ある病院総合診療医の備忘録+α

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

□ケース流し読み:60歳男性,10年前からの体重減少,1ヶ月前からの液体・固形物両方の嚥下障害,2日前からの呼吸困難と咳嗽

□ケース流し読み:60歳男性,10年前からの体重減少,1ヶ月前からの液体・固形物両方の嚥下障害,2日前からの呼吸困難と咳嗽


※注意:ネタバレ含みますので注意してください,また管理人の判断で情報をかなり抜粋していることを御容赦ください

今月のCPSも勉強になりました。

Repetition(N Engl J Med 2019;380:1762-7.)

14年前に冠状動脈血管形成術と白内障に対する治療歴がある60才男性,10年で84kgから48.5kgの体重減少,1ヶ月前からの液体・固形物両方の嚥下障害,2日前からの呼吸困難と咳嗽でER受診
40 pack-yearの喫煙歴あり
バイタルはBT 37.6 HR 104 BP 101/72 SPO2 85%(4Lで94%)。診察上は側頭部の痩せ,咳嗽や喀痰の分泌,発声不全,開鼻声が診察であった。両側肺底部でronchiがある。神経学的な所見では両側顔面の筋力低下(額は温存),腱反射は全体的に低下,口蓋上昇の低下があった。筋力低下はなく,筋肉の把握痛はない。

※開鼻声とは何らかの原因(口蓋裂,軟口蓋運動障害など)により、構音時に空気の流れが鼻腔に漏れてしまう状態

胸部CTでは近位食道の拡張と両側の肺底部ののGGOがあった。腫瘤性病変やリンパ節主張はない。PIPC/TAZの投与で改善し,胃管が留置され搬送となった。採血検査ではALPが270U/Lに上昇している以外に異常はなくCKも正常。前頭部の禿はあるが年齢範囲内。握ることはしっかりできて,手を離す動作に遅延はない。上部内視鏡検査では食道は正常で軽度の胃炎。嚥下評価で誤嚥が確認され,頭部,脳幹,頸部のMRIは正常。

さて診断はなんでしょうか?

という症例でした。

60才の誤嚥性(?)肺炎,側頭部の痩せ,白内障の既往などから筋強直性ジストロフィーを考えたくなる経過ですが筋力低下はなく,握ることはしっかりできて,手を離す動作に遅延はない...と合致する点と合致しない点をどう解釈するか、という勉強になる症例でした。

最終診断は遅発性筋緊張性ジストロフィー1型の診断。


筋緊張性ジストロフィーはほぼ全ての民族で発生し推定1/8000の有病率,一般的な遺伝性神経筋疾患と考えられている。タイプ1>タイプ2と考えられているが発生率や有病率は完全には定義されていない

1型に関連する症状はCTGリピート拡大の数と相関している


1000CTGリピート以上:乳児における球麻痺や成長障害
50-1000CTGリピート:小児期発症の心疾患や不整脈,遠位筋力低下,筋緊張障害
50-100CTG:早期発症の白内障,前頭禿,微妙な筋緊張
50CTG未満は通常発症しない

遅発性筋緊張型ジストロフィー1型の20%は診察時に筋力低下がない
遅発性筋緊張型ジストロフィー1型の神経外症状は白内障(75%),内分泌障害(40%),心臓の異常や伝達障害(30%)など
診断の平均年齢は筋緊張型ジストロフィー1型が26才,2型は34才
診断の遅延はよくみられ,1型は発症から診断まで7.3年,2型は14.4年。

この症例は開鼻声や喉頭挙上障害と顔面の筋力低下で口腔咽頭の嚥下障害が示唆された。口腔/咽頭部の嚥下障害は中枢神経疾患,頭頸部癌,最近の気管内挿管などだが5%は筋疾患。原因不明の口腔咽頭嚥下障害の患者ではEMGを検討する必要がある
球麻痺様症状単独で中枢神経や頭蓋内脳神経や神経筋接合部に異常がない場合は筋疾患に注意を向けるべきである。

遠位筋の筋力低下やミオトニアっぽい症状がない場合や高齢者の場合は筋ジストロフィーは考慮されにくいが,早期白内障の既往は根本的な診断の手がかりになることがある。
他の多くの遺伝性疾患と同様に筋緊張性ジストロフィーは潜行性で部分的に発症しうる遅発性の形態を持ちうる。

ということでした。その他解説で勉強になった部分は

・液体と固形の両方の嚥下障害は食道の構造上の問題というよりは食道運動障害(アカラシアなど)を示唆している。(構造上の問題であれば液体は通過可能)
・嚥下障害と呼吸困難の関連する3パターン
→嚥下障害からの誤嚥(化学性肺炎,感染症,慢性間質性肺疾患)
→強皮症であれば肺+食道を同時に障害する
→びらん性食道癌や気管支癌や感染症は隣接する内腔に浸潤し瘻孔(気管→食道,食道→気管)をきたしうる
・慢性腸官虚血が食事の調節による食事摂取量の減少として現れることがある
・びまん性の腱反射消失はCIDPなど脱髄性疾患,軸索運動性ニューロパチーや運動ニューロン疾患でも発生しうる。
・感覚障害や筋力低下がない状態でのびまん性の腱反射低下の意義は不明。
・重症筋無力症は末梢の筋力低下をきたす数ヶ月〜数年前に咽頭部の筋力低下をおこすことがある
・LESは腱反射低下と筋力低下をおこしうるが球麻痺をおこすことはめったになくほとんどは肺癌に伴って起こる。

 

他にも色々勉強になる部分もあり、いろいろな疾患のillness scriptの勉強になるCPSでした。

詳しく読みたい人は

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcps1813093

を参照ください。

とはいえ,そもそもさらっと側頭部の痩せ,発声不全,開鼻声,両側の顔面筋力低下,口蓋挙上不全がある...など記載がありますがこのへんはケースのLimiationというか実臨床でそもそもそれをひっかけられるか...というのも結構大事な気がします。

「両側の顔面筋力低下」って左右対称なので実臨床で気付けるか、というと自信ないです。

なお、少し前にERで筋緊張性ジストロフィーの人を外傷で診る機会がありました。顔貌は特徴的で糖尿病と白内障の既往があり、Percussion Myotoniaもあったのですが、遠位筋ふくめ筋力低下はなく、グーパーの動作も問題なくできていた人がいました。

UTDの筋緊張性ジストロフィーの「mild DM1」のところに

 The mild (minimal or oligosymptomatic) form of DM1 is characterized by mild weakness, myotonia, and cataracts. Age at onset is between 20 to 70 years, typically after age 40 years, and life expectancy is normal. The CTG repeat size is usually in the range of 50 to 150.

と記載がありmyotoniaや筋力低下がひっかけられなかったのは自分の診察の問題だったんだろうか?ともやもや気になる症例があったのですがこのCPSを読んで,そういうことかと納得しました。


誤嚥性肺炎」という診断はcommon故にいろいろな早期閉鎖を招くことがあるとは思うのですが,「誤嚥性肺炎」の診断で紹介を受け肺炎の診断には矛盾しなさそうだけどERのベッドサイドで嚥下評価(主にMWSTを使用しています)に全く問題はない...ということはよく経験します。

(無駄な絶食指示を出さないことはもちろん)本当に誤嚥性肺炎でいいのか?肺炎 vs 肺臓炎?嚥下機能は?誤嚥の原因は?ということを毎回毎回しっかりつめていくのは結構大事なのかなと思っています。

(誤嚥性肺炎に関して話そうとすると長くなりそうなのでこのへんで...)