ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

□ケース流し読み:53才男性 3ヶ月続く咳嗽と好酸球上昇

□ケース流し読み:53才男性 3ヶ月続く咳嗽と好酸球上昇
※注意:ネタバレ含みますので注意してください,また管理人の判断で情報をかなり抜粋していることを御容赦ください

 Case 16-2019: A 53-Year-Old Man with Cough and Eosinophilia(N Engl J Med 2019; 380:2052-2059)


HOCMの既往があり中壁切除とVTに対してICD植え込み後,他にアレルギー性鼻炎,OSAS,淋菌性尿道炎,脂質異常症の既往がありβ-blockerとスタチン内服中
3ヶ月前と10日前(中東)に渡航歴があり、3ヶ月前に東南アジアと中東にいって帰国したころから咳嗽が出現した。鎮咳薬やAZMは効果がなかった。
咳嗽と黄色〜緑色の喀痰,鼻汁,咽頭炎,前頭部の重い感じ,疲労感以外には発熱や呼吸苦や胸痛ふくめ特に症状はなかった
生まれは南アジアで生まれ,中東で育ち,米国で教育をうけ25年住んでいた

BT 37.2 HR 66 BP 122/89 RR 14 SpO2 98%
診察中にも血を含む緑色の喀痰があった
呼吸音は特に正常.3/6で収縮期雑音あり,バルサルバで増強
胸部XrとECGと心USは以前と変わりなし
ツベルクリンは陰性
糞便の寄生虫の検査,過敏性肺臓炎,アスペルギルス抗体,ガラクトマンナン,β-D-glucan,HIVは陰性
肺吸虫抗体は陰性,糞線虫抗体は陽性
L/DはWBC 11900 Eo 32% IgE 1900

診断はなんでしょうか?
という症例でした

「糞線虫抗体は陽性」ともろに書かれてしまってこれじゃダメなのかな?とか思いつつ、とりあえず読み進めてみる。

解説では...

慢性好酸球性肺炎は呼吸苦と肺の浸潤影が特徴的でしばしば喘息の既往がある。この患者はアレルギー性鼻炎の既往はあるが喘息の既往はなく、咳嗽はあるが呼吸苦はない、レントゲンも正常

EGPAは喘息や副鼻腔炎神経症状ふくめあわない
HESは除外診断が大事なので先に除外診断を
ABPAは喘息(-)アスペルギルス抗体(-)なのであわない
コクシジオイデスなどの真菌感染はEo上昇をおこすが3000は超えない。
TBも考慮するが好酸球上昇と関連することは稀

寄生虫関連

急性住血吸虫症(片山症候群)は淡水の暴露後2-12wで発症する。肺や皮膚や血管などを介して突然の発熱,咳嗽,蕁麻疹,Xrでの浸潤影,Eo上昇をおこす。2-10wで自然に治る。アジアと中東で流行している。

急性幼虫移行症(Loeffler’s syndrome)は糞線虫,回虫,鉤虫ふくむいくつかの寄生虫で肺経由の幼虫の移動でおきる自然寛解する疾患である。発熱,咳嗽,蕁麻疹は感染から1-2以内に始まる。好酸球上昇やレントゲンでの浸潤影がみられることがある。数日から数週間で改善する。

この患者は糞線虫の抗体が陽性だった。世界の中では一般的な感染症であり世界中で1億人が感染している、数十年感染する可能性がある。この患者はおそらく慢性感染である。咳嗽は糞線虫過剰感染症候群(Strongyloides hyperinfection syndrome;SHS)でなければあまり起こらない。

急性トキソカラ症(内臓幼虫移行症)の一部は発熱,咳嗽,腹痛,喘鳴,好酸球上昇をおこしうる。急性トキソカラ症は用意jに見られ汚染された土壌や生の肉の摂取でおこる

肺吸虫はの肺症状には慢性咳嗽,胸痛,胸水があがる。ほぼ全ての患者でEo上昇とIgE上昇がおこる。Xrは正常のこともあれば胸水や結節や浸潤影がみられることもある。喀痰の顕微鏡検査や血清抗体で診断する。喀痰検査で除外はできない。血清検査の感度は96%特異度は95%以上。この患者は抗体が陰性。



Tropical Pulmonary Eosinophilia/熱帯性肺好酸球増多症/TPE

リンパ性フィラリア症は東南アジアふくむ83国で推定1.2億が感染している
多くは特に症状はない

TPEはフィラリア感染者の1%未満で発症する稀な合併症でフィラリア寄生虫Wuchereria bancroftiとBrugia malayiに対する過敏反応

TPEの診断は発症数ヶ月で行われるがしばしば遅延する
TPEはインド系や東南アジア系の人によくみられる

症状は咳嗽(90%),喘鳴,呼吸苦
Xrは20%正常,間質影や網状影などをきたしうる
診断基準は流行地域の滞在歴,Eo 3000以上,IgE 1000以上,抗フィラリア抗体陽性,治療への迅速な反応など
 


この症例に対してはTPEの診断のためにフィラリアの抗体と末梢血塗抹検査を行う
慢性糞線虫症の除外は困難なので経験的イベルメクチン投与を行う
TPEの検査を行っても診断がつかなければ胸部CTを行い肺の好酸球性疾患や他の寄生虫を考えるということでした
 
その後の経過は...
 
便と喀痰の検査は陰性
末梢血塗抹も陰性
フィラリア抗体は強陽性
ほかに住血吸虫と糞線虫の抗体も陽性
 
TPEっぽいが住血吸虫と糞線虫の同時感染の除外はできなかった
イベルメクチンの投与とTPEの治療が行われ改善した
再発は20%でおこりうるが他の国に移住したためフォローはできなかった
という結果でした。TPEを日本でみることがあるか...というと稀な気がしますが(Googleで日本語で検索したら1例HITしました)、診断までのプロセスや鑑別が勉強になりました。


●Table2:好酸球上昇+呼吸症状(N Engl J Med 2019;380:2052-9.)

□Primary
全身性疾患:EGPA,HES
肺疾患:急性 or 慢性好酸球性肺炎

□Secondary
感染症
寄生虫:肺吸虫症,熱帯性肺好酸球増加症(リンパ性フィラリア症),回虫,鉤虫,糞線虫などの急性幼虫移動症(Loeffler’s syndrome),住血吸虫症(片山病),包虫嚢胞,赤痢アメーバ症(肺肝アメーバ),播種性糞線虫,トキソカリア症(内臓幼虫移動症)
→真菌:コクシジオイデス,パラコクシジオイデス,ヒストプラズマ,ニューモシスティス,クリプトコッカス
→悪性腫瘍:白血病,リンパ腫,肺癌,その他
→薬剤や中毒:ダプトマイシン,ミノサイクリン,ニトロフラントイン,β-lactam,NSAIDs,メサラミン,スルファサラジン,DRESS,コカイン,ヘロイン
アレルギー性アスペルギルス症
膠原病/自己免疫性疾患


詳しく読みたいかたは

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcpc1900595

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