ある病院総合診療医の備忘録+α

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

ケース流し読み,74才女性 造影CTで肺所見やPE所見が目立たない進行性の呼吸苦+肺高血圧+体重減少で何を考えるか

□ケース流し読み,74才女性 造影CTで肺所見やPE所見が目立たない進行性の呼吸苦+肺高血圧+体重減少で何を考えるか

2020年2月のNEJMのCPSです
A Rapid Change in Pressure(N Engl J Med 2020;382:563-70)

※注意:ネタバレ含みますので注意してください,また管理人の判断で情報をかなり抜粋していることを御容赦ください


高血圧,脂質異常症,咳喘息の既往のある77才女性。
常用薬はCCB,スタチン,ICS+LABA。
受診8w前にイタリアに渡航歴,戻ってきてから呼吸苦の発症し増悪した。
他に半年の半年の乾性咳嗽,疲労,食欲不振,意図しない9kgの体重減少があった。
4w前にERを受診,レントゲンとUSで肺炎とDVTはなかった。5dのPSLとAZMが処方されたが改善なかった。
診察時のバイタルはBT 37.0 BP 113/69 HR 108 RR 24 SpO2 88% BMI 23.5。JVPは6cm。心音ではP2の亢進。両肺基底部に吸気のラ音がある。喘鳴はない。浮腫なし、ばち指なし。腹部、筋骨格、神経の診察は正常。採血で一般的な項目は正常。血液ガスはPh 7.51 PaCO2 30 PaO2 61。D-dは約1.4。心電図ではV1-V3,Ⅲ,aVFの陰性T波。入院3日目の肺機能ではVCは正常,DLcoはわずかに低下。

Ⅱ音の亢進やレントゲン所見に乏しい点,渡航歴からPEやPHが考えられた
造影CTで肺塞栓はなく,右心室の拡大と椎体の多発硬化性病変が認められた
心エコーではEF 70%,中程度の収縮障害,中程度の右心室の拡大があった
肺換気血流シンチグラフィーでは複数の領域で換気と灌流のミスマッチがあった

さて、診断は?という症例でした


右心カテーテルの結果,右心房圧は15mmHg(正常は5以下),右心室拡張期圧19mmHg(正常は0-5),平均肺動脈圧47mmHg(正常は20以下),PCWPは9mmHg(正常は15未満),肺血管抵抗は1050 dyn•sec•cm−5 (正常は250未満),心拍出力 3.11L/min(正常は4-8)の結果
肺動脈カテーテル留置時に採取した血液で悪性細胞は指摘できなかった
PET-CTでは複数の散在性の骨病変,体幹部の複数のLN,左副腎,胆嚢底で取り込みがあった。


ということで転移性の脊椎病変,PET-CTでの胆嚢の取り込みから胆嚢がんに伴うPTTMが考慮された。酸素投与されステロイド,ヘパリン,PHの治療薬などで治療されたが効果はなく最終的に死亡した。剖検で転移性の低分化腺癌が認められ,PTTMの診断となった

という症例でした

PTTM(肺腫瘍血栓性微小血管症:pulmonary tumor thrombotic microangiopathy)

自分のイメージは「胃癌などの腺癌がある人で肺高血圧性の呼吸不全があれば疑う疾患」なので...CPSの症例のように悪性腫瘍の既往なしにくると結構厳しいし、治療は現疾患の治療、になってしまうのでこうも進行が早いとかなり厳しい印象をもちます。

Commentaryからの抜粋では

・肺血管系の微小な腫瘍塞栓により引き起こされる肺性心を伴う急速進行性の肺高血圧

・は稀で早期に特定することは困難,しばしば激症な経過をたどり,予後は悪い。
・PTTMは3w-6mにわたって労作時の低酸素血症を引き起こす。症状発症から死亡までの平均時間は1m
・進行性の管腔狭窄を引き起こし,亜急性肺高血圧と右心不全を起こす
・PTTMの診断は頻度の少なさと非特異的な初期所見のために困難
・呼吸機能検査では肺容量は正常,DLcoの低下
・腫瘍塞栓は小さいので造影CTではうつらない
・シンチグラフィーでは換気正常,複数の末梢性の亜区域灌流障
・肺腫瘍血栓性微小血管障害の診断は、肺動脈楔入カテーテルからの吸引血液の細胞学的検査に基づいて行うことができますが、偽陰性が発生しうる。(単一の小さなケースシリーズで最大80〜88%の感度)
・小血管の腫瘍細胞は閉塞はしめすが急速に増殖しているわけではないのでPET-CTでは検出できない
・転移性腫瘍があるのがわかっている人の剖検シリーズでのPTTMの推定有病率は1-3%で過小診断の可能性が示唆されている
・PTTMは一般的に腺癌,特に胃癌に関連している。PTTMは胃癌の剖検の16-27%で確認される(特に粘液性,低分化,印環細胞)。ほかに乳がん,肺癌,胆嚢がん,卵巣癌,尿管上皮癌など。
・ほとんどの患者は最終的に死亡する。多くの患者は診断時に化学療法を行うほどのPSがない。チロシンキナーゼ阻害薬などふくめ化学療法,ステロイド,ワーファリン,アスピリンなどで治療して6-12m生存した報告もある
・転移性癌がありPE様の症状があるが造影CT陰性の場合はPTTMを考慮し換気血流シンチを行う必要がある
・診断にいたった場合,予後が悪いことを考えると早期の緩和的集中治療を考慮すべきである

ということでした。