毎月獨協でさせていただいている老年内科Lecture
□高齢者脂質異常症診療ガイドライン2017より抜粋
・後期高齢者(75 歳以上)の高LDL-C 血症に対する脂質低下治療による一次予防効果は明らかでない
・余命が1 年以内の患者に対して,服用中のスタチンを中止することは安全であり,QOL 向上,医療費削減につながる(推奨グレードB)
□高齢者でのメリットは健常者より少ない
・ 75歳以上の冠動脈患者の患者において,LDL-C値が38.7mg/dl低下するごとに0.6%/年の絶対的なリスク低減効果が算出されており,NNTは167相当 (Lancet 2010;376:1670–81)
・年間の虚血性心疾患死亡率に対する38.7mg/dlのコレステロール低下の絶対的効果は,高齢者と若年者では10倍も異なる(Lancet 2007;370:1829–39)
□スタチンのデメリット
・スタチンは筋骨格系に関してはよい影響がない
→疲労や倦怠感など非特異的症状のことも
→CK正常はスタチンによる筋障害を除外する理由にはならない (J Clin Lipidol 2014; 8:S58)
→高齢者に多いVitD欠乏や加齢自体がスタチンの筋症状リスク (J Clin Lipidol 2014; 8:S58)
・ポリファーマシー/相互作用リスク軽減
・患者さんの負担軽減(薬の数,コスト)
□スタチンの終末期の処方率
・予後が限られて施設入所した人でも7-8割継続
(J Am Geriatr Soc. 2020 Dec;68(12):2787-2796.J Am Geriatr Soc 2020 Nov;68(11):2609-2619.)
・予後半年の高齢者でも34%が処方
(J Am Geriatr Soc. 2020 Apr;68(4):708-716)
□予後が何年あればスタチンを考慮するか
・平均寿命が少なくとも5年ある高齢者であればスタチンを考慮する必要がある (Age Ageing 2015; 44:213–218)
・スタチン製剤のLag time to benefitは2.5年 (J Am Geriatr Soc. 2018 Feb;66(2):229-234)
・スタチンの効果が得られるまでの期間は推定2年以上なので余命が限られている患者には有用ではなく,終末期には無益 の可能性がある (JAMA Intern Med. 2015 May;175(5):691-700.)
□中止に関する検討
・予後1年の患者でスタチンを高用量内服群と中用量内服群を傾向スコアマッチングで比較しても心血管イベントとの関連はなかった (CMAJ. 2019 Jan 14;191(2):E32-E39)
・緩和ケアをうけ余命平均が7ヶ月の人を対象とした無作為比較試験でスタチンを中止した群は継続群と比較して,60日死亡は有意差がなく中止群でわずかにQoLがよかった (JAMA Intern Med 2015; 175:691–700.)
(Cleveland Clinic Journal of Medicine. 2017 February;84(2):131-142)
・一次予防:スタチンの意味はない
・二次予防:重度のフレイルであれば不要(例外はあるかもしれない?)
・心不全:スタチンの意味はない
・エゼチミブ:意味はない。ACSの患者に対してはわずかに効果があるかもしれないが,臨床状況を考えると重度のフレイルに患者に対してエゼチミブの使用の意味があるとは考えられない
・スタチンの投与量:加齢やフレイルの進行にともなって減量するのは適切かもしれない
・有害事象:筋障害,薬物相互作用,その他の有害事象が懸念される場合は試験的にスタチン中止を検討する
□高齢者におけるエビデンス(Eur J Intern Med. 2018 Apr;50:33-40.)
・75歳以上でもメリットがある報告がある。ただしメリットは成人の1割程度。
・85歳以上だとメリットがある患者は少数だろう
・Clinical Frailty Scale 7-8ではスタチンは(一次予防でも二次予防でも)推奨されないという報告もある。
・重度のフレイルでは一次予防は推奨されず,二次予防のみ治療という意見もある
・予後1年未満の患者でoffにしてもよい研究もでている