ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC】救急外来での蜂窩織炎の診断の正診率は7割程度(JAMA Dermatol. 2017 Feb 1;153(2):141-146)

救急外来での蜂窩織炎の診断の正診率は7割程度(JAMA Dermatol. 2017 Feb 1;153(2):141-146)

診断も大事ですが,それだけじゃなくて原因検索,治療,再発予防...などなど
蜂窩織炎は結構難しい/奥が深い疾患と思っています。



Costs and Consequences Associated With Misdiagnosed Lower Extremity Cellulitis
JAMA Dermatol. 2017 Feb 1;153(2):141-146
(コストの話は省略しています)

蜂窩織炎に関しての背景

蜂窩織炎でよくみられるのは紅斑,疼痛,熱感,腫脹(炎症の特徴そのもの)
・7-8割が下肢に発症し基本的に片側性
・発熱やWBC上昇を伴うことがあるが診断には不要,通常は病歴と診察のみで診断する
・皮膚に炎症が生じる疾患の多くが蜂窩織炎様でくる(Pseudo-cellulitis)。3-9割で診断エラーがおきるという報告もある
・不要な抗菌薬使用で8-39人に1人でCDIが発生し,6600-25000人に1人にアナフィラキシーが発生する
蜂窩織炎ミミックの代表は鬱滞性皮膚炎,リンパ浮腫,DVT,CPPD,接触性皮膚炎

□今回の研究の概要

約1年半,救急外来において下肢の蜂窩織炎と診断され入院となった人が対象の横断研究
蜂窩織炎の診断のまま無事退院した人は蜂窩織炎
入院中,退院時,退院後30日以内に別の診断名となった人をPseudo-cellulitsと判断

下肢の蜂窩織炎の診断名で入院となったのが259人
180人(69.5%)が正診,79人(30.5%)が最終的に診断が違った
79人のうち52人(65.8%)は下肢の蜂窩織炎が入院のメインの病名だったが,後から見ると44人(84.6%)は入院が不要であり,48人(92.3%)は不要な抗菌薬投与がされた。(そしておそらくCDIアナフィラキシーにつながると予想される)

小脳梗塞の診断エラーに関して(私見こみ)

脳梗塞はシンプルな小脳梗塞,椎骨動脈解離→延髄外側+小脳梗塞,(散発含む)小脳+他の病変にも梗塞があるなど複数パターンが混在するのと,椎骨動脈解離はこれはこれで難しいので...考えれば考えるほどごちゃごちゃになるのですが...


シンプルに
・椎骨動脈解離は痛みなし/ありにこだわらない(ただし65才以上の椎骨動脈解離は稀)
・その人の心血管リスクは評価したのか
・末梢性めまいともし判断するのであればどれくらい所見は合致しているのか
あたりが大事なのかなと思っています
(椎骨動脈解離はまたどこかで時間があれば...ですかね)


■小脳梗塞の見逃される頻度

28%で誤診(J Stroke Cerebrovasc Dis. 2013 Oct;22(7):1125-30.)

■小脳梗塞で見逃されやすい要素は?

60才未満の椎骨動脈解離からの小脳梗塞は見逃されやすい(J Stroke Cerebrovasc Dis. 2013 Oct;22(7):1125-30.
構音障害があると見逃されにくい(J Stroke Cerebrovasc Dis. 2013 Oct;22(7):1125-30.)
神経学的な異常がない(OR 3.5),嘔吐症状(OR 2.3)は見逃しに関連(Cerebrovasc Dis 2016;42:476–484)

最も多い暫定診断は前庭神経炎(Cerebrovasc Dis 2016;42:476–484)

■めまいの神経診察は難しい!!

・見逃しのあった小脳梗塞15例のreview。10/15で神経診察が特異的に記載されていなかった,4/15で神経所見の記載がなかった,1/15で「正常」とかいてあるが何が正常なのか書いていなかった(Acad Emerg Med. 2007 Jan;14(1):63-8.)
・ER医と神経内科医で有意差がつきやすい所見は四肢の失調,眼振,構音障害,体幹失調(Acad Emerg Med. 2007 Jan;14(1):63-8.)
・神経所見の拾い上げはER医より神経内科医のほうが優れていた(Cerebrovasc Dis 2016;42:476–484)
・急性前庭症候群に対して行われる診察HINTSの診察の精度を比較した文献。神経内科医が行うと感度96.7%特異度94.8%,神経内科と救急医を含んだ研究は感度83.3%特異度43.8%(Acad Emerg Med. 2020 Sep;27(9):887-896)


■めまい→CTは...
・CTそのものが有用性が低い
・CTが撮像されて所見が写っていても正確に解釈されていないことはよくある


24/32がCTのみ撮像されていた。3/32(13%)で目眩に対して行われたCT上で病変があったが,2/3は陳旧性脳梗塞と診断され,1/3は特にコメントなかった。そしてめまい症状が増悪してもフォローアップのCTやMRIは行われていなかった(J Stroke Cerebrovasc Dis. 2013 Oct;22(7):1125-30)

15例の診断エラーのレビュー。9/15で頭部CTが撮像されていたが正常と読まれた(1/9で所見があった)。(Acad Emerg Med. 2007 Jan;14(1):63-8.)

ERでの頭部CTの診断率は2.2%と極めて低く有用性は低い(Emerg Radiol. 2013 Jan;20(1):45-9.)


■小脳梗塞の診断のピットフォール(Acad Emerg Med. 2007 Jan;14(1):63-8.)

■Clinical examination
1.血管リスクがない若年患者が脳卒中を起こしうることを認識していない
2.小脳梗塞の症状提示のスペクトラムを理解していない
a.嘔吐が主訴の場合に想起できない
3.神経学的所見を正しく実行し正しく解釈できない,特に歩行と眼振
4.以前の状態や基礎疾患に対する過固定
■Related diagnostic testing
1.画像検査を行なっていない
2.画像検査の限界を認識していない(特にCT,稀にMRI)
3.血管病変のための検査をしなかった
■診断やDispositionに関して
1.臨床データーを説明できる特定の疾患にたどり着かない
2.曖昧な場合に院内での経過観察を考慮しない
3.難しい症例で神経内科コンサルトができない
 


※あくまで私見です

自分がやることは非常に少ないですが「めまいに対してCTを撮像して異常なければ帰宅」というプラクティスはよくみます。めまいに対して「CTを撮像する」ということは「中枢性のめまいを疑っている」という意味だと思うので,CTが陰性であれば帰宅ではなく次のとるべきアクションになるのでは?、とかそもそもCTを撮像するまえにもっと色々詰めたほうがマネージメントは明確でやりやすいので?とか思ってます。
(起立性低血圧の人に頭部画像がとられていることも!?)

脳梗塞の見逃しはきっとみんな経験があって悔しい思いをしているはずです。HINTSが難しい/自信がないというのもわかります(自分もよく迷います)。
ですが過剰検査に走れば見逃さないというわけでもないですし(MRIは後頭蓋病変には精度が下がります),過剰なMRI乱打は技師さんふくめ医療従事者の負担にもなります。
日々のプラクティスをしっかりつめる/振り返る,(Commonな疾患の勉強をしっかりする)のが一番大事なのかなというのが自分の私見です。


【JC】POCNESの特徴を抑える(J Pain Res. 2019 Feb 19;12:715-723)

LACNESに続いてPOCNESに関して

 

●POCNESに関してのまとめ(J Pain Res. 2019 Feb 19;12:715-723.)

・ACNES様の痛みが傍脊椎3-5cm以内の分布にある(ほとんどがTh11と12)
・圧痛部位は狭く,感覚異常を伴い,Pinch signは86%で陽性
・鑑別診断は神経根性疼痛,脊椎関節症,Maigne's syndrome/上臀皮神経障害あたり。痛みの分布が特に鑑別に有用


Chronic localized back pain due to entrapment of cutaneous branches of posterior rami of the thoracic nerves (POCNES): a case series on diagnosis and management
Pain Physician. 2017 Mar;20(3):E455-E458.

POCNESの最初の症例報告
26歳女性,Th12から外側4cmに2×2cmの範囲の圧痛点+感覚低下/感覚異常あり
リドカイン局所注射で症状改善あり
第12肋間神経の後端枝を切除して症状は消失した


Chronic localized back pain due to entrapment of cutaneous branches of posterior rami of the thoracic nerves (POCNES): a case series on diagnosis and management
J Pain Res. 2019 Feb 19;12:715-723.

□Box1:Inclusion and exclusion criteria for posterior cutaneous nerve entrapment syndrome (POCNES)

□Inclusion criteria
1) 3ヶ月以上の局所的な背中の痛みの病歴
2) 棘突起の外側に限局した円周状の圧痛があり、小さくて予測可能な最大疼痛点を覆っている。
3) この最大痛点の上に、より広い範囲の皮膚の体性感覚の異常(感覚減退、感覚亢進、および/または冷感の変化など)がある。
4) 圧痛点を局所的に圧迫することにより、予測可能な激しい疼痛反応が起こる。
5) 正常な臨床検査および画像診断

□除外基準

1) 外科的瘢痕に関連する疼痛症候群
2) 脊椎レベルT7-L1の間で脊椎外科手術を受けたことがある者
3) コミュニケーション不能


●結果

14人のPOCNESのケースシリーズ
年齢の中央値は26才(18-73才)
12人が女性,2人が男性
6/14でACNESに対する切除歴があった
診断までの期間の中央値は22m(5-48m)
痛みの程度は8/10で神経性疼痛様
ほとんどがTh11,12の神経後枝
Pinch testは86%(12/14)で陽性
全ての患者でなんらかの感覚異常があった
左右差はなかったが,2/14で両側性だった

71%がリドカイン注射後に50%以上の疼痛軽減を報告
79%は数日〜数週間の疼痛軽減があった
1人は注射のみで改善,11人は神経切除を行い7人(64%)がうまくいった

□鑑別診断:神経根性疼痛,脊椎関節症,Maigne's syndrome/上臀皮神経障害

神経根性疼痛:特定の皮膚分節に放散する局所的な痛みが特徴
脊椎関節症:痛みのパターンは色々。長時間の立位,伸展,回旋で増悪する傍椎体の痛みが特徴。痛みは通常やや広い範囲に放散し,痛みが最大となる特定の場所はない
Maigne's syndrome/上臀皮神経障害:T12~L2の皮膚枝に対応する腸骨稜部に向かって放散する痛み。正中から7-8cmは離れている。
※POCNESは正中から3-5cmの分布

【JC】LACNESの特徴を抑える(Scand J Pain. 2017 Oct;17:211-217)

島根の和足先生の報告(BMJ Case Rep. 2021 Feb 26;14(2):e241421)
千葉の石塚先生の報告(Am J Medに掲載予定)

と日本からLACNESの報告が2021年に相次いでいるのできっとunderdiagnosisな人もいるのではないかと妄想しております(自分もACNESは前だよね...うーん側面だし。。。とおもってスルーしてしまった側腹痛の記憶はおぼろげにあります。。。)

LACNESまとめ

・ACNES様でくる側腹部痛
・分布はTh7-12で腋窩正中,右が多い

・90%でPinch signが陽性(左右差がある)
・8割以上がリドカイン皮下注射で50%以上の疼痛改善がある
 

Lateral Cutaneous Nerve Entrapment Syndrome (LACNES): A previously unrecognized cause of intractable flank pain
Scand J Pain. 2017 Oct;17:211-217

肋間神経外側皮枝は外肋間筋と前鋸筋を通過して脇腹の方に向かい,前枝と後枝に分かれる(ここでLACNESが発生する)

LACNESの診断基準は以下の4つのうち3つ以上

1.局所的な側腹部痛が3m以上続いている
2.側腹部痛に圧痛があり,腋窩正中線上に指先程度の広さで最大の圧痛がある
3.最大圧痛点を覆うように感覚の低下/亢進や温覚の変化がある(デルマトームに合致する必要はない)
4.Pinchテストが陽性(親指と人差し指を使って圧痛点周辺の皮膚を「つまんで」持ち上げると、対側に比べて痛みを伴う反応が得られる)

場所:7-12thの肋骨
画像:必須ではない(が全ての症例で行われていた)
除外基準:手術痕に関連した疼痛症候群,胸腰椎症候群,意思疎通困難

診断基準を満たした後,推定診断が患者に伝えられ口頭での同意を取得した後に1%リドカインを5-10ml皮下注射した(21G 40mmの針を使用)。10-15分後に疼痛を再評価して50%以上の改善した場合,2-3w後にようやくをとり頭痛が持続していれば1%リドカイン5ml+mPSL40mgを投与した。


30人のLACNESの解析
女性が21人(70%)
年齢の中央値は52才(13-78才)
紹介までの期間の中央値は18m(3-360m)
左より右が多い(80%)
Pinch signは90%で陽性
83%がリドカイン初回投与で50%以上の軽減があり,17%は短期/長期の両方で痛みが消失した
長期での注射による成功は53%

□LACNESのケースの文献

 Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol 1997;74:169–71.
J Fam Pract 1990;30:211–2, 214.
BMJ Case Rep. 2021 Feb 26;14(2):e241421

【JC】無症候性の成人に対するVitDスクリーニングは不要(JAMA. 2021 Apr 13;325(14):1443-1463)

VitDスクリーニングに関するJAMAのreviewです(JAMA. 2021 Apr 13;325(14):1443-1463)

無症候性の人に対してはメリットがない、という結果。VitDスキーな自分としては身体機能,ADL,転倒などをアウトカムとして患者群を選んでやれば...とは思っているのですがこのへんはまだまだ結論がでないところでしょうか。。

 

Screening for Vitamin D Deficiency in Adults: Updated Evidence Report and Systematic Review for the US Preventive Services Task Force
JAMA. 2021 Apr 13;325(14):1443-1463

重要性:血中VitD低値は様々な有害な臨床転帰と関連しており,欠乏を特定して治療することで転帰を改善できる可能性がある。
目的:成人におけるビタミンD欠乏症のスクリーニングに関するエビデンスをレビューする。
データソース:2020/3/12までのPubMed, EMBASE, the Cochrane Library, and trial registries,2020/11/30まで撤回論文の検索,外部の専門家,文献のサーベイを行った
研究の選択:非妊娠成人を対象に実施された、25[OH]VitDによるスクリーニングありなしを比較したもの,あるいはVitD±Ca製剤による治療をプラセボと比較した質の良いRCT,副作用を対象とした非無作為対象介入研究,治療対象はVitDが低い患者を対象とした研究に限定した

データの抽出と統合:2人の査読者がタイトル,アブスト,フルテキストで評価しデーターを抽出し研究の質を評価した。類似した研究が3つ以上ある場合はメタアナリシスを行った。
メインの転機:死亡,骨折,転倒,糖尿病,心血管イベント,悪性腫瘍,うつ,身体機能,感染症
結果:
 
46の研究(16205人)が含まれた。スクリーニングの有用性や有害性を評価した研究はなかった。地域住民に対して治療は死亡,骨折,闘病病発症,心血管疾患の発症,悪性腫瘍の発症,うつの発症と関連がなかった。1回以上の転倒を経験した患者に関しては-4.3%(-11.6%から2.9%),身体機能に対する治療効果はエビデンスが混在,感染症に対する効果は限定的。尿管結石や有害事象の発生率は同等。
結論:VitD欠乏のスクリーニングの直接的なメリットとデメリットを評価した研究はなかった。無症候性のVitD欠乏の地域住民に対する治療は死亡,骨折,転倒,うつ,DM,心血管,悪性腫瘍の発症に影響しない。身体機能や感染症に対する治療の効果はわからない。
 

【JC】認知症の患者に非定型抗精神病薬を使用すると認知機能低下と関連(J Am Geriatr Soc. 2021 Apr;69(4):955-963.)

アルツハイマー認知症の患者に非定型抗精神病薬を使用すると認知機能低下(MMSE 0.9点低下)と関連という報告(J Am Geriatr Soc. 2021 Apr;69(4):955-963.)

また認知症のNPI‐Q/行動心理症状を改善する薬剤もありませんでした。


Psychotropic Medication and Cognitive, Functional, and Neuropsychiatric Outcomes in Alzheimer's Disease (AD)
J Am Geriatr Soc. 2021 Apr;69(4):955-963.

背景より抜粋
アルツハイマー認知症の精神神経症状に対する抗精神病薬エビデンスはそれほど大きくなく,症状の改善もわずか

・体重増加の副作用の報告もある
・それ以外に錐体外路症状,遅発性ジスキネジア,股関節骨折,死亡率の増加(NNH 26-50)

目的:AD患者において抗精神病薬の安全性と有効性に関しての懸念が高まっている。我々は、ADの大規模臨床コホートにおいて、向精神薬への曝露と、認知、機能、精神神経の長期予後との関連を調査する。
デザイン:縦断的観察研究
設定:39のアルツハイマー病センター
対象者:8034人のアルツハイマー認知症
測定項目:MMSE,CDR‐SB/認知症の重症度,NPI‐Q/行動心理症状,薬物療法をうけた確率はロジスティック回帰法を算出した。内服は抗精神病薬(非定型 or 定型),抗うつ(SSRI or 非SSRI),BZOに分類された。薬物治療を受けた参加者は、そのクラスの薬物治療を受けていない参加者と、最も近い傾向スコアでマッチングされた。薬物治療の効果は、線形混合効果モデルを用いて評価した。
結果:年齢は平均75.5才,MMSEの平均21.3,CDR‐SB/認知症の重症度の平均は5.5,NPI‐Q/行動心理症状の程度の平均は4.5.フォローアップの追跡は2.9-3.3年。非SSRI抗うつ薬の使用はCDR-SBの改善と関連(-0.38)。非定型抗精神病薬の使用はMMSEの低下(-0.91)とCDR-SBの悪化(0.50)と関連していた。NPI-Qの向上の向上と関連する薬はなかった
結論:抗定型抗精神病薬の使用は認知機能の悪化と関連し,神経精神症状の改善と関連する薬剤はなかった

【JC】高齢者でNSAIDsが必ずしも有害とは限らない!?(J Am Geriatr Soc. 2021 Mar;69(3):726-734)

高齢者医療においてNSAIDsは須く悪い、というのも極端な気もしますし、こういう検証は大事だと思います

暴露が自己申告というのが気にはなりますが。。

Association of Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs with Kidney Health in Ambulatory Older Adults
J Am Geriatr Soc. 2021 Mar;69(3):726-734.

□Intro

・NSAIDsによるAKIのリスクの大きさや集団間のばらつきについて関しては明らかになっていない
・高齢者はNSAIDによる腎毒性のリスクが特に高いことが懸念され,Beers CriteriaにNSAIDsが含まれているが、NSAIDに関連する長期的な腎障害のリスクは依然として不明である。
・高齢者は急性や慢性の疼痛に悩まされておりNSAIDsが安全に使えるのであれば恩恵を受ける可能性がある
・NSAIDsの腎毒性に関するほとんどの研究はCrとeGFRが用いられるが,Crの腎機能変化に対する感度や特異度に限界はあり,筋肉量による修正もある
・逆にシスタチンCは筋肉量の影響を受けずに高齢者のGFRの変化を検出できる
・ただしCrやcysCではNSAIDsの毒性が影響する尿細管の障害を検出できない可能性がある
・KIM-1,IL-18,NGAL,PⅢNP,α1m,UMODなどが尿細管の障害のバイオマーカーとなる

□概要

背景/目的:NSAIDsは特に高齢者において腎障害を起こす可能性がある。しかしこれまでの報告では一貫性がないのとCrベースのeGFRに依存しているという限界がある。複数の指標を用いて高齢者におけるNSAIDsの使用と腎障害との関連を調べた
デザイン:横断的と縦断的な分析
設定:多施設,地域ベースのコホート
参加者:Health ABC studyに参加した2999人の高齢者でサブコホート(n=500)を無作為に抽出しバイオマーカーの測定を行った
暴露:自己申告によるNSAIDsの処方や市販薬の使用
測定:ベースラインのeGR,cysC,ACR,KIM-1,IL-18を2999名,α1m,NGAL,PⅢNP,UMODを500名で測定。GFRは10年で3回推定され1年毎の変化率を表した。
結果:平均年齢は74才,51%が女性。ベースラインのeGFRはNSAIDs使用者(n=655)と非使用者(n=2344)で差はなかった。NSAIDs使用者はACR 30mg/dl以上が多く,尿中IL-18が低いが,KIM-1は同等。それ以外の尿中バイオマーカーでベースラインに差はなかった。NSAIDs使用者と非使用者でeGFR低下に有意差はなかった。
結論:自己申告のNSAIDs使用は複数の指標に基づく腎機能障害や腎機能低下と関連しておらず,外来での高齢者において安全にNSAIDsが使用できる可能性をしめす。NSAIDsの安全な使用パターンの定義にはさらなる研究が必要。