ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

Case:長期糖尿病の既往がある58歳男性の急性の片側性足部の熱感と腫脹

Case:長期糖尿病の既往がある58歳男性の急性の片側性足部の熱感と腫脹

※注意:ネタバレ含みますので注意してください

58-Year-Old Diabetic Man With a Warm, Erythematous Foot(Mayo Clin Proc.March 2019;94(3):526-530)

1型糖尿病がありDMTriopathy,DM足感染症の既往や慢性シャルコー関節症の既往がある58歳男性,HbA1c 6.5%
2w前にベッドから落ちて怪我をした
受診前日に自覚した右足背部の疼痛と紅斑でかかりつけ医を受診した
全身症状はなく、蜂窩織炎の判断でCTRX 1g divとAMPC/CVAを処方されたが、1週間経過しても改善がなかった

IVによる治療が必要ということで入院した。局所所見は改善せず、浮腫を伴っていた。ドップラー超音波検査上は足背までの血流に問題はなかった。
炎症マーカーはCRP 0.48mg/dl程度、レントゲンが撮像され,第5中足骨骨折が疑われた。抗菌薬を中止して1日経過を見ても特に増悪はなかった。

というような症例で何を鑑別に考えるか、という症例でした。

最終診断は急性シャルコー神経障害性関節症。

以下はMayo resident's clinicからの解説を抜粋。

発赤+紅班の足病変はアンカリングなどのバイアスをさけるために詳細な病歴と診察が必要

※別文献になりますがERでの蜂窩織炎の誤診率は30%(JAMA Dermatol. 2017 Feb 1;153(2):141-146.),入院患者で蜂窩織炎のコンサルトが皮膚科にあった症例の75%が診断が違うという報告(J AmAcad Dermatol. 2015;73(1):70-75.)もあり...蜂窩織炎の診断はかなり難しいです。。。


糖尿病性神経障害の既往があり,片側性の足部の発赤,腫脹の鑑別診断は

急性シャルコー神経障害性関節症
蜂窩織炎
骨髄炎
痛風
捻挫
敗血症性関節症
炎症性関節炎

ということでした。

解説によると...

□急性シャルコー神経障害性関節症の特徴

・リスクはCKD,長期のDM,中等度以上の神経障害,以前の慢性シャルコー神経障害性関節症の既往
・画像変化が出るには時間がかかるので診断は臨床的に行う
・好発部位は中足関節(50%),後足関節(19%),前足関節(3%)
・外傷の先行は最大50%

・全身症状は基本的にない
・局所所見での鑑別は困難。
→2℃を超える局所的な温度上昇は急性CNを示唆する
→心臓より上の場所に足をあげた後の色調変化(蒼白になる)は急性CNと感染症や炎症性疾患と区別するために有用かも。感染症痛風などでは足を挙上しても発赤は継続する。

□急性シャルコー神経障害性関節症 vs 骨髄炎

・鑑別は困難,合併することもある
・急性シャルコー神経障害性関節症では炎症マーカーはあがらないが,そもそも並存疾患があることが多いのでそれによってESRやCRPは上昇しうる
・外傷なしで骨折や骨の不整合はシャルコー関節症を示唆する
・急性シャルコー神経障害性関節症

□急性シャルコー神経障害性関節症の診断

・急性CNは80%誤診され,正確な診断まで29wかかることもある
・経験的治療を行う段階で画像診断は必須ではない
・診断遅延は不可逆的な変形,潰瘍,切断,死亡の増加につながる
・Xr/CTは初期は正常,一番有用なのはMRIMRIではStage0は炎症性足浮腫が特徴的で骨に異常はなく関節周囲や軟骨下の信号変化をきたす。(骨髄炎は単一の骨の骨髄の異常)
・修正エイヘンホルツ分類でstage0-3にわかれ,0はXr上は正常,1-3に進行するにつれ紅班/熱感/腫脹は改善し,骨の変形や融合やリモデリングは進行する
・骨スキャンは骨活性を早期に検出するが特異度が25-38%と低い,MRIの特異度は80-100%


ということでした。まとめると...

・長期のDMがあり中等度以上の糖尿病性ニューロパチーの既往がある人の蜂窩織炎様の症状の鑑別に骨髄炎と急性シャルコー神経障害性関節症を片隅に入れておく

・疑ってかからないと診断エラーをおこしうる疾患なので閾値をさげる必要がある

・急性シャルコー神経障害性関節症であれば足の挙上で発赤が消失することがあったり,2℃を超える局所的な温度上昇が所見の参考になるかもしれない
・抗菌薬の治療抵抗性でXr陰性であればMRI考慮

あたりがポイントのようです