ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC】パーキンソン病や関連疾患の緩和ケアコンサルト基準(J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2021 Mar 31;92(6):629-636.)

UpToDateの「What's new in geriatrics」より抜粋③

パーキンソン病および関連疾患は神経変性疾患の中で2番目に多にも関わらずあまり緩和ケアが行われていない...という背景からパーキンソン病(PD)および関連疾患の緩和ケア/ホスピス紹介基準が提唱されました。
興味ある人はぜひ原著をあたってください😊

 

Prognostic predictors relevant to end-of-life palliative care in Parkinson's disease and related disorders: a systematic review
J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2021 Mar 31;92(6):629-636.

パーキンソン病(PD)は65歳以上の成人の1%以上が罹患する2番目に多い変性疾患
高齢化の進展,診断や治療の改善によりPDの有病率は増加している
PSP,DLB,CBD,MSAなどのPD関連疾患(PDRD)の患者さんの負担は大きく,身体障害,認知症,気分障害,精神病,死亡率増加,経済的負担などが含まれる

PDRDの患者さんは入院数,入院期間,院内死亡のリスクが高い
近年早期緩和ケアのメリットが示されているが,PDRDの患者さんは他の進行性疾患と比較して終末期に緩和ケア/ホスピスにかかる時間が短く,紹介される可能性も低い(0-69%)

PDRDは主要な死因のひとつであるがPDRDに対する特定の終末期緩和ケア/ホスピスガイドラインはない。(認知症,ALS,脳卒中などはある.Table1参照)

という背景から行われたレビュー


1. PDRDでは死亡率が高くPDRDの合併症が死亡に寄与している
2. 一般的な健康状態の悪化のマーカーはPDRDの死亡を予測する。
3. 疾患が進行した場合の疾患特異的マーカーはPDRDの死亡率を予測する可能性がある。
4. PDRDにおける死亡の一般的な疾患(嚥下障害や誤嚥性肺炎)は死亡と関連している

そしてPDRDの死亡に関する4つの主要な領域が認められた

A. 人口統計からの一般的な健康指標
B. 運動機能障害
C. 転倒と感染症
D. 非運動症状(認知機能障害,精神病症状,嚥下障害,睡眠障害,自律神経症状,喘鳴,神経性膀胱傷害)

この観点からホスピス/終末期緩和ケア紹介のための推奨事項が作成された


Table3: パーキンソン病とその関連疾患のホスピスガイダンスの提案(以下の3つの基準のうち1つ)(J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2021 Mar 31;92(6):629-636.)

1.A,B,Cのどれかの基準で示される疾患が進行した所見がある

A.前年度の重篤な栄養障害(脱水があり十分な液体/カロリー摂取ができない,BMIが18未満,六ヶ月で10%以上の体重減少があり人工栄養を拒否している)
B.前年度に命を脅かす合併症(誤嚥性肺炎の再発,骨折を伴う転倒,腎盂腎炎,敗血症,再発性の発熱かStage3以上の褥瘡)
C.ドパミン作動性薬剤への反応がひくい,あるいは許容できない副作用んために治療できずセルフケアに重大な障害をもたらす運動症状

2.急速ないし進行性の運動機能障害(歩行やバランスを含む),または非運動性疾患の進行(重度の認知症,嚥下障害,膀胱機能障害,MSAにおける喘鳴),または身体障害(1日中ベッドか椅子,理解できない言語,食事介助が必要 および/またはADLに大きな解除が必要)

3.認知症が進行しホスピス紹介基準を満たす
(Advanced Dementia Prognostic Tool, Minimum Data Set Changes in health, End-stage disease and Symptoms and Signs Score criteria)

 


なお,他の神経疾患のホスピス紹介基準は以下のようになる

Table 1 Current Medicare hospice guidelines for neurologic disorders with potential relevance to Parkinson’s disease and related disorders
(Neurology 2014;83:561–7.U.S. Department of Health and Human Services Health Care Financing. Medicare Hospice Benefits [online])

□Dementia(以下の2つ)
1.FAST stage 7c以上
2.過去1年間に1つ以上該当:誤嚥性肺炎,腎盂腎炎,敗血症,Stage3以上の女駆動,再発性の発熱,その他予後が限られると思われる状態,過去6ヶ月で十分な水分やカロリーが摂取できない(10%以上の体重減少かAlb 2.5g未満)

脳卒中か昏睡(以下の2つ)
1. Palliative Performance Scale Score 40%以下
2. 十分な水分・カロリー摂取を維持できない栄養状態不良(6ヶ月で10%の体重減少,3ヶ月で7.5%の体重減少,Alb 2.5g未満,言語療法抵抗性の誤嚥)

□ALS(PD,MD,MG,MS含む) (1か2)
1. 安静時の呼吸困難,肺活量30%未満,安静時に酸素が必要で人工換気を拒否している
2. 急速な進行(寝たきり,理解できない言語,流動食が必要,ADLに大きな解除が必要)+AかB

A:前年度の重篤な栄養障害(十分な水分/カロリー摂取の維持ができない,体重減少が続いている,脱水症状があり人工栄養を拒否している)
B:前年度に致死的な合併症があった(誤嚥性肺炎の再発,腎盂腎炎,敗血症,発熱の再発,Stage3以上の褥瘡)

□Generic/一般ルール(1+2)
1.末期の状態(複数の疾患でもよい)
2.過去3-6ヶ月の急激な悪化で疾患の進行の徴候を伴う(症状や徴候,Palliative Performance Scale 40%以下,意図せぬ10%以上の体重減少 および/または Alb 2.5g未満)


著者らはこの勧告のLimitationとして以下をあげています

1.システマティックレビューに関連するLimitation
→すべてのデーターベースを検索対象にしていない
→英語以外の論文を除外している
→品質評価は行っていない

2.終末期ホスピスケアは国ごとの定義が違う
3.殆どの研究はPDが対象であり他のPDRDを対象とした研究は少数
4.今回の推奨事項はより多くの質の高い研究が利用可能になれば更に進展するであろう

 

とのことでした。