ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

治療抵抗性の吃逆,嘔気,嘔吐(Intractable nausea, vomiting and hiccups;INH)で想起する疾患

治療抵抗性の吃逆,嘔気,嘔吐(Intractable nausea, vomiting and hiccups;INH)で想起する疾患

少し前に参加した勉強会で非常に勉強になった症例があったので追加で勉強しました

結論からいうと視神経脊髄炎スペクトラム(NMO Spectrum Disorders:NMOSD)の症例でした

NMOSDの診断基準に「最後野症状」というのがあります。

最後野は延髄の背側にありAQP4が高発現部位かつBBBがないのと,CTZ(化学受容器引金帯)があり嘔気/嘔吐に密接に関連している部位です。最後野が障害されると難治性の吃逆や嘔気(Intractable nausea, vomiting and hiccups;INH)を生じるというわけです。


NMOの非典型的な症状として

・過眠症
・難治性吃逆
・嘔気や嘔吐
・一過性の無症候性CK上昇
・痛みを伴う強直性痙攣(回復期含む)

などがあげられています(Arq Neuropsiquiatr. 2011 Oct;69(5):824-8)。ほかにMRI病変を伴うナルコレプシーや間脳症候群(日中の眠気,低体温,記銘力障害)などもコア症状の1つになっています(Neurology. 2015;85(2):177-89.)

そしてNMOSDの初期症状が難治性吃逆,嘔気や嘔吐(Intractable nausea, vomiting and hiccups;INH)で来る報告があります

●Clinical analysis of neuromyelitis optica presenting as intractable nausea, vomiting and hiccups.Int J Neurosci. 2017 Oct;127(10):854-858

119例のNMOのうちINHが初期症状で受診した12例(10%)の解析

年齢の中央値29.5才(14-56才),特に既往や先行感染なし
初期症状は8/12が嘔気,3/12が吃逆,1/12が嘔吐と腹痛
頭痛や発熱の症状はなし
視神経炎や脊髄炎の症状が出るまでの時間は20d(7-60d)
83%でAOP4抗体が陽性,脊髄液のWBCは16-68/mmでリンパ球優位
OCBは1/6で陽性

8/12で延髄病変(背内側と最後野(area postrema))
6/12で頸髄病変
3/12で脳幹と脳梁
この研究でMRI陰性患者はいなかった

ということでした。

●Area postrema syndrome: Frequency, criteria, and severity in AQP4-IgG-positive NMOSD.
Neurology. 2018 Oct 23;91(17):e1642-e1651.

さらに詳しく解析された研究がこれになります

AQP4陽性NMOSD 430人のデーターの解析になります
発症時最後野症状のみの人は7.1-10.3%,その後9.4-14.5%に発症

100人 157回の最後野症状の分析
嘔気(81%) 中央値で14d続く(2-365)
嘔吐(72%) 1日5回 1-20分,飲食がトリガーになることも
吃逆(65) 中央値で14d(2-365d)
→3h未満/d(30%),4-12h/d(27%),12h以上/d(43%)
→持続性が30%
→飲食は誘引にならない
→仰臥位で15%改善する

・最後野症状は民族や場所で特に差はない
・最後野症状の40%は他の神経症状なしで発症した
・最後野症状単独の人はよく消化器専門医に評価される.内視鏡検査,バリウム検査,腹部CTなど広範な精査を受け,よく誤診される(20%)。
・最後野症状は入院になることが多く,対症療法は効果がない(薬が効果あるのは1割)
・免疫抑制で90%が速やかに症状が消失する

□Table3:AQP4陽性における最後野症状

1.急性ないし亜急性の嘔気,嘔吐,吃逆。持続性でも間欠性でも良い。
2.48時間以上持続し対症療法が効果がない
3.他の疾患が除外されている

1-3を全部満たすのであればAQP4抗体の測定が推奨
3で調べる項目は代謝性(電解質,肝機能,腎機能),消化管,生化学,中枢神経病変,縦隔病変,片頭痛,精神疾患

ということでした。嘔気や吃逆メインだと「救急」「内科」「総合診療科」というエントリーでくるとおもうのでINH→NMOSD?という思考回路を装備してしても損はないかもしれません。


なお、変化球で帯状疱疹でINHがあるということも紹介されており勉強になりました

Persistent hiccups and vomiting with multiple cranial nerve palsy in a case of zoster sine herpete.Intern Med. 2014;53(20):2373-6. Epub 2014 Oct 15.

帯状疱疹での報告
INHの症状と片側性にⅤ,Ⅶ,Ⅷ,Ⅸ,Ⅹの麻痺あり
髄液のVZVのPCRが陽性でステロイドとACVに反応した

□まとめ

・NMOSDの初期症状として「難治性の嘔気,嘔吐,吃逆」があるが.消化器疾患と間違われやすい
・対症療法が効かず診断不明の嘔気と吃逆はNMOSDを考慮する
・変化球として鑑別に帯状疱疹もある(脳神経麻痺や皮膚症状の確認を)