ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC】高齢者起立性低血圧の非薬物療法

起立性低血圧(OH)は高齢者に多く、かつ、QoL低下、認知症、転倒、死亡...いろいろなリスクに関連しています。非薬物療法が第一選択とされて弾性ストッキングが推奨されていますが実はなにが一番良いか...などはわかっていないことが多い...ということですこし最近の文献を読んでみました。
 
 
①Acceptability of non-drug therapies in older people with orthostatic hypotension: a qualitative study.
BMC Geriatr. 2018 Dec 17;18(1):315.
 
25人の60才以上のOHの人を募集して下記の非薬物療法をすべて経験した
 
1.ボーラスでの飲水:室温の水480mlを5分で可能な限りで飲む
2.Physical counter-manoeuvres(PCM):起立時に腹部や下肢の筋肉を緊張させる
3.ストッキングによる圧迫:Grade2(23-32mmHg程度)の圧迫するストッキング
4.腹部圧迫:腹部と骨盤に伸縮性のあるベルトを装着する(10mmHg程度)
 
そしてその後,半構造化されたインタビューを行った。
結果としてPCMは特に道具はなく慎重に行うことができ姿勢の変化時のみですむので最も受け入れられやすい方法だった。ボーラスの飲水はほとんどの場合許容されたが頻尿に関しての懸念があった。またボーラスの飲水に関しての懸念があったが,一度行えば予想より簡単であった。腹部圧迫の許容に関してはいろいろな意見があったがストッキングによる圧迫は受け入れられないのが大多数だった。
 
結論としてストッキングによる圧迫を第一選択とする治療は起立性低血圧の高齢者にはほとんど受け入れられず,アドヒアランスの改善にはボーラスの飲水やPCMに焦点をあてるべき
 
②The efficacy of nonpharmacologic intervention for orthostatic hypotension associated with aging.
Neurology. 2018 Aug 14;91(7):e652-e656.
 
起立性低血圧に対する非薬物療法の有効性や安全性を調べる研究
60-92才の25人のOHの人に対してボーラスの飲水(5分で480ml),ストッキングによる圧迫(23-32mmHg程度),腹部圧迫(ベルト),physical countermaneuvers(standing cross-leggedという方法)を行い合計で150の起立試験を行った
主要な結果はSBP低下が10mmHg以上改善した割合で評価した
飲水の有効性は56%,血圧は平均12mmHg改善
physical countermaneuversの有効性は44%,血圧は平均7.5mmHg改善
腹部圧迫の有効性は52%,血圧は平均10mmHg改善
ストッキングによる圧迫の有効性は32%,血圧は平均6mmHg改善
立位時の症状改善はなく有害事象もなかった
結論として,ストッキングによる圧迫ではなくボーラスの飲水が非薬物療法の第一選択では?という研究
 
③Nonpharmacologic Management of Orthostatic Hypotension in Older People: A Systematic Review. The SENATOR ONTOP Series.
 
Systematic review of systematic reviewsで高齢者に対する非薬物療法のレビューを行った
11件の研究が含まれた
下肢圧迫は9.83mmHgの姿勢変化時のSBPが改善
腹部圧迫は12.30mmHgの姿勢変化時のSBPが改善
圧迫両方はOHの症状の軽減に有効だがエビデンスの質は悪かった
頭部挙上,在宅レジスタンストレーニング,多方面介入は姿勢変化時のSBP改善なし
ボーラス飲水は1つの研究で効果的だが質は低かった
 
結論として高齢者の起立性低血圧の非薬物療法のどれを推奨するかの高い質のエビデンスはなかった。非常に質の低いエビデンスにおいいぇ下肢や腹部圧迫を推奨するが,OHに対する非薬物療法の有効性を実証するための大規模試験が必要。
 
④Combination non-pharmacologic intervention for orthostatic hypotension in older people: a phase 2 study.
Age Ageing. 2019 Dec 23. pii: afz173.
 
60才以上のOH 37人を対象とした前向き研究
111回の起立時のBP反応を評価
主要転機はSBP10mmHg以上の改善した割合
二次転機は起立時の症状や立位時のBP
介入A:ボーラス飲水+physical counter-manoeuvres (PCM)
介入B:ボーラス飲水+physical counter-manoeuvres (PCM)+腹部圧迫
 
結果は
介入Aに対する反応率は38%,SBPは13mmHg増加
介入Bに対する反応率は46%,SBPは20mmHg増加
どちらも治療法も症状に影響はなく有害事象もなかった
結論として非薬物療法の併用による利点はほとんどなかった
ボーラスの飲水やPCMなど単一の効果的な治療に焦点をあてるのが標準的な第一選択になるでしょう
 
 
ということで論文によって色々差はあるのですが...弾性ストッキングの有効性も議論がわかれるのかもしれません。そういう意味ではアドヒアランスに焦点をあてた①の研究などはとても面白いなと感じました。