ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC】抑肝散での低K血症

抑肝散でも高用量や患者背景次第では低Kは起こしうるので注意です。

個人的には低Kだけでなく抑肝散→浮腫→利尿剤追加?、抑肝散→血圧上昇→降圧剤追加?の流れはあまり好きではないです。

うまく使いこなすことも、不要になればoffにすること、も大事な薬だと思っています😊

 

 

Liquorice-induced hypokalaemia in patients treated with Yokukansan preparations: identification of the risk factors in a retrospective cohort study
BMJ Open. 2017 Jun 15;7(6):e014218.

24%で低K血症を発症した(3.6mEq/L以下)
投与から34d(1-1600d)
抑肝散加陳皮半夏より抑肝散のほうがおきやすい
低Kをおこしやすい因子
・ほかの低Kをおこしうる薬を併用している(HR 2.74)
・低アルブミン血症がある(HR 2.15)
・最高投与量(7.5g/d)(HR 1.6)

Geriatric Patients Are at a High Risk of Hypokalemia Associated with Yokukansan Preparation: A Retrospective Cohort Study
Biol Pharm Bull. 2020;43(11):1742-1748

抑肝散内服している665例のうち8.3%で抑肝散関連の低K血症をきたした(3.0mEq/L以下)
低K血症のリスク
→年齢(75歳以上)
→1日で7.5g/d以上 HR 1.45
認知症 HR 0.5

 


Risk Factors for Pseudoaldosteronism with Yokukansan Use: Analysis Using the Japanese Adverse Drug Report (JADER) Database
Biol Pharm Bull. 2020;43(10):1570-1576.

 
抑肝散、自体は他の甘草含有の漢方と比べて偽性アルドステロン症のリスク(OR 2.4)
抑肝散内服者で、服用量が多い(OR 1.5),70歳以上(OR 5.9),認知症(OR 2.8),体重50kg未満(OR 2.2),などがあればリスク

【備忘録/Memo】抑肝散の効果に関して

獨協総診でさせていただいている老年内科Lectureついでに、以前から気になっていた抑肝散に関して軽くまとめてみました😊
(補足やコメントなどあれば是非よろしくお願いいたします)
 
□ 抑肝散のBPSD/精神行動症状に対する効果のMeta-Analysis

・抑肝散はNPIを7.2点さげた(0-120点のBPSDの評価尺度)。特に妄想,幻覚,攻撃/焦燥などを改善した。ADLのスコアも軽度改善した。MMSEは有意差なかった。特に中止はなく忍容性は高かった(Hum Psychopharmacol. 2013 Jan;28(1):80-6.)

・BPSDのtotal scoreを0.32改善した。特に妄想,幻覚,攻撃,焦燥などに効いた。ただしAD患者に関しては効果がなかった(J Alzheimers Dis. 2016 Sep 6;54(2):635-43)
・抑肝散の研究は8個。NPIは0.5改善した。安全で忍容性が高い(J Psychopharmacol. 2017 Feb;31(2):169-183.)

アルツハイマー認知症/AD患者には効果がない!?

・J Alzheimers Dis. 2016 Sep 6;54(2):635-43のMetaではAD患者では効果なし
・日本で行われたAD患者のRCT,抑肝散で有意差示せず(Geriatr Gerontol Int. 2017 Feb;17(2):211-218.)
・非RCTだが効果があったという研究も(Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry. 2010 Apr 16;34(3):532-6.Int J Neuropsychopharmacol. 2009 Mar;12(2):191-9)

□ 抑肝散の効果発現までの時間

・成分によるが0.5-1時間くらいでピークになり,その後急速に排泄される(PLoS One. 2015; 10(7): e0131165.)
・作用発現時間は平均28.3 ±4.0分,持続時間は2〜8時間(日集中医誌 2012;19:83~84.)

□ 抑肝散に関して(私見)

・研究によって差はあるがBPSD(特に攻撃性や焦燥)に効果はありそう。ただしAD患者には効きにくい可能性はある。
抗精神病薬と副作用のリスクが全然違うのが大きなメリット
・抑肝散の効果発現までの時間が短いのは効果判定がしやすい観点でも好ましい
・使用時には低Kを起こさないように注意(次のネタに)
・実際に投与してみて効果があるかどうか、を測定するのは常に大事(効果がなければoffを)
・効果があったとしても投与しっぱなしにしないように注意

【備忘録】難聴のスクリーニングや評価に関して(J Am Geriatr Soc. 2022 Feb;70(2):386-388)

Hearing assessment—The challenges and opportunities of self report
J Am Geriatr Soc. 2022 Feb;70(2):386-388

難聴のスクリーニングや評価に関してJAGSのEditorialから抜粋

これまでの流れがまとめられてわかりやすい内容でした😊

◯難聴のスクリーニングとして自己申告はあてにならない?

・自己申告による聴覚障害とオージオグラムとの一致率は低い(PLoS ONE. 2017;12(8):e0182718.J Speech Lang Hear Res. 2018;61(4):945-956.)
・近年発表されたKimらの文献では認知症があるとより感度が下がることが示された。認知症がないと感度71.2%特異度85.9%,MCIだと感度61.1%特異度84.9%,認知症だと感度52.6%特異度81.2%(J Am Geriatr Soc. 2021;70(2):490-500.)

・日常生活での聴力障害の評価方法としてHHIE(Hearing Handicap Inventory for the Elderly)とそのスクリーニング版(Hearing Handicap Inventory-Screen:HHI-S)が知られている。どちらも補聴器への適応や補聴器使用の成功など臨床的に重要な結果を予測する。

・HHIEは純音聴力検査よりも補聴器使用の予測因子として優れている(Trends Amplif. 2010;14(3):127-154.Int J Audiol. 2014;53(Suppl 1):S18-S27.Hear Rev. 2020;27(7):12-18.)

・スクリーニングの最終的な目標は聴覚補助の導入であり、医学的なゴールドスタンダードではないが主観的な測定は重要な基準である
・オージオメトリー上「正常」な聴力を持つ多くの高齢者であっても、補聴器やその他の補助器具の恩恵を受けることができるという報告もある(Hear Rev. 2020;27(7):12-18.)

□難聴の過少申告に関連する要素

✓難聴は徐々に進行するため,その変化に気づかない
✓難聴に対するスティグマ/烙印
✓臨床医に迷惑をかけたくないと思っている
認知障害により気づかない。

逆に難聴を認知障害と誤解されることもある
代理人による難聴の判定は特異度60%とあまり高くない

□我々はどうすればいいか?

・客観的な聴覚スクリーニングをルーチンに加える
スマートフォンタブレット端末を利用した難聴のスクリーニングアプリが数多くありオージオグラムと比較しても良い結果をだしている(JMIR MHealth Uhealth. 2021;9(9):e28378.)

・補聴器は高価であり,簡単で安価な個人用増幅器を提供することもできる。多くの場合,その効果はすぐに現れ,高齢者にとっても医療者にとっても有益なものになる
 
 
TABLE 1 クリニックでの戦略
・検証済みのスクリーニングツールまたは単項目の質問を使用する。
・スタッフが配布するタブレット型聴覚アプリの利用を検討する
・スクリーニングが所見またはコミュニケーション困難の場合
- 耳垢が溜まっていないか検査する
- 診察時に補聴器を提供する
- 耳鼻科に紹介する

【JC】難聴に対する自己評価の信頼度と認知症の関連(J Am Geriatr Soc. 2022 Feb;70(2):490-500.)

JAGSより難聴の自己評価に関しての研究(J Am Geriatr Soc. 2022;70(2):490-500.)

よく難聴のスクリーニングで自己評価法を使われますが...認知障害が進めば進むほど自己評価による難聴の感度が低下するという研究でした。

他に認知症ありの高齢者に対する代理人評価で「特異度60%」は色々気になるポイントですね。。

 

 

Accuracy of self- and proxy-rated hearing among older adults with and without cognitive impairment
J Am Geriatr Soc. 2022 Feb;70(2):490-500.


目的:高齢者における主観的聴力評価と客観的な評価の一致率や認知症の有無など一致に関連する因子を評価する
デザイン:前向きコホート研究
結果:
難聴の判断はオージオグラムとWHO基準(25db)
 
自己評価(3326件)
認知正常 感度 71.2% 特異度  85.9%
MCI         感度 61.1% 特異度 84.9%
認知症     感度 52.6% 特異度 81.2%
 
代理人による評価(520件)
MCI         感度 65.7% 特異度 83.3%
認知症  感度 73.3%  特異度 60.3%
 
結論:
 
聴力検査と比較して自己評価や代理人評価は難聴に対する感度が低い
認知障害のある高齢者における難聴は主観的評価では過小評価され対処されない可能性がある
 
という概要でした。
 

【JC】介護施設職員を対象とした多因子介入で不要な抗菌薬処方は減るか?(JAMA Intern Med. 2020 Jul 1;180(7):944-951.)

Medication use quality and safety in older adults: 2020 update
J Am Geriatr Soc. 2022 Feb;70(2):389-397.

より紹介論文③
 
介護施設職員を対象とした多因子介入で不要な抗菌薬処方は減るか?(JAMA Intern Med. 2020 Jul 1;180(7):944-951.)
 
安全性を示しつつ抗菌薬だけでなくCDIもへった 、という素晴らしい研究です😊
 

Medication use quality and safety in older adults: 2020 update
J Am Geriatr Soc. 2022 Feb;70(2):389-397.

より紹介論文③

Multifaceted antimicrobial stewardship program for the treatment of uncomplicated cystitis in nursing home residents (domain: optimizing medication use)
JAMA Intern Med. 2020 Jul 1;180(7):944-951.

介護施設を対象とした抗菌薬の適正使用を目標としたRCT
主要アウトカムは膀胱炎っぽくない症例に対する抗菌薬投与


膀胱炎っぽくない症例の定義は
→無症候性細菌尿
→尿検体のContamination
→膀胱炎と間違われる非感染性疾患(泌尿器的な症状がない非特異的な症状)

副次転機としてあらゆる尿路感染症に対する抗菌薬使用,CDI,全原因の入院と死亡

25箇所の介護施設を対象に多因子介入のRCTが行われた
介入は1時間の導入のWebnir,ポケットサイズの教育カード,システム変更のためのツール,合併症のない膀胱炎が疑われる場合の診断と治療を取り上げた教育用の資料,希望者に対して毎月Webベースの指導が行われた。



結果として...
 
✓膀胱炎っぽくない症例に対する抗菌薬投与が少なかった(adjusted incidence rate ratio [AIRR] 0.7)
CDIの発生率も介入群で少なかった(adjusted incidence rate ratio [AIRR], 0.35)
✓あらゆる種類のUTIに対する抗菌薬使用は介入群で17%低かった(adjusted incidence rate ratio [AIRR], 0.83)
✓全原因の入院や死亡に有意差は生じなかった


この研究の強さはRCT,参加者の多さとフォローアップ期間,施設全体の全サンプルを検証していること,実用的な介入,高い完了率にある
 
主な限界は施設の盲検化がされていないこと,データー収集は現場のスタッフの自己報告,Webベースの指導に参加した医療従事者が少ない(ほぼ全員が看護師)であった

という研究でした
 

 

【JC】BP製剤と非定形大腿骨骨折のリスクに関しての論文(N Engl J Med. 2020 Aug 20;383(8):743-753)

Medication use quality and safety in older adults: 2020 update
J Am Geriatr Soc. 2022 Feb;70(2):389-397.

より紹介論文②

BP製剤と非定形大腿骨骨折のリスクに関しての論文(N Engl J Med. 2020 Aug 20;383(8):743-753)

 


Atypical femur fracture risk versus fragility fracture prevention with bisphosphonates (domain: medication safety)
N Engl J Med. 2020 Aug 20;383(8):743-753

対象は50歳以上で2007年1月1日から2017年11月30日までに、骨粗鬆症のためにビスフォスフォネートの処方を1回以上受けた女性

主要アウトカムは非定型大腿骨骨折

危険因子情報は年齢,人種,グルココルチコイドの使用,身長,体重,喫煙などの情報を記録から得た
ビスフォスフォネートの使用期間は薬局の記録から判断した

者らはリスクベネフィット分析を行い、ビスフォスフォネート関連の非定型大腿骨骨折が1~10年間発生した場合と比較して、予防された骨粗鬆症および股関節骨折の数を推定した

合計196,129人の女性(59.5%が65歳以上)が対象基準を満たし,このうち277人の非定型大腿骨 骨折が発生しました(1.74/10,000人年)

多変量での調整後,以下のリスクが非定形大腿骨骨折のリスクと関連していた
3-5年のBP製剤使用 HR 8.86
5-8年のBP製剤使用 HR 19.88
8年以上のBP製剤使用 HR 43.51
アジア人 HR 4.84
低身長 5cmあたりHR 1.28
高体重 5kgあたりHR 1.15
1年以上のステロイド使用 HR 2.28

1-10年のBP製剤の使用は大きなメリット(骨粗鬆症や股関節の予防)と関連していた。アジア人女性ではメリットが少なかった。
BP製剤の中止は3ヶ月以上であれば期間に関わらずリスク低下に関連していた

この研究のLimitationとして以下の点などが挙げられている
アレンドロン酸以外の薬に一般化できない
黒人女性での症例が少なすぎて解析できなかった
人種差があり他の国で一般化できない可能性がある

Interpretation and implications

・BP製剤に寄る非定形大腿骨骨折はBP製剤の治療の長さ,アジア人,低慎重,高体重,1年以上のステロイド使用と関連していることが示された(リスク計算が今後可能になる可能性がある)
・加齢によるリスク上昇がみられなかったのは注目できる点
・BP製剤の中止がリスク低下と関連することを示す唯一の観察データー
・BP製剤の中止によるリスクベネフィットのバランス評価の研究が今後必要である
・この研究ではBP製剤による非定形大腿骨骨折のリスクはBP製剤により予防できる骨粗鬆症や股関節骨折と比較して非常に低いことが判明した
・リスクベネフィットは白人女性でよくアジア人女性では得られにくい
・今後はBP製剤のDrug holidayの最適期間や骨粗鬆症治療薬の使用順序に焦点を当てた研究が必要

【JC】80歳以上の高齢者で複数降圧剤内服者は安全に減薬できるか? (JAMA. 2020 May 26;323(20):2039-2051.)

Medication use quality and safety in older adults: 2020 update
J Am Geriatr Soc. 2022 Feb;70(2):389-397.

より紹介論文①

80歳以上の高齢者で複数降圧剤内服者は安全に減薬できるか?
(JAMA. 2020 May 26;323(20):2039-2051.)


というテーマの論文紹介

①Effect of antihypertensive medication reduction vs usual care on short-term blood pressure control in patients with hypertension aged 80 years and older: The OPTIMISE randomized clinical trial (domain: deprescribing)
JAMA. 2020 May 26;323(20):2039-2051.

80歳以上の高齢者でSBPが150mmHg未満
2種類以上の降圧剤を内服
プライマリ・ケア医が1つ以上の理由(ポリファーマシー,併存疾患,アドヒアランス)で減薬が適切と判断した患者が対象

無作為に減薬の有無にわけられた
主要アウトカムは12週間後のフォローアップ時にSBP 150mmHg未満の達成

参加者の平均年齢は84.8歳
48.5%が女性

主要アウトカムである12週間後のフォローアップ時にSBP 150mmHg未満の達成率は有意差なし(介入 86.4% vs 比較 87.7%,aRR 0.98)
66.3%の患者で12w後で減薬が維持された
フレイル,QoL,有害事象いずれにおいても有意差がなかった
SBPの変化の平均は3.4mmHg
DBPの差は有意ではなかった

研究の強みは94%という高い完了率とオーダーメイドのケアを可能にした実践的な内容ということ
研究の限界として患者群は高度に選択され,登録されたのは10人に1人でしかないこと(ただし解析結果上はプライマリ・ケアの一般集団と同様)。安全性や患者中心のアウトカムはパワー不足の可能性がある。わずかなSBP上昇が心血管系の転機に関連するかはより長期のフォローアップが必要。

Interpretation and implications
・複数の降圧剤を内服している高齢者でポリファーマシー,併存疾患,アドヒアランスなどの理由で減薬が適切と判断した患者では血圧コントロールにあまり変化がなく減薬を達成することができる
・ただし介入群のうち減薬が維持できたのは2/3なのでフォローアップは注意深く行う必要がある
・高齢者,特に多併存やフレイル患者の目標降圧や降圧薬の長期安全性に関してはわからないことが多い
・降圧のリスクがベネフィットを上回ると考えられる高齢者では,患者さんが自分のケアについて十分な情報を得た上で決定できるようにSDMを活用することが推奨される