ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

□ケース流し読み:58才男性,2週間続く左下腹部痛と腰痛,鼠蹊部痛の放散痛/しびれ

□ケース流し読み:58才男性,2週間続く左下腹部痛と腰痛,鼠蹊部痛の放散痛/しびれ

2020年4月のNEJMのCPSです

自分が診ていたらどうなるのか...は全く想像できないですが...診察や検査etc...色々な点で勉強になりました

Missing the Target
N Engl J Med 2020; 382:1353-1359


既往にマントル細胞リンパ腫,脂質異常症,GERDがありスタチンとPPIを内服しているボストン在住の58才男性が8月に2週間続く左下腹部痛,それに伴う腰痛,鼠蹊部痛で受診した。ほかに3日の便秘と臍から左大腿部にひろがるしびれがあり,便失禁,尿失禁,発熱,頭痛,羞明,体重減少,発疹,血尿,排尿障害,下痢はなかった。発症8m前にジャマイカ,2w前にニューヨークを尋ねている。池の鯉の世話や園芸などをしている。蚊やダニ咬傷の病歴はない。
バイタルは血圧が高め以外は正常,胸腹部,背部診察で異常は特になくリンパ節腫脹もなかった。病歴反射や筋力低下はないが,右Th11-L2の領域の感覚低下があった。
採血検査ではPlt 11万,LDH 238以外に特記なく,腹部骨盤CTは正常だった。脊椎MRIで胸髄の髄膜の造影による増強,馬尾の肥厚と造影による増強があった。

この結果を受け腰椎穿刺が行われた。圧は正常,Glu 67,TP 165.9,Cell 190(リンパ球77%),tube4のRBC 530。細胞診で悪性細胞はなかった。頭部のMRIで両側三叉神経の増強があった。
PET-CTではいくつかのリンパ節と下部胸髄で取り込み亢進があった

さて鑑別診断は?

という症例でした。


感染症科コンサルトで再評価されると患者の左鼠径部と大腿前部になんと遊走性紅班が...
(患者さんは自身では気づかなかったとのことでした)

ライム病の臨床診断でCTRXが4w投与された
(検査関連は省略)



・この症例はリンパ腫再発をどれくらい考慮するか?というのもポイントだったが,LDHが高くなかったこと,Ki-67が10%と低いこと,マントル細胞リンパ腫だと可能性は低い(ただし除外できるわけではないという悩ましい状況)
・ほかの鑑別として(骨髄移植後という点も含め)VZV感染も考慮されるが痛みが先行するのは2-3d程度なのでこの症例では長すぎる
MRIで髄膜播種様の所見があったが鑑別はリンパ腫などの悪性腫瘍,炎症性疾患(サルコイドーシス,血管炎)など多彩
・遊走性紅班があり神経症状を伴っている点から神経ライムが最も合致する

ということでしたコメンタリーでは

・ライム病の10-15%の患者が神経症状をきたす
・神経ライムは色々な症状をおこすので診断の遅延がおきやすい
・皮膚所見は診断の手がかりだが,診察が不完全だと診断の遅延の1因になりえる
・神経ライムの中でも(頻度は稀な)Bannwarth症候群が合致する。脳神経所見,顔面神経麻痺,有痛性神経根炎,髄液の細胞上昇,麻痺などをきたし,髄液のTPは上昇するがGluは正常
・ライムの髄膜神経根炎は夏に多く,男性に多い(この症例は合致している)
・遊走性紅班のある部位や隣接する神経根の痛みを伴うことが多い。上行性麻痺や弛緩性麻痺の報告もある。
・脳神経障害は顔面神経麻痺が多いが三叉神経障害もおこす
・半数程度が経過の中で遊走性紅斑をきたす
・画像検査は他の疾患の除外に有用,神経ライムの所見は非特異的

などなど勉強になりました

線維筋痛症慢性疲労症候群mimicにもなりえ,疑わないと診断できないLymeは厄介ですね。。。