ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

Pisa症候群(Lancet Neurol. 2016 Sep;15(10):1063-74.)

Pisaの斜塔のような姿勢異常,Pisa症候群

パーキンソン病でみられることがある姿勢異常の1つで側屈を伴う軸索性ジストニア

まとまって調べたことがないのでちらっと調べてみました。可逆性のことがあることや2方向でのレントゲン撮像は知らなかったことなので学びになりました😊

 

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Pisa症候群(Lancet Neurol. 2016 Sep;15(10):1063-74.)


□原因
パーキンソン病などの神経変性疾患
パーキンソン症候群(抗精神病薬によるもの含む)
正常圧水頭症
硬膜下血腫
特発性の報告もある

パーキンソン病に伴う姿勢異常(Lancet Neurol 2011;10: 538–49.)
camptocormia(45°以上の胸腰椎の屈曲,腰折れ姿勢):歩行で悪化,補助で容易に直立,臥床で解消.Bent spine syndromeと呼ばれることも,
antecollis(頸部の45°以上の前屈):随意運動で部分的に克服できるが,重力に逆らって首を完全に伸ばせない.PDでは稀でMSAでよく見られる
retrocollis(頚後屈):頸部が伸展した状態で保持される。PDでは稀でPSPでよく見られる
scoliosis(脊柱側弯症):脊椎の屈曲(Cobb角10°以上)が自発ないし受動的な運動で改善せず,X線で椎体の軸面の回転がある(回旋を友なている)

 

Pisa症候群は呼吸,運動,姿勢の安定性に影響を与え可逆的な疾患であるため,早期の認識と管理が重要である。

□疫学や定義

コンセンサスの得られている定義はない

Bonanniの定義(Mov Disord 2007; 22: 2097–103)
体幹の側屈が15°以上
・歩行時に増加し、仰臥位では見られず、体幹の動きに機械的な制限がない
・屈曲側と同側の腰部傍脊柱筋に継続的な筋電図活動/EMGが見られる

Dohertyの定義(Lancet Neurol 2011;10: 538–49.)
・起立時に10°以上の側屈
・受動的要因や仰臥位でもとに戻る

可動性変形(Pisa症候群)と固定性変形(脊柱管狭窄症)を区別する必要がありPisa症候群の鑑別診断には、立位および臥位でのX線検査による確認が必要

コンセンサスの報告はないので有病率は色々
10°や15°の定義にもコンセンサスはない

パーキンソン病とパーキンソニズム対象で15°の定義の場合は1.9%(Mov Disord 2007; 22: 2097–103.)
パーキンソン病対象で10°の定義では8.8%(Neurology 2015; 85: 1769–79)

□臨床経過
・13%が急性,17%が亜急性(1-3m),70%が慢性進行パターン
・座っているときや歩いているときにわずかに可逆的な傾斜行動が起こることがあり、これは後に臨床的に明確なPisa症候群が発生するのに先立つことがある
(Lancet Neurol 2011;10: 538–49.Clin Neuropharmacol 2015; 38: 135–40.Neurology 2015; 85: 1769–79.J Neurol 2006; 253 (suppl 7): VII17–20.)
・急性発症の場合,薬剤性の可能性が高いとされるがデーターはない
・ほぼすべてのドパミン系薬剤がピサ症候群の発症と関連していると言われていますが、薬剤の種類と発症パターンに明確な関連は不明
・両側に向かって交互に傾く行動/メトロノームサインになる人もいる (10%)
Neurology 2015; 85: 1769–79
Clin Neuropharmacol 2015; 38: 252–54

パーキンソン病におけるPisa症候群の患者はそうでない人と比較して,高齢,罹病期間が長く,H&Y分類では重症でQoLが悪いことが多い(Neurology 2015; 85: 1769–79)
転倒や偏向歩行が起きやすい(Neurology 2015; 85: 1769–79.)

Pisa症候群と他の姿勢異常が併発することがある
10°以上の側屈と45°以上の前屈が同時に発生するとより重度の機能的制約や障害につながる

パーキンソン病が進行し姿勢変形がますます重症化すると軟部組織の病理学的変化は、可逆的な症候群からより永続的な症候群への移行を促進し,呼吸困難,疼痛の悪化,平衡感覚の障害につながる可能性がある