ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

稀なTSH上昇の鑑別

TSHが高いけどホルモン補充に反応せず,甲状腺機能機能低下の症状も目立たない...
考慮すべき疾患は?

 

Diagnosisで掲載されたケースレポートより
A rare cause of subclinical hypothyroidism: macro-thyroid-stimulating hormone
Diagnosis (Berl). 2020 Jan 28;7(1):75-77.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31271551

月経困難症で産婦人科で入院した18才女性,定期検査でTSHが上昇していたので内分泌のクリニックに紹介になった
TSHは約5.5-5.6μIU/ mL fT3とfT4は正常
臨床的にも甲状腺機能低下の症状はなかった
非特異反応物質(異好性抗体等)をきたすリウマチ因子は陰性
サイログロブリン抗体と甲状腺ペルオキシダーゼ抗体は両方とも軽度陽性だった
PEG(ポリエチレングリコール)沈殿法で測定したところ,TSHは正常でありマクロTSH血症の診断となった

特に甲状腺機能低下症の症状がないのにTSHが10以上,予想より高いレボチロキシンが必要な患者ではマクロTSH血症で考慮するのですが,この症例ではTSHが10未満であってもマクロTSH血症があるということをしめす、という症例でした

□IntroやDiscussionからの抜粋になりますが

・無症候性甲状腺機能低下症の多い原因は慢性自己免疫性甲状腺炎と不適切な補充療法。メトクロプラミドやフェノチアジンなどは一時的なTSH上昇の原因になりえる。
・TSH上昇のまれな原因の1つにマクロTSH血症がある。無症候性甲状腺機能低下症患者におけるマクロTSH血症の有病率は0.6-1.6%程度と推定されている。
・マクロTSHはTSHとそれに対するグロブリンが結合したもの。TSHの分子量は約30kDaで腎臓で濾過される。TSHが免疫グロブリンと結合すると約200kDaの高分子となり腎臓による濾過がなされず血液に蓄積される。
・そのためマクロTSH血症は甲状腺機能低下症の症状は示さず,TSH値は高く,補充療法には反応しない、となる
・診断がされないままTSH上昇に対してホルモン補充を行うと特に高齢者や妊婦で甲状腺中毒症のリスクになりえる
・マクロTSH検出の方法の1つにPEG(ポリエチレングリコール)沈殿法がある
・マクロTSH血症の臨床的意義は不明だが,特に抗TGや抗TPOの抗体が上昇している人ではフォローアップが必要

・臨床的に甲状腺機能が正常でTSHが高い,時に10以上であればTSH上昇の原因を特定することは重要
 

※ほかにも2step測定法のアーキテクト(アボットジャパン)などの方法でも確認できるようです