ALSの診断までの時間と初回診察に関連する因子(J Neurol Sci. 2020 Oct 15;417:117054.)の抜粋になります。
多く診たわけではないですし、これが鑑別に上がる/鑑別の片隅にのこるときはじわりとくる感覚を覚えます。。診断までのプロセスも、可能性が高いときのBad news telling、その後のマネージメント...いろいろな意味で医師としての力の総合力を試される疾患なのかなと思っています。後期研修の時に経験した神経内科医のプロフェッショナルな姿勢は自分の中で財産の1つです。
この論文のプライマリケア設定で正しく診断するというのは困難という意見には賛同で、Red flag(嚥下障害,痛みを伴わない筋力低下,進行性歩行障害)や体重減少をひっかけて早期に紹介をした結果正確な診断がつく、というほうが自然だと思っています。
あとは初診で診断がつかないときけど症状がそこにある...のであれば,例え症状が軽症のように感じてもフォローアップをいれ経過を診るというのが初診医の役割かなと思いました。
Time to diagnosis and factors affecting diagnostic delay in amyotrophic lateral sclerosis
J Neurol Sci. 2020 Oct 15;417:117054.
●診断までの時間(Figure 1)
症状がでて最初の医師の受診まで3-6m
そこから神経内科(60%)か非神経内科(40%)へのコンサルトになる
最終診断まで10-16m
●診断遅延に関する素因(Table1)
・患者素因:年齢,性別(男性),並存疾患,表現系(発症部位,fasciculations)
・医療者素因:認知エラー,不適切な検査(過剰,過小),最初のコンサルトが神経科か非神経科か,診断ミス,不適切な手術
Misdiagnosisの割合は13-68.4%
球症状がでると診断遅延が起きにくい
不要な手術(脊椎の除圧など)がされると診断遅延がおきやすい
ほとんどの研究は臨床視点から。患者目線で考えると知識やリテラシーの問題によるアクセス遅延があるかも。
診断遅延に関するプロセス
1.専門医への紹介の遅延
文献によっても意見が分かれるが...紹介先が神経内科か別の科(耳鼻科,整形,リハビリ,精神科...)で後者の方が診断が3mほど遅くなるという差も
神経内科に紹介になる頻度は色々だが6割程度
2.診断のミス
診断ミス 13-68.4%(脳血管疾患,頸髄症,椎間板ヘルニア,神経障害,橈骨神経障害,重症筋無力症)
診断ミスは診断遅延の有意な因子
また診断ミスにより(後から見れば)不要な手術をうけるとさらに診断遅延のリスクになる(2-12m)
ALS患者の1割強が診断前に(後から見れば)不要な手術をうけている
神経内科医による診断ミスは7-44.4%
神経内科医の診察で初回の診察で診断されたのは56%,2番目の医師という状況では78%という報告もある
なお初診時にプライマリケア医または他の専門医によって正しく診断された患者は1%
3.症状の出方
球症状の人は遅延しにくく、脊髄症状の人は遅延しやすい
3-4mくらい違うが研究によっても色々
4.患者素因
男性の方が遅延しやすい
60才以上のほうが遅延しやすい
神経学的併存疾患は診断遅延をもたらす
□早期診断の意味合い
・不要な受診/通院,検査,場合によっては痛みを伴う処置や手術をうける
・治療可能な疾患と言われた後に,実際には進行性の変性疾患であると言われるのは心理的な負担が大きい
・対症療法や治療などの薬理学的介入やリハ的介入の遅れにつながる
・早期診断と適切な管理は経済的,社会的,心理的など様々な面でメリットがある
・高度医療機関でのALSのケアは入院回数の減少,QoLの向上,生存期間の延長につながる
□今後の戦略
プライマリケア医はゲートキーパー的な割合になるが,ほとんどの医師はキャリアの間にALSを診るのは1-2例程度になる
神経内科医ですら年間数例程度であり,ALSに関する知識が不十分なこともありえる
プライマリケア医や神経内科医ではALSの"red flag"に関して的を絞った教育をうけるのが有益かもしれない
70%の患者が嚥下障害,痛みを伴わない筋力低下,進行性歩行障害などのred flagを呈している