ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC】前庭性片頭痛に関して

□前庭性片頭痛に関して

migraine-associated vertigo ではなく vestibular migraine
のほうが主流っぽいということを先日後輩から学びました

個人的には末梢性めまいの頻度はBPPV>前庭神経炎>前庭性片頭痛と思っているので、それなりに重要だと思っています
ということでMAVからの切り替えもふくめ再度勉強しました

●個人的なメモ

・再発性の末梢性めまいの鑑別疾患
・前庭性片頭痛は毎回頭痛を伴うとは限らない(なので攻めの問診が必要)

・発作持続は基本的に72時間以内
・めまいのパターンや持続時間は色々(BPPV様のこともある)
・鑑別のメインはメニエル病とBPPV


以下はVestibular Migraine(Neurol Clin. 2019 Nov;37(4):695-706)の抜粋(+一部改変)です
詳しく読みたい人は是非原著を見ていただければ幸いです(UpToDateもまとまっていて推奨です)

□前庭性片頭痛の診断基準/ICHD-3(Cephalalgia. 2018;38(1):1. )
・現在ないし過去に片頭痛の既往がある(前兆あり/なし,どちらでもよい)
・以下の2つの基準をみたすエピソードが5回以上
→5分から72時間持続する中等度以上の前庭症状
→発作の50%以上で下の3つの基準のうち1つ以上を伴う
a.次の特徴の2つ以上(片側性,拍動性,中等度以上の頭痛,日常動作による増悪)
b.光恐怖/過敏ないし音恐怖/過敏
c.前兆
・他の病名では説明できない

□疫学
・生涯有病率は1%,年間有病率2.7%と頻度の報告は様々
・原因不明の反復性めまいの患者の片頭痛の有病率が6-8割という矛雲

□臨床像

めまい

・安静時でもあるめまい(4-7割),頭位変換性,視覚誘発めまい(動くものを見たりすると誘発/増悪)などパターンは様々
・安静時めまい→頭位変換性と変わることもある
・乗り物酔いしやすい状況が続く。
・視覚誘発めまいは前庭性片頭痛に特徴的かも(ただしPPPDでもみられる)

頭痛
・頭痛が一緒に起きない人もいる(なので積極的な問診が必要)
・視覚過敏,聴覚過敏,前兆などを伴うこともある。これらの症状は前庭性片頭痛を示唆するので診断上重要。

内耳症状
片頭痛患者で急性発作の際に内耳症状(耳鳴り,難聴,耳閉塞感)を伴うのは2-4割で報告されている
・難聴は軽度で一過性。進行はないか,あってもわずか。20%の人で数年かけて軽度の両側性低音性難聴感音性難聴をきたす

持続時間
・ばらつきが多い
・数秒程度(15%),数分程度(30%),数時間(30%),数日間(25%)
・回復まで4週間かかる人もいるが,基本的には72時間以内

眼振
・ほとんどの人は症状がない場合は正常(罹患暦が長い人は持続性の頭位性眼振,衝動性,追視時の眼振が起こす人もいる)
・急性機の場合は中枢性の自発性や頭位変換性の眼振(ないし組み合わせ)が見られることが多い


□鑑別診断

BPPV:頭位変換時で誘発される1分以内のめまい。頭位変換試験陽性
メニエル病:20分-12時間持続するめまいで内耳症状(難聴,耳鳴り,耳閉塞感)を伴う。数年間で進行する片側性のめまい
椎骨前庭のTIA:脳幹症状(めまい,失調,構音障害,視野障害,複視)を伴い数分でおわることが多い。めまい単独もありえる。頭頸部の痛みを伴うことが多い。通常血管リスクがある高齢者に起こる
Ⅷ神経の血管圧迫:1日に数回,数秒の短時間のめまい発作(±内耳症状),CBZに反応する
聴神経腫瘍:稀に再発性のめまいを呈する。主な症状は緩徐進行の片側性の難聴と耳鳴り
自己免疫性内耳疾患:様々な持続時間の繰り返す発作,両側性のことが多く,進行性の難聴を伴う
片側性前庭喪失の不完全な代償:急速な頭部の動きの際に短時間の軽いめまいが発生する。HIT陽性。
不安障害:特定の状況(外出,公共交通機関,スーパーマーケット)での誘発または悪化,回避行動,顕著な転倒の恐れ

□鑑別診断② vs メニエル病

最大の鑑別診断はメニエル病
メニエル病の発作は20分-12時間のことが多い
内耳症状は基本的には片側性(前庭性片頭痛の場合は両側性,ただし両側性のメニエルも10%ある)
初期のメニエルは難聴や内耳症状が目立たないこともある
メニエル病で頭痛や視覚過敏をきたす人もいる
前庭性片頭痛の診断基準もメニエル病の診断基準を満たす人もいる

□鑑別診断③ vs BPPV

前庭性片頭痛がBPPV様のめまいをおこすこともある
前庭性片頭痛眼振は中枢性でBPPVの頭位変換性のパターンとは異なる
前庭性片頭痛眼振には潜時がない
前庭性片頭痛のほうが症状の持続が短い(72h以内のことが多い),BPPVは長引きやすい(整復されたかにもよるが...)
最初の期間はBPPVは数年に1回だが前庭性片頭痛は年数回と頻度が異なる

□急性期の前庭性片頭痛の治療

 
エビデンスのある薬剤はない
・基本的には抗ヒスタミン(やBZO)による対象療法
・トリプタンの有用性は確立していない
・繰り返すようであれば片頭痛に準じた再発予防