ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC】白内障患者への手術介入は認知症リスク低下と関連

Association Between Cataract Extraction and Development of Dementia
JAMA Intern Med. 2022 Feb 1;182(2):134-141.

 

認知症のリスク 12個(教育不足,高血圧,聴覚障害,喫煙、肥満,うつ病,運動不足,糖尿病,社会的接触の少なさ,過度のアルコール消費,外傷性脳損傷,大気汚染)(Lancet 2020; 396: 413–46)

これに
✓多併存疾患( BMJ. 2022 Feb 2;376:e068005.)
白内障(JAMA Intern Med. 2022 Feb 1;182(2):134-141.)
が加わる!?という流れで個人的にはかなり熱い研究ではと思います


Abstract(抜粋)
重要性:高齢者にとって視覚機能は重要である。白内障手術などの視力維持のための介入は認知症リスクを下げる可能性がある。
目的:白内障手術が高齢者における認知症リスクの低下と関連するかどうかを明らかにする
デザイン/設定/参加者:前向き縦断コホート研究。参加者は登録時に65歳以上で認知症がなく、認知症(全原因,アルツハイマー病または関連した認知症)が発生するまで2年ごとに追跡調査された。登録前または追跡中に白内障または緑内障の診断を受けた人が解析に含まれた。
暴露:主要な曝露は白内障手術。白内障緑内障の手術データー,他に認知症関連の危険因子と健康関連変数の広範なリストも含めた。
主な成果:主要アウトカムは認知症。多変量Cox比例ハザード回帰分析で解析した。健常者バイアスの可能性に対処するため視力回復のない緑内障手術の関連を評価した。
結果:3038人が解析対象となった。白内障診断時の年齢は74.4歳,女性59%,白人91%だった。23554人年の追跡調査に基づいてリスクを調整すると白内障手術は認知症リスク減少することが示された(HR 0.71)。アルツハイマー認知症でも同様の結果が得られた。緑内障手術は認知症リスクと関連がなかった。
結論:今回のコホート研究により白内障手術が認知症発症低下と有意に関連することがわかった。今後の研究で検証されれば、白内障手術は認知症発症リスクのある高齢者において臨床的な関連性を持つ可能性がある。


■Intro抜粋

65歳以上の成人の20%が視覚や聴覚などの著しい感覚障害がある(J Am Geriatr Soc. 2016;64(2):306-313.)

視覚障害は重要な認知症リスク(JAMA Ophthalmol. 2017;135(9):963-970.JAMA Ophthalmol. 2018;136(9):989-995.)

白内障は高齢者の殆どが罹患しているが,白内障に対する手術と認知症の関連性はいろいろな結果が出ている(Epidemiology. 2003;14(4):493-497.J Cataract Refract Surg. 2004;30(3):598-602,J Cataract Refract Surg. 2006;32(1):60-66.)

白内障の診断後に手術をする/しない群の比較に加えて,healthy patient biasに対処するために
緑内障手術など視力回復とは関連がない参加者と比較することとした
サンプルサイズの解決のためにAdult Changes in Thought研究のデーターを使用した

 

■結果

認知症がなく白内障を発症し,診断後1回以上の受診があった3038人が解析対象となった
参加者の平均年齢は74.4歳(6.2),平均追跡期間は7.8年,853例の認知症(アルツハイマーは709例)の発症があった
参加者のうち67%でAPOE遺伝子型のデーターがあった

1382人が白内障の手術をうけた(46%)
1656人が白内障の手術をしなかった

 

白内障の手術は調整済みHR 0.71で認知症発症低下と関連していた
この効果は最初に5年間が強かった(HR 0.68 vs HR 0.76)

 

認知症のスコア(CASIスコア)を加えても同等の結果だった
アルツハイマー認知症でも同様の結果だった
緑内障手術は認知症の発症リスクと関連がなかった
認知症と診断される2年前の白内障手術を除外すると手術による認知症発症の保護効果はさらに強くなった

Implication
・3000人以上,23554人年の前向きの観察コホート
認知症を発症していないときに組み入れ,発症するまでフォローしえいること
・98%が一度は眼科医の診察をうけていること
認知症の診断は専門家の基準に基づいて行われた
・健常者バイアスや交絡因子の可能性を徹底的に検討した

Limitation
・視力や白内障の重症度は不明
・コードに基づいた研究
・最初の白内障の手術で評価しているので反対側の手術が影響したかは不明
・募集1年前までしかデーターにアクセスできないので白内障の診断が過小評価になっている可能性がある
・主な研究集団が白人なので他の人種に応用できるかは不明

 

■結論

✓65歳以上の成人で白内障手術は認知症発症リスク低下と有に関連していた
白内障手術による認知症発症予防効果が10年以上持続する可能性を考えると患者や家族にもたらすQoL向上は相当なものと考えられる