ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC】せん妄の重症度とその評価ツール CAM-S

低活動型が予後悪い、くらいで、せん妄の重症度、という視点が自分になかったことをJAMAのレビューを読んで気づき少し深堀りしてみました
 
・せん妄の重症度と期間は色々な予後(死亡,自宅退院,身体機能低下,認知機能低下)に関連している
・CAM-Sは重症度の指標に有用
・CAM-SのShort versionはCAMの4項目で構成されている
 
ということで診断も大事なせん妄ですが、重症度評価、も大事という学びでした
 
 
The association of delirium severity with patient and health system outcomes in hospitalised patients: a systematic review Age Ageing. 2020 Jul 1;49(4):549-557.

このシステマティックレビューでは
 
・せん妄の重症度がICU在院日数と自宅退院割合と関連に強いエビデンス
・せん妄の重症度死亡率,入院期間,身体能力,認知能力,苦痛,QoLに関しては結論がでない
 
としています
 

Assessment of Instruments for Measurement of Delirium Severity: A Systematic Review
JAMA Intern Med. 2019 Feb 1;179(2):231-239.

そして,せん妄の重症度の評価に関するシステマティックレビュー
以下の6つの尺度が有用だろうという結論

Confusion Assessment Method-Severity Score
Confusional State Examination
Delirium-O-Meter
Delirium Observation Scale
Delirium Rating Scale
Memorial Delirium Assessment Scale.
 

Quantifying the Severity of a Delirium Episode Throughout Hospitalization: the Combined Importance of Intensity and Duration
J Gen Intern Med. 2016;31(10):1164–1171.
 
そして後述するCAM-Sというせん妄の重症度評価を用いて行われた前向きコホート研究
せん妄の重症度も期間も30dと90dのアウトカム(死亡,施設入所)と関連したという報告

なので、当たり前といえば当たり前かもですが
せん妄の「重症度」も大事だということになります
 
 
□Confusion Assessment Method-Severity(CAM-S) Score
 
Confusion Assessment Method-Severity Score
CAM-Sに関して調べてみようと思います
 
 
The CAM-S: development and validation of a new scoring system for delirium severity in 2 cohorts
Ann Intern Med. 2014;160(8):526–533

Confusion Assessment Method-Severity/CAM-Sの検証した研究

CAM-SはCAMの内容を点数化して評価します
Short formは4つの質問,Long formは10の質問で評価します
 
Short form 1点が軽症2点が中等症3-7点が重症
Long form 2点が軽症3-4点が中等症5-19点が重症

外科患者と内科患者の両方を対象に独立したコホートで行われた
CAM-S short formのDataのみ抜粋せん妄患者は19%
CAM-Sの平均スコアは1.24

結果として...
 
✓すべての院内転機(入院期間,入院中のコスト,療養施設への入所,身体機能低下,認知機能低下)と有意な相関があった
 
・コントロール(n=598)の入院期間は6.5d、療養施設への入所は11%。身体機能低下は36%、認知機能低下は16%
・軽症(n=91)の入院期間は8.8d,療養施設への入所は16%,身体機能低下は51%,認知機能低下は26%
・中等症(n=128)の入院期間は11.1d,療養施設への入所は26%,身体機能低下は63%,認知機能低下は27%
・重症(n=102)の入院期間は12.7d,療養施設への入所は39%,身体機能低下は68%,認知機能低下は65%

✓すべての病院後の転記(90d以内の死亡,最初の90d以内のコスト,死亡ないし90d時点での入所,30d時点での機能低下)に有意に関連があった

・コントロール(n=598)の90d以内の死亡は7%,死亡ないし90d時点での入所は15%,30d時点での機能低下は29%
・軽症(n=91)の90d以内の死亡は15%,死亡ないし90d時点での入所は33%,30d時点での機能低下は41%
・中等症(n=128)の90d以内の死亡は16%,死亡ないし90d時点での入所は40%,30d時点での機能低下は45%
・重症(n=102)の90d以内の死亡は27%,死亡ないし90d時点での入所は51%,30d時点での機能低下は52%

ということでCAM-S short formは様々な転機に関連していたという報告でした
Long formでも同様の結果がでています


◯CAM-Sに関して

CAM-Sに関してはこのサイトにShort form,Long formどちらもあります
 

1.急性発症と変動する経過
a)患者のベースラインから急性に精神状態が変化した証拠があるか? orb)異常行動は日中変動があったか,出たり消えたり,重症度が変化したか
No 0 Yes 1

2.気が散りやすい、話の内容を把握するのが難しいなど、注意の集中が困難であったのか?

No 0 Yes(mild) 1 Yes(Marked) 2

3.思考の障害/患者さんの思考は、とりとめのない会話、不明確なアイデア、非論理的な流れ、予測できない話題の切り替えなど、混乱したり支離滅裂になっていましたか?

No 0 Yes(mild) 1 Yes(Marked) 2

4) 意識障害
全体として、患者さんの意識レベルをどのように評価しますか?

正常:0 元気または無気力:1 混迷または昏睡:2

最大7点で1点が軽症,2点が中等症,3-7点が重症
 

◯まとめ
・せん妄の重症度と期間は色々な予後に関連している
・CAM-Sは重症度の指標に有用

ということで診断も大事なせん妄ですが、重症度評価、も大事という学びでした

【JC】せん妄 JAMA. 2017; 318(12): 1161–1174.  

Delirium in Older Persons

JAMA. 2017;318(12): 1161–1174.  
 
2017年のレビューで過去6年をまとめたもの...なので少し古いかもですが最近読んでみてとても勉強になりました😊
 
抜粋して箇条書きにしてみました
 
原著のアルゴリズムは非常にわかりやすくまとめられているので興味ある人は是非原著を一度見ること推奨です😊
 
ざっくりまとめると診断と治療に関しては
 
・3D-CAMと4-ATという優秀なスクリーニングツールがでてきた
・CAM-Sという重症度評価ツールが出てきた
・非薬物療法による多因子介入が予防に有用
・薬剤での予防は抗精神病薬に関しては否定,一部の薬剤が効果があるかもしれない
抗精神病薬での治療はメリットがデメリットを上回らない
 
という状況のようです
 
3D-CAMと4-ATに関して興味ある人は是非こちらもご参照ください😊
 
 
 
□本文抜粋
 
・せん妄には、低活性型と高活性型がある。低活動型は高齢者に多く、しばしば認識されず、合併症や死亡率の上昇につながる。
・診断にはベースラインの精神状態と変化を判断することである
・通常は数時間〜数日にわたって生じる
・注意力障害はせん妄では高頻度でみられるが認知症後期でもみられる
・意識レベルの変容は認知症,うつ,精神病ではあまりみられないせん妄特有の症状である
 
・検査は病歴や身体診察から得られた情報に基づいて行う
・せん妄は多因子であり、多くの素因(高齢,認知機能障害,併存疾患)と促進因子(感染症,代謝異常,薬剤)など様々なものの影響をうけることにも留意するべきである
 
・せん妄と認知症は共存することが多い。せん妄と認知症を診断的に区別することだけでなく、せん妄が既存の認知症と重なっている場合、認知症単独の場合と比較して、認知・機能低下の速度が速く、入院期間が長くなり、再入院、施設入所、死亡率が高くなるという予後に関連することを認識することが大切である。
 
□臨床診断
 
・CAMのアルゴリズムは,せん妄の4つの特徴(急性発症,症状の変動,注意力障害,思考の混乱または意識レベルの変化)の存在に基づいており,高い感度(94%-100%),特異性(90%-95%),および評価者間信頼性(κ=0.92)を誇る
・様々なスクリーニングツールがあるが,その中でも3D-CAMと4A's テスト(4AT)は診断精度の報告基準で高い評価を得ている。
・3D-CAMは,CAMの4つの中核的な特徴を評価するための簡単なアセスメント(3つの方向性項目、4つの注意項目、3つの症状プローブ、10の観察項目)で,入院患者の前向き検証試験において臨床参照基準の評価と比較して,95%の感度と94%の特異性がある(Ann Int Med. 2014;161(8):554–561.)
・4A's テスト(4AT)はツールも簡潔で実施しやすく,感度は89.7%,特異度は84.1%である。スコアによっては詳細な評価が推奨される。(Age Ageing. 2014;43(4):496–502)
・Nu-DESCは感度72%特異度80%(Br JAnaesth. 2013;111(4):612–618.)
・覚醒,鎮静,意識レベルを測定するModified Richmond Agitation and Sedation Scale(mRASS)は,感度が64-70%でありせん妄のスクリーニングツールとしては推奨されない
 
  せん妄 認知症 うつ 精神病
意識状態の急な変化 + - - ±
注意力障害 + ± ± ±
意識障害 + - - -
支離滅裂な思考 + ± - +
精神運動活動の障害 + ± + +
慢性経過 ± + + ±
 
 
□せん妄の重症度
 
・せん妄の重症度測定は,臨床経過と回復へのフォロー,治療への反応のモニタリングのために重要。
・せん妄の重症度測定にはDelirium Rating Scale-Revised-98(DRS-R-98)およびMemorial Delirium Assessment Scaleが広く用いられてきた。
 
・Confusion Assessment Method-Severity(CAM-S)が開発された。これは、CAMの短いバージョンまたは長いバージョンをベースにした新しいスコアリングシステム
・2つのコホート合計1219人以上の患者を含む質の高い検証研究では、CAM-Sが入院期間,入院費用,老人ホーム入居,死亡などせん妄に関連する重要な臨床結果に対して高い予測妥当性があることが示された(Ann Intern Med. 2014;160(8):526–533)
・入院期間中のCAM-Sスコアの合計など、強度と期間の両方を含むエピソードの重症度指標が、30日および90日の病院後の転帰と最も強い関連を持つことが示された(J Gen Intern Med. 2016;31(10):1164–1171.)
 

Delirium Observation Screening scaleは、看護師による新しいせん妄の測定法で、DRS-R98得点と強い相関があるが、検証試験はまだ終了していない。(Int J Geriatr Psychiatry. 2011;26(3):284–291.)

 

□Advances in Prevention and Treatment
 
 
2014年、米国老年医学会と米国外科学会は、術後せん妄の予防と治療に関する臨床実践ガイドラインを共同で発表した(Table 3)(J Am Geriatr Soc. 2015;63(1):142–150)
 
ここには 新たに
 
・低活性型せん妄に対する薬物治療の回避(BZOと抗精神病薬)
・アルコールまたはベンゾジアゼピン系薬剤の離脱症状を除くせん妄治療へのベンゾジアゼピン系薬剤の使用回避
 
が追加された
 
Table 3: American Geriatrics Society Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Treatment of Postoperative Deliriumaより一部抜粋
 
 
□強く推奨
✓リスクのある患者に対して予防のための多因子非薬物的介入:早期離床,身体抑制を避ける,見当識を入れる,睡眠衛生,適切な酸素と水分と栄養
✓教育プログラム
✓疼痛管理(できれば非オピオイドによる治療)
✓避けるべき薬剤(高用量オピオイド,BZO系薬剤,抗ヒスタミン,ジヒドロピリジン)
コリンエステラーゼ阻害剤は、術後せん妄の予防や治療のために新規に処方すべきではない。
ベンゾジアゼピン系薬剤は、せん妄に伴う興奮の第一選択薬として使用すべきではない。
ベンゾジアゼピン系薬剤と抗精神病薬は、低活動性せん妄の治療には使用しない方がよい。
 
□弱く推奨
 
✓治療のための多因子非薬物的介入:早期離床,身体抑制を避ける,見当識を入れる,睡眠衛生,適切な酸素と水分と栄養
抗精神病薬は最小量で最短期間でひどく興奮したり,苦痛だったり,自傷他害の恐れがある場合に使用する
 
 
 
・多因子の非薬理学的アプローチによる一次予防は、入院中のICU以外の内科および外科患者のせん妄予防に最も効果的な戦略であることが一貫して実証されている。
・これらの予防戦略には,早期の離床,十分な水分補給,睡眠の強化,時間や場所への適応,回想法などによる認知刺激のため,必要に応じて補聴器や視覚補助具を使用した聴覚や視覚の最適化が含まれる。
 
 
Table 4 : Multicomponent Nonpharmacologic Approaches to Delirium Prevention
 
オリエンテーションや治療的な活動:照明,標識,時計などの設置。時間,場所,役割などオリエンテーションをいれる。認知を刺激するような活動(回想法)を導入する。家族や友人の定期的な訪問を促す。
✓水分補給,栄養補充,早期離床
✓視力や聴覚の補助
✓睡眠の強化:可能であれば睡眠中の医療行為や看護行為は避ける。睡眠を妨げないような服薬スケジュールを組む。夜間の騒音を減らす。
✓感染予防:不必要なカテーテルの会議,感染予防の実施
✓疼痛管理
✓内服管理/再評価
 
 
・通常、せん妄は複数の要因によって引き起こされるため、効果的な予防戦略は多職種チームによってまとめて(通常一度に3つ以上)実施される必要がある。
・Hospital Elder Life Programに基づく14の介入研究のメタアナリシスでは、これらのアプローチにより、ICU以外の65歳以上の入院患者のせん妄発生リスクが53%,転落リスクが62%有意に減少している(JAMA Intern Med. 2015;175(4):512–520. )
・しかし,せん妄の予防に関するCochraneレビューでは,16,082人の患者を含む39の臨床試験を検討し,多成分の非薬理学的介入はせん妄の発生予防に有効だが,せん妄の重症度または期間の減少にはそれほど強固ではないという中程度の質のエビデンスを見いだしている(Cochrane Database Syst Rev. 2016;3:CD005563)
 
・また,非薬物療法によるせん妄予防のアプローチは長期療養,がん患者,終末期疾患では,これらの介入によるせん妄予防の効果はより限られていた(Cochrane Database Syst Rev. 2014;(1):CD009537.)
 
・老年医学コンサルティングによるアプローチの成功は、コンサルタントが行った勧告を医療従事者が遵守するかどうかにかかっている(Lancet. 2014;383(9920):911–922)

・最近のCochrane reviewでは、16歳以上の入院中のICU以外の内科・外科の成人患者を対象としたせん妄予防のために抗精神病薬は有益性はみられていないことが認められた(Cochrane Database Syst Rev. 2016;3:CD005563.)
・同メタアナリシスから,コリンエステラーゼ阻害剤,メラトニン,メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)など、せん妄を予防するための薬剤の使用を支持するわずかなエビデンスが見いだされた(Cochrane Database Syst Rev. 2016;3:CD005563)
 
 
□Treatment
 
・近年の研究では、せん妄の治療に対する非薬物的アプローチを検討したものはほとんどなかった
・療養施設におけるせん妄と治療のための修正HELPプログラムがパイロット研究で実行され高い満足度と入院率の減少をしめしている(J AmGeriatr Soc. 2016;64(5):1108–1113.)
認知症に重なるせん妄に対して、急性期後のケアで認知刺激のために回想法のような日常的な治療活動を用いた最近の臨床試験では、せん妄の期間や重症度に対する効果は認められなかったが、実行機能の有意な改善と入院期間の短縮が証明された。(J Am Geriatr Soc. 2016;64(12):2424–2432.)
・せん妄専用の部屋や睡眠改善に焦点を当て、耳栓、明るい光療法、睡眠プロトコルを用いてせん妄の治療を行っているが、その結果はさまざまで限定的であった(Crit Care. 2012;16(3):R73.Gen Hosp Psychiatry. 2012;34(5):546–551.)
 
・薬剤に関しては,ほとんどの研究では,抗精神病薬によるせん妄の持続期間や重症度の減少の効果は認められていない。
・近年のシステマティックレビューでは、リスペリドン経口剤、オランザピン経口剤、セロクエル経口剤、ジプラジドン筋注、ハロペリドール経口剤、静注、筋注などの抗精神病薬を検討し、入院高齢者のせん妄の治療(あるいは予防)に抗精神病薬を使用することは現在のエビデンスでは支持できないと結論づけている。(J AmGeriatr Soc. 2016;64(4):705–714)
 
□Key Point
 
高齢者のせん妄の診断,予防,管理について6年でどのような進歩があったか?
 
・せん妄の認識とリスク層別化のための簡単なスクリーニングツールおよび改良されたせん妄重症度測定ツールが開発された。
・非薬物的な多成分戦略によるせん妄予防は有効である
・せん妄の薬理学的管理については、有益性が有害性を上回らない。安全性のリスクを伴う重度の興奮状態にある患者以外には控えることが推奨される。
 
 
 
 

【JC】低Na血症(JAMA. 2022;328(3):280-291)

Diagnosis and Management of Hyponatremia: A Review
JAMA. 2022;328(3):280-291
 
少し前に当院のJCで話題になった論文
 
転倒はしっていたんですが低Naが思った以上に高齢者医療の敵!?で骨粗鬆症や認知機能や歩行障害との関連までは知らなかったので勉強になりました
 
自分の興味あるところだけPICKUPしてまとめてみました(Selection biasすみません!!)
 
原著はかなりしっかり書いてあるので興味ある人は是非原著読破推奨です
 
 
✓低Na血症はNa135mEq/L未満(125未満が重症,125-129は中等症,130-134は軽症)
✓成人の5%,65歳以上の20%,入院患者の35%,心不全患者の30%,がんや肝硬変の50%
✓低Na血症は高齢者において転倒だけでなく骨粗鬆症,骨折,認知症,歩行障害に関連に関連
✓循環量減少性低ナトリウム血症の診断において身体所見は感度 50~70% および特異度 30~50% と精度が低い。
✓そのため尿浸透圧と尿中ナトリウム濃度を測定が重要。ただし,Na摂取量,関連する疾患(腎臓や心疾患),利尿剤で修飾をうける
✓尿中Na濃度が30mEq/L以上であれば、腎臓からのNaの喪失を示唆し、30mEq/L未満であれば、腎臓以外からのNaの喪失を示唆する。
✓尿浸透圧100 mOsm/kgは尿比重1.003に、300 mOsm/kgは尿比重1.010に、500 mOsm/kgは尿比重1.020に近似。
 
✓追加の検査は、低ナトリウム血症の重症度に基づいてではなく、疑われる基礎疾患に基づいて実施されるべきである。
✓SIADHの診断は正常Volumeの低Na血症,不適切な濃縮尿(尿Osm 100mOsm/Kg,尿比重 1.003以上),高Na尿症(尿Na 30mEq/L以上),甲状腺/副腎/腎機能の障害がない
バソプレシンレベルの測定は、低ナトリウム血症の病因の評価には有用ではない。
✓SIADHの評価でルーチンの画像診断を支持する質の高い証拠はない。低ナトリウム血症の原因を診断するには、病歴、身体診察および初期臨床検査からの情報で通常十分である。ただし 1 つ以上の原因が存在することもある
原発性多飲症による低Na血症の人は52%に精神疾患,15%に過剰水分摂取につながる内科疾患があったが31%は併存疾患がないという報告がある
 
□浸透圧性脱髄症候群関連メモ
・慢性低Na血症の急激な補正により生じる
・12mEq/d以上、稀に10mEq/d以上の補正で生じる
・1-7dと少し遅れて発症する
・そのため、重度低Na血症による意識障害→急速補正で意識が改善→急速補正による弊害で浸透圧性脱髄症候群が発症し神経障害がでる、という二相性の経過をたどる
・浸透圧性脱髄症候群の症状はパーキンソニズム,Lock in,四肢麻痺,意識障害...etc
・浸透圧性脱髄症候群発症のリスクにはNa<110mEq/L,アルコール使用障害,移植後患者,K欠乏,栄養失調など
 
 

アメリカの重症低Na血症のガイドラインの治療

高張食塩水の治療適応
重篤な症状を伴う場合(傾眠,痙攣,心肺障害)
→中等度の症状(嘔吐や混迷)があり生命を脅かす合併症に進行するリスクが高い
Naの補正速度は4-6mEq/Lを1-2時間
3%食塩水の治療レジメンの推奨
→100mlを10分以上かけてボーラスで投与
→目的のNa濃度達成までは3回まで
Naのフォローは最初の24hは4-6h毎
超えてはいけない補正ライン
→最初の24時間で10mEq/L
→最初の48時間で18mEq/L
脱髄リスク高い人は8mEq/24h

□ヨーロッパの重症低Na血症のガイドラインの治療

Naの補正速度は5mEq/Lを1-2時間
3%食塩水の治療レジメンの推奨
→150mlを20分以上かけてボーラスで投与
→目的のNa濃度達成までは2回まで
Naのフォローは最初の24hは6h毎

【JGFM アクセプト】尿管結石疑いの症例においてCVA叩打痛は診断に有用なのか?



尿管結石疑いの症例においてCVA叩打痛は診断に有用なのか?

 
というCQからの
 
ポートフォリオ→PC学会発表→JGFM preliminary report
 
という、後輩指導でいつかはできたらいいなとおもっていた道がうまくいきました
 
頑張った樋口先生おめでとうございます
御指導いただいた弘重先生ありがとうございました
 
そして何よりも、JGFMの査読が神すぎて、運の良さを実感せざるをえませんでした。。。
非常に良くしていただき本当にありがたかったです😂
 
結論としては、単一ではあまり診断に寄与しない、という結果ではあるのですが、そうはいってもFocusの絞り込みや腎臓ないし周辺臓器に原因があることが多いことは間違いないので、引き続き日常診療で使っていきたいと思っています😊
 
詳細はPublish後にまた御報告させていただきます
 

【JC】HFpEFでの塩分制限に関して(Heart. 2022 Jul 18;heartjnl-2022-321167)

塩分制限にこだわっているわけではなく最近これ系の発表が多いだけに違いないと思いつつ...HFpEFでの塩分制限に関して否定的な研究が出たので読んでみました😊
 
Salt restriction and risk of adverse outcomes in heart failure with preserved ejection fraction
Heart. 2022 Jul 18;heartjnl-2022-321167
 
 
背景で述べられている概要
 
心不全では塩分制限が推奨されている
✓この塩分制限は観察研究に基づいたもので質の高いものではない
心不全患者でNa摂取制限の有害をしめすRCTがある
✓近年のSODIUM-HF試験(Lancet 2022;399:1391–400.)でも塩分制限と臨床的な転機に関連性はなかった
✓これらの研究でそもそもHFpEF患者は除外されることが多い
 
ということでHFpEFを対象としたTOPCAT試験( N Engl J Med 2014;370:1383–92.)のデーターを元に塩分制限の妥当性を確認した研究
 
50歳以上でEF45%以上の心不全患者が対象
1713人が最終的に解析対象
 
気になる塩分摂取量は患者の自己申告を元にした"Cooking salt score"で算出
Cooking salt scoreは調理時に加える塩分量を聴取し,食べ物4種類の合計とした
 
なし:0点
小さじ1/8:1点
小さじ1/4:2点
小さじ1/2以上:3点
 
主要アウトカム:心血管死亡,心不全の入院,蘇生に成功した心停止の複合アウトカム
副次アウトカム:全死亡,心血管死亡,入院
 
比較: Cooking salt score 1点以上
コントロール: Cooking salt score 0点
 
結果は...
 
Cooking salt score 1点以上の群のほうが
→主要アウトカム/複合アウトカムのリスクが低かった(HR 0.760, 95%CI 0.638-0.906)
心不全入院が少ない(HR 0.737, 95%CI 0.603-0.900)
→心血管死(HR 0.782, 95%CI 0.598-1.020)と全死亡(HR 0.838, 95%CI 0.684-1.027)は有意差にはいたらず
 
 
傾向スコアマッチの感度分析でも同様の結果
自宅で食事を用意する人の解析でも同様の結果
サブグループ解析では70歳未満と非白人でより塩分制限による悪影響がおきやすい傾向にあった
 
という結果でした。
 
で、1日何gなの?というのは不明で、Limitationには
 
「塩分摂取量に関しては自己申告なので想起バイアスが入る」
「尿中Na排泄のデーターがない」
 
という記載でした。
 
中国の研究なので塩分量が日本に近いかなとか期待してしまったので、塩分量が不明なのは残念ですが、HFpEFでの塩分制限の研究でした😊
 
個人的には今後の方向性として、フレイル心不全患者での塩分制限の研究に密かに期待しています😊
 
心不全の塩分制限に興味ある人はこちらもぜひ御参照ください
 

【JC】脳卒中後のうつは過小治療かも(Neurology. 2022; 98(22): e2258–e2267.)

既往脳卒中...というとどうしても身体機能面のほうに目がいきがちになってしまうのでこういう視点は大事だと再認識した論文でした😊
 
脳卒中後のリハビリがうまくのらない人で低活動型せん妄とうつの鑑別は病棟管理では結構大事かなというのと、別の視点にはなりますがこういうのをカバーする上でも高齢者総合機能評価/CGAは大事かなとか密かに思ってます😊
 
今回の文献の前の背景論文の1つ

Comparison of Treatment Rates of Depression After Stroke Versus Myocardial Infarction: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Data
Psychosom Med. 2018 Oct;80(8):754-763.
 
ステマティックレビュー&メタアナ
脳梗塞後のうつの発症率は34%
脳梗塞後のうつに対して抗うつ薬が使用されているのは24%
心筋梗塞後のうつの発症は24%
心筋梗塞後のうつに対して抗うつ薬が使用されているのは14%
心理社会的介入に関しては10%以下だった
 
脳卒中心筋梗塞後のうつ病の頻度は高く、未治療のままであることが多い、という背景からの論文になります
 
 

Trends in Outpatient Treatment for Depression in Survivors of Stroke in the United States, 2004–2017

Neurology. 2022 May 31; 98(22): e2258–e2267.
 
Introより
 
脳卒中後のうつ病の有病率は、最初の1年間は29%~33%、それ以降は約25%で安定している
・うつの併存は脳卒中の回復を妨げ、死亡リスクを増加させる
・しかし、脳卒中の患者さんでは、うつ病の治療がほとんど行われていない
・既存のエビデンスはヨーロッパや西太平洋地域で実施されていて米国では近年の変化も含めてわかっていない
・そのため、2004年から2017年までの米国の脳卒中生存者のデータを用いて調査した
 
■Result(抜粋)

脳卒中生存者においてうつの治療(薬物・非薬物)をうけた割合の報告は2005年の17.7%から2016年の16.0%と有意な変化はなかった
PHQ-2のスクリーニング施行率は95.5%で陽性と判定される割合も変わりなかった。
PHQ-2でうつ病スクリーニング陽性と判定された患者のうち64%が1年治療をされていなかった
 
治療は女性で若年ほど治療を受ける割合が高い(高齢で男性だと治療を受けにくい)傾向があり10年で変化はなかった
 
治療は18.6%が1回以上の心理療法,93.8%がなんらかの薬剤治療,15.6%で心理療法と薬剤の併用だった。
薬剤は抗うつ薬(85.1%),抗不安薬/鎮静薬(15.2%),抗けいれん薬(11.3%),抗精神病薬(8.8%)で特に変化はなかった。
心理療法をうけた割合は13.8%から24.4%と10年の変化で増加した。(aOR 2.26)
 
脳卒中生存者の外来は89%が医師によってフォローされている。
うつの治療を行っているのは主に精神科医とプライマリ・ケア医であった。
精神科医による治療を受けた割合は増加傾向にあった。



ということで米国での研究ではありますが、脳卒中の患者でうつの治療がされていない傾向はこの10年であまりかわっていない、ということでした。
PHQ-2のスクリーニング率すげぇ...とおもいつつ、自分のこれまでの症例でも漏らしていた症例がきっとあったのではないかと振り返り中です。。
 
 
脳卒中後のリハビリがうまくのらない人で低活動型せん妄とうつの鑑別は病棟管理では結構大事かなというのと、別の視点にはなりますがこういうのをカバーする上でも高齢者総合機能評価/CGAは大事かなとか密かに思ってます😊
 

【JC】急性めまいに対する抗ヒスタミン vs BZO (JAMA Neurol. 2022.)

急性めまいに対する抗ヒスタミン vs BZOのシステマティックレビュー&メタアナリシスです。

 

・単回投与2時間後の症状緩和は抗ヒスタミン>BZO

・抗ヒスタミンの連日投与は1週間後のめまいの改善と関連がない

 

という結果でした

帰宅時処方でトラベルミンなどの薬を処方するときは定時より頓服のほうが良いのかな?とか悩み中です。

 

Efficacy of Benzodiazepines or Antihistamines for Patients With Acute Vertigo: A Systematic Review and Meta-analysis
JAMA Neurol. 2022 Jul 18.
 doi: 10.1001/jamaneurol.2022.1858

 
急性のめまいの全てに診断がついたり、BPPVで耳石置換がうまくいくわけではない
(メイロンでもアデホスでもなく)急性めまいの症状緩和では前庭抑制薬として(第一世代)抗ヒスタミンベンゾジアゼピン系薬剤が処方されることが多い
 
今回は両薬剤の有効を比較したシステマティックレビュー&メタアナリシス
Primary Outcomeは治療開始2時間後のめまい症状変化
Secondary Outcomeは治療開始2時間後の嘔気症状の変化とレスキュー使用,1w後と1m後の症状改善
 
結果
 
Primary Outcomeは治療開始2時間後のめまい症状変化に関して,単回投与の抗ヒスタミン薬は,ベンゾジアゼピン系と比較して,100ポイントのVASスコアで有意に多くの改善効果を示した(16.1ポイントの差)が,他の活性比較薬との差はなかった
 
1週間後と1か月後では、ベンゾジアゼピン系薬剤と抗ヒスタミン剤のいずれもプラセボより優れていなかった
 
2時間後の即効性を比較したRCTはバイアスのリスクは低かった
1週間後と1か月後を比較した研究はバイアスのリスクが高かった
 
結論
 
✓中等度のエビデンスで抗ヒスタミン単回投与はベンゾジアゼピン系薬剤の単回投与よりめまいの軽減作用があある
ベンゾジアゼピンの使用は急性めまいのいかなる転機の改善と関連がない
✓抗ヒスタミンの連日投与は有益ではない可能性がある