ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

Basedow病でほぼ甲状腺全摘後の患者に発症した難治性甲状腺機能中毒症。原因は?

Basedow病でほぼ甲状腺全摘後の患者に発症した難治性甲状腺機能中毒症。原因は?

Factitious thyrotoxicosis: how to find it
Diagnosis (Berl). 2020 May 26;7(2):141-145.

Diagnosisのケースです

Basedow病にしてほぼ全摘出に近い甲状腺摘出術の治療歴がありT4製剤内服中の35才女性が難治性の甲状腺中毒症を呈している、という症例でした

甲状腺→ほぼ摘出後
T4製剤→中止後
メチマゾール→5mg/dから開始してすでに40mg/d
RAIの取り込み→非常に低い
ホルモン過剰摂取→否定
甲状腺ホルモンは fT3 3.72±1.38, fT4 2.16±0.68 と持続的に上昇

次の一手は?というような症例でした

その後,甲状腺腫の欠如,甲状腺取り込みの低下,Tgの低下から甲状腺剤による甲状腺中毒症(Factitious thyrotoxicosis)が疑われたが本人は否定した。

 

そのため胆汁酸吸着剤のコレスチラミンが投与され甲状腺ホルモンは1ヶ月で正常に戻り甲状腺剤による甲状腺中毒症(Factitious thyrotoxicosis)の診断となった。

という症例でした

Discussionでは鑑別に関して色々述べられており勉強になりました
抜粋ですが..


甲状腺中毒症の原因で最も多いのはBasedow病,次に甲状腺腫瘍によるものが続く。そのほかに甲状腺炎,薬剤性,卵巣甲状腺腫,絨毛腫瘍,甲状腺ホルモン過剰摂取などがある。原因の特定は治療に関わるので重要
甲状腺剤による甲状腺中毒症(Factitious thyrotoxicosis)は意図的な摂取も意図的ではない摂取も含める
・腺腫や甲状腺癌がなければ外因性甲状腺中毒症の患者においてTgは抑制される。ただし腺腫があったり抗Tg抗体が原因でTgが抑制されない場合があり,その場合は判断が難しい。そのためTgを測定するとき抗Tg抗体も測定するべき
・T4製剤内服患者はT3とT4の両方増加するがT3/T4比は腺腫やBasedow病のよりも低い。ただし甲状腺抽出物またはリオチロニン(T3製剤)を服用している患者の場合は鑑別困難。
・TRAbはBasedow病の診断に有用だが甲状腺を摘出したりRAI治療をしても数年間陽性になりえる
・全身スキャンは卵巣など異所性甲状腺組織を除外するのに有用
・糞便T4測定は甲状腺剤による甲状腺中毒症(Factitious thyrotoxicosis)の診断に役立つ可能性がある(この症例では行っていない)
・T4内服を中止するとfT4は1wで50%低下,T3はもっとはやくおちる(半減期は1d)。診断困難例はコレスチラミンが診断に有用になりえる。コレスチラミンは腸管内のT3やT4と結合し腸肝循環を阻害する。

などなど述べられていました
どう詰めていくか...Challenging case勉強になりました