reasoning: exploration of availability bias
Diagnosis (Berl). 2020 Aug 27;7(3):265-272.
医学生はともかく研修医やスタッフの診断精度は、事前暴露/availability biasの影響を受けていなかった。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20841533/
Effect of availability bias and reflective reasoning on diagnostic accuracy among internal medicine residents
JAMA. 2010 Sep 15;304(11):1198-203.
研修医対象のリフレクションが利用可能バイアスに対抗できるかの研究
以前のケースに類似したケースに直面しsystem1を使用するとエラーを起こす傾向にあったが,振り返りを適用すると診断精度が改善した。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32935315/
Specific Disease Knowledge as Predictor of Susceptibility to Availability Bias in Diagnostic Reasoning: a Randomized Controlled Experiment
J Gen Intern Med. 2020 Sep 15.
知識がある医師のほうがそうでない医師より利用可能バイアスの影響を受けにくい
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16307548/
Case clustering in infective endocarditis: the role of availability bias
Clin Microbiol Infect. 2005 Dec;11(12):955-7.
availiability biasでIEの診断が増えた(=見逃しが減った?)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32788532/
Availability Bias Causes Misdiagnoses by Physicians: Direct Evidence from a Randomized Controlled Trial
Intern Med. 2020 Dec 15;59(24):3141-3146
利用可能バイアスが診断ミスを招いた。
振り返りでも修正できなかった
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31988257/
' Immunising' physicians against availability bias in diagnostic reasoning: a randomised controlled experiment
BMJ Qual Saf. 2020 Jul;29(7):550-559.
類似した疾患を識別する臨床所見の知識を高めることを目的とした介入は,模擬症例において利用可能バイアスに対抗でき診断エラーが減少した
【JC 流し読み】救急外来での緊張型頭痛の診断は慎重に
Tension-type headache in the Emergency Department Diagnosis and misdiagnosis: The TEDDi study
Sci Rep. 2020 Feb 12;10(1):2446.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32051440/
【JC 流し読み】入院中に判明する診断エラー(BMJ Qual Saf. 2020 Dec;29(12):1008-1018.)
Prevalence of harmful diagnostic errors in hospitalised adults: a systematic review and meta-analysis
BMJ Qual Saf. 2020 Dec;29(12):1008-1018.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32269070/
入院中に判明した診断エラー(診断エラーが入院中に明らかになった場合には、診断エラーが実際に発生した時期に関係なく研究を含めた)
22の研究,80026人の患者
有害な診断エラーは760例あった(0.7%)
136例の内訳は
15例 悪性腫瘍(5例 大腸癌)
11例 肺塞栓
5例 大動脈瘤
5例 うっ血性心不全
5例 尿路感染症
5例 消化管穿孔
4例 敗血症
3例 腸閉塞
3例 虫垂炎
3例 中枢神経疾患(SAH,硬膜下血腫,転移性腫瘍)
3例 骨折
2例 急性冠症候群
2例 アルコール使用障害
2例 せん妄
という結果でした。
Inclusionの条件が「診断エラーが入院中に明らかになった場合には、診断エラーが実際に発生した時期に関係なく研究を含めた」なので色々な解釈ができる研究ではあるのですが,やはりBIG3(血管,腫瘍,感染)が多いかなと。
【JC 流し読み】退院→長期療養施設,トラジション時の有害事象
Adverse Events in Long-term Care Residents Transitioning From Hospital Back to Nursing Home
JAMA Intern Med. 2019 Jul 22;179(9):1254-1261.
重要性:退院して介護施設へ移行するタイミングは有害事象のリスクが高い。有害事象には適切なケアが提供できなかったために生じるものもある
目的:退院後に長期療養施設に移行する人の有害事象の発生率,種類,重症度,予防可能かどうかを判断する
デザイン:退院して長期療養施設にもdった人を対象とした前向きコホート研究,45日追跡調査。555人,762の退院
主な転機と測定:MainOutcomeは病院から介護施設への移行後45日以内の有害事象。介護施設の記録を看護師がレビューし2人の医師がどれぞれの有害事象を独立してレビューした。見解に相違があった場合は会合を開いた。
結果:555人のうち365人(65.6%)が女性,平均年齢は82.2才。762の退院のうち,379で有害事象があった。
192/379(52.0%):住んでいる場所でのケアに関連したもの(褥瘡,皮膚裂創,転倒による障害)
108/379(28.5%):感染症
64/379(16.9%):薬剤有害事象
198/379(52.2%)は軽症
145/379(38.3%)は重症
28/379(7.4%)は致死的
8/379(2.1%)は死亡
267/379(70.4%)が予防ないし改善可能
軽症のほうが予防可能なことが多かった(73.7% vs 66.9%)
特に転倒による怪我,皮膚断裂,褥瘡など入居者の介護に関連した有害事象は予防可能な可能性が高かった(87.8% vs 60.9%/薬剤性,45.4%/感染症)
結論:退院後に施設に戻った人の有害事象は10人中4人近くで発生し,そのほとんどが予防可能であった
4割で発生し,その予防可能が7割というDataはかなり大事な話ではと思いました。FRIDの認知と多面的介入がもっと広がれば良いなと思います。
【JC 流し読み】退院後に有害事象が起きそうな人の予測
Characteristics of Long-Term Care Residents That Predict Adverse Events after Hospitalization
J Am Geriatr Soc. 2020 Aug 20. doi: 10.1111/jgs.16770
退院後に有害事象が起きそうな人の予測
長い入院期間,併存疾患の負担の増加,ADL の依存度の増加,およびポリファーマシーは有害事象(予防可能なもの含め)のリスクと最も強く関連したという結果
背景/目的:長期療養施設入所者は退院後に有害事象がよく発生する。有害事象の関連性と特性を測定することで有害事象のリスクを減らす戦略を知ることができる。
デザイン:前向きコホート研究
設定:ニューイングランドの6つの州,32の介護施設
参加者:555人,762回の退院
測定:
長期療養施設入所45日間に発生した有害事象,有害事象が予防可能かどうか,人口統計学的変数,並存疾患(Charlson Comorbidity Index),ADL(Minimum Data Set Long Form Scale),定期的の服用している薬の数(0-9, 10-13, 14-17, and ≥18).
結果:762の退院後,283の有害事象が発生(212は予防可能)。AEのリスクは入院が長い(9d以上 HR 1.58),並存疾患,18剤以上の内服(HR 1.53),ADL障害(HR 1.78)
結論:長い入院期間,併存疾患の負担の増加,ADL の依存度の増加,およびポリファーマシーは有害事象(予防可能なもの含め)のリスクと最も強く関連した。