ある病院総合診療医の備忘録+α

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【ケース流し読み】54歳男性 2年続く運動で改善し夜間に増悪する腰痛

【ケース流し読み】54歳男性 2年続く運動で改善し夜間に増悪する腰痛

 

2019年9月CPS A Terminal Event(N Engl J Med 2019;381:970-6.)


※注意:ネタバレ含みますので注意してください,また管理人の判断で情報をかなり抜粋していることを御容赦ください

かなりのタフケースで読みすすめるだけでも面白かったです。

糖尿病,高血圧,GERDの既往があり韓国で生まれ26才で米国に移住した54才男性
主訴は2年続く腰痛。腰痛は半年前から痛みで夜間覚醒するようになり,運動やNSAIDsで改善,朝に1-2時腰部のこわばりがあった。他に頸部痛,右肩の痛み,胸骨の痛みがあり発熱,悪寒,体重減少,消化器症状,泌尿器症状はなかった。頻回の韓国渡航歴と30 pack-yearの喫煙歴はあるが他に特記すべき病歴はなかった。過去のMRIでは椎間板の変性と狭窄が認められた。

初回診察時は痛みで不快そうだはバイタルは正常
頸部と腰部の可動域制限,脊椎の叩打痛,有痛性歩行があるが運動や感覚や反射は正常
MRIでT2高信号を伴うシュモール結節と椎間板の変性と脊柱管狭窄が認められた。

その後も症状はどんどん増悪し,ベッドから起き上がるのも困難になり,重度の疲労や寝汗がでてきた。再度行われたMRIで椎体炎と仙腸関節炎が認められた。HIV,電気泳動,PSA,HLA-B27は正常でESRは100mm以上,CRPは6.12mg/dlと炎症反応陽性,ツベルクリンは陽性で体幹部のCTを撮像すると右上肺に2mmの結節が複数あり,脊椎の浸潤が認められた。

「痛みで夜間覚醒」「朝のこわばり」「運動やNSAIDsで改善」など炎症性腰痛の要素が全面にでているが45才以降の発症なので強直性脊椎炎としては非典型的。乾癬の所見はなく消化管症状もない。糖尿病の既往があり韓国への頻回渡航があるためTBが考慮された。無菌性椎間板炎が炎症性脊椎関節炎に伴うことがあるし,慢性ブルセラ症も脊椎炎や仙腸関節炎もきたしうるため感染症の除外が必要。(なおシュモール結節で反応性浮腫が怒ることもあるが信号変化の具合は軽度である)

結核は椎間板を含む椎体破壊をきたすことが多く,今回のMRI所見での椎間板の浮腫や終板の不規則性は脊椎椎間板炎を示唆するが糖尿病や韓国の渡航歴,ツベルクリン検査陽性,右上肺の肺結節からTBが考えられRFP+INH+PZA+EBが開始され同時に左後腸骨稜,L2/3の椎間板,L3終板のCTガイド下生検が行われたが腫瘍はなく培養,染色,結核PCRは陰性だった。

4.5ヶ月抗結核療法で症状が改善しなかったため薬は中止された。強直性脊椎炎疑いでエタネルセプトが開始された。一ヶ月後症状が改善し運動ができるようになった。その後8ヶ月でESR低下,CRP正常,MRIでの画像所見改善も認められた。消化管症状はなかったが糞便中のカルプロテクチンを測定したら103μgだった(163未満が正常)

エタネルセプト開始して14ヶ月後,重度の嚥下痛が生じ入院となった
10年来の自然に改善する口腔潰瘍の症状の病歴が得られ,診察と喉頭鏡では舌の白斑と舌,口蓋垂,口蓋,喉頭蓋に複数の浅い潰瘍が認められた。舌白斑の擦過傷で真菌はなくHSVの直接免疫蛍光検査は陰性だった。FLCZを開始しても症状は改善しなかった
性器潰瘍,皮膚症状,ぶどう膜炎,血栓症,血管炎の病歴はない
診断は何でしょうか?という症例でした


口腔潰瘍を生検したらアフタ性潰瘍の結果でステロイド外用薬で治療された
エタネルセプトを中止すると炎症反応は再燃し発熱も出現した
体幹部CTでは肺結節の増悪,回腸末端の肥厚と仙腸関節のびらんが認められた
喀痰および気管支鏡検体で細菌,真菌,抗酸菌の培養やPCRは陰性だった。上部内視鏡も正常。

回腸はリンパ組織に飛んでおり回腸壁肥厚は結核,リンパ腫,クローン病,Whipple病など多くの疾患できたしうる。リンパ腫とウィップル病は通常は脊椎の炎症を起こさず,結核に関してはこれまでの検査は全て陰性。
そんな中,血便と消化管穿孔が生じ開腹手術になった。回盲弁の15cm近くに穿孔があり,慢性的な炎症により回腸遠位部や回盲弁に肥厚や狭窄があった。回盲部切除術が行われ,肉芽種や異形成を伴わない急性と慢性の炎症所見があった。口腔潰瘍,仙腸関節炎,脊椎炎,急性と慢性の回腸部炎症によりクローン病の診断となった

色々と学ぶ点が多いCPDなのですが...コメンタリーから一部抜粋すると

・脊椎関節炎は軸関節(脊椎,骨盤,胸郭)と抹消関節(腕や足)の片方か両方に影響をあたえる慢性炎症を特徴とする疾患群。軸関節が主に関与している場合は軸性脊椎関節炎とよばれ,その基本的は強直性脊椎炎で仙腸関節のレントゲン所見が特徴的である。軸性脊椎関節炎のもっとも多い関節外症状は前部ぶどう膜炎でHLA-B27に関連している。
・末梢性脊椎関節炎は主に末梢関節を障害する。基本形は乾癬性関節炎で,乾癬性皮膚病変,滑膜園,腱付着部炎,指炎が特徴的である。先行感染後に生じる反応性関節炎は基本的に末梢関節に症状が生じる
・炎症性腸疾患の関節症状は軸性も末梢性も生じる。
・炎症性腰痛は軸性脊椎関節炎の特徴であり,潜行性発症(通常は40才未満),30分以上続く朝のこわばり,運動で改善,夜間痛による覚醒などが特徴的
・3ヶ月以上の炎症性腰痛でXrで仙腸関節炎がみられるのは48%(Ann Rheum Dis 2017;76:1502-8.)
・Xrが陰性であれば骨盤ないし症状がある領域のMRIを撮像する。MRIのTI強調は感度85%(Ann Rheum Dis 2017;76:1502-8.)
・脊椎の炎症を検出するにはSTIRが有用(この症例は変性疾患が疑われたために初期のMRIでSTIRでの撮像はなかった)

・糞便中のカルプロテクチンの検査は業者,検査室,患者の集団によって異なる。病院の正常値は163μg未満は正常だが,文献によっては腸症状のある人では50μgの閾値で炎症性腸疾患を示唆すると言う文献もある(BMJ 2010;341:c3369.Am J Gastroenterol 2015;110:444-54.)
・64人のクローン病と一致する小腸炎と脊椎関節炎がある人に対して大腸内視鏡での病変検出は11%,カプセル内視鏡は42%(J Rheumatol 2018;45:498-505.)
・エタネルセプトはいくつかの炎症性関節炎に有効だがクローンの消化管の炎症には効果がない(Gastroenterology 2001;121: 1088-94.)

などなど勉強になりました

かなり情報量の多い症例なので是非本文を!!
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcps1813698