ある病院総合診療医の備忘録+α

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

□ケース流し読み:34才男性,一ヶ月続く腹痛+小球性貧血

2020年8月 CPS  Led Astray
N Engl J Med 2020; 383:578-583

特に既往のない34才男性が一ヶ月続くびまん性の腹痛,倦怠感,食欲不振で受診した。発熱,盗汗,下痢,黒色便,血便はなく,病歴でも特異的な情報は得られなかった。バイタルは正常,診察では左下腹部に軽度の圧痛があるので,腹膜刺激,腹水,腫瘤,臓器腫大はなかった。

血算はWBC 11300 Hb 7.7 MCV 73 Plt 34.4万,AST 100 ALT 162 γ-GTP 195 ALP 132 BilやLDHは正常,フェリチン 316 Fe 184 TIBC 290 トランスフェリン飽和度 63%。スメアでは有核赤血球,好塩基斑点赤血球,多染性赤血球症,好塩基斑点赤血球,パッペンハイマー小体,涙滴赤血球,小赤血球などが時折みられた。電解質,凝固,VitB12,CRPは異常なし。CTで直腸やS状結腸の壁肥厚がみられた。

精査目的に入院となった。上部,下部内視鏡では異常なく生検結果も正常,カプセル内視鏡も異常はなかった。サラセミアの検査結果も正常だった。ピロリ菌感染が確認されたため3剤による除菌がされたが症状はかわらなかった。梅毒,HIV,肝炎ウィルスの検査は正常。

退院後も症状は続きオピオイドが投与された。
その後,慢性的な頭痛を発症し,頭部MRI,脊椎MRI,腰椎穿刺などで検索されたが異常はなく,その後痙攣を発症し救急搬送となった。

さて,診断は?という症例でした

痙攣の治療後,骨髄生検では異常はなかった。入院6日目に遊離プロトポルフィリンの血清中濃度が612.4μg/dl(正常10-50)と高いことが判明した(AIP/急性間欠性ポルフィリン症では遊離プロトポルフィリンは上昇しない)

臨床像もあわせ鉛中毒が疑われ,血中鉛濃度は94.4μg/dlと上昇しており鉛中毒の診断となった。

当初は本人は否定したが,父親からアヘン使用の情報が得られた。
日常的にアヘンを使用していることが判明し,使用サンプルを分析したところ鉛の含有が確認された。その後,キレート療法と離脱の治療の療法をうけ症状および鉛の血中濃度は低下し改善した。

という症例でした

アヘンに鉛が混入している理由は重さを増して利益を上げるために鉛を添加しているのではないか、あるいは製造過程で鉛が混入しているのではないか、というのが有力な説で イランをはじめとする中東諸国では、鉛に汚染されたアヘンによる鉛中毒が多数報告されている。このカナダの症例はアヘンによる鉛中毒のグローバル化を示しているとのことでした。


国によって疫学が大きく異なるであろう疾患なので,なんともなのですがCPSで鉛中毒は過去にも出題がありました

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcps1900774
A Diagnosis to Chew On

実地臨床とは違って担当者が情報提示をするのがカンファやケースで学場合のデメリットになります

(特異的な所見ではないのですが)「好塩基性性斑点」の情報提示があるとどうしても重金属中毒は鑑別に入ってしまうので...本CPSもスメアの情報提示があった段階で...タイトルもあわせうーん、という感じでした。(むしろCTやポルフィリンの検査結果で悩んだという...)

なお過去に当ブログで扱った好塩基斑点赤血球の鑑別のページはこちらになります
https://generalistcwtg.hatenablog.com/entry/2020/01/13/203924

そしてCPSの記録はこちらになります
https://generalistcwtg.hatenablog.com/entry/2020/01/10/090537

 

●追記(川島先生ありがとうございます)

あの市立舞鶴市民病院からの報告です

Burton's line の写真もあります

https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika1913/91/5/91_5_1593/_pdf/-char/ja