ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

ケース流し読み 20代女性 進行性の呼吸苦

□ケース流し読み 20代女性 進行性の呼吸苦

※注意:ネタバレ含みますので注意してください

2019年4月のClinical Problem SolvingのA Dangerous Detour(N Engl J Med 2019;380:1360-5.)

T細胞性急性リンパ芽球性白血病治療中(PSL+ビンクリスチン+ドキソルビシン+MTX+アスパラギナーゼによる化学療法+全脳照射など)の26歳女性,CVポートがあり肺塞栓に対してエノキサパリンを行なっている。
進行性の呼吸苦で受診。

呼吸不全は仰臥位で改善(扁平呼吸)
診察上は肺雑音はなく、吸気で増悪する収縮期雑音がある
JVPは6cm程度で下肢の浮腫や把握痛はない

という症例でした。

・吸気で増悪する収縮期雑音→TR?→肺高血圧?(ただし右心不全兆候はない)
・ドキソルビシンの治療歴→心筋症?
・治療抵抗性の肺塞栓?
・扁平呼吸の鑑別セット

などを考えながら読んでました。「担癌患者の肺病変が明確ではない呼吸苦」というと肺塞栓,PTTM,癌性心膜炎あたりを鑑別セットにあげるようにしているのですがPTTMのほとんどは腺癌由来っぽいので考えなくてよさそうです。

扁平呼吸は起座呼吸の逆で立位で増悪し,臥位で改善する呼吸苦になります。姿勢によるSpO2の変化があれば診断してよいことになっており,これがあると鑑別がグッと変わるので臨床的に結構大事だと思っています。扁平呼吸をみたら卵円孔開存(PFO)などの心臓内シャントか肺内シャントによる換気血流ミスマッチを考えるのがよいとされています。

そのほか読んで勉強になったのが...

□解説抜粋

・エノキサパリン治療下で早期の再発性静脈血栓塞栓症は稀、鑑別診断を再考慮したほうがよい
・アントラサイクリン系の化学療法があれば心毒性を考慮する。リスクは高齢,女性,心疾患の既往,累積投与量(300mg/m2)。(なのでこの症例は投与量から可能性は低い)
・低酸素血症には5つのメカニズムがある
1.中枢神経疾患や筋疾患による低歓喜
2.吸気の酸素濃度が低い(高地など)
3.換気血流ミスマッチ
4.シャント
5.拡散障害
この症例は肺疾患の可能性が低く低換気や心不全の兆候もない。そのため鑑別診断は肺血管疾患やシャントになる。

原発性のTRはまれだが中心静脈カテーテルは三尖弁損傷のリスク。
・卵円形開存自体は25%以上にあるっぽいがそれだけでは扁平呼吸にはならない。解剖学的な異常や機能的な異常が必要。大動脈瘤,心嚢液,肺疾患,手術歴などで解剖学的な歪みが生じれば扁平呼吸の原因になりうる。
・肺動脈カテーテルや心デバイス植え込みなどリードやカテーテルは三尖弁損傷の原因になりうる。稀に留置カテーテルが三尖弁のerosionを進行させることもある。
・陽圧換気は右左シャントの悪化を招くことがある

などなど経過や解説も含め勉強になるCPSでした。

詳しく読みたい人は...

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcps1803916

になります。

なお、このケースに試しに「isabel」を使ってみたのですがどうにもうまくいかず。。。複雑や合併症例や非典型的な症例はやはりAiの苦手どころなのでしょうか。

あとplatypnea/扁平呼吸の鑑別セットがisabelに入っていないようにもみえました。

なお、御世話になっている獨協総診メンバーと共に4-5月頃に稀な兆候の鑑別診断本を出版予定です。その中で扁平呼吸についても触れていますので是非手にとってみてください。