ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC】剣状突起痛 Xiphodynia とは?

剣状突起痛/Xiphodynia
 
頻度はまれ(?)ながら心窩部の筋骨格系の疼痛の鑑別に必ず入る疾患の剣状突起痛(Xiphodynia)
少し前の外来で紹介状をみて「剣状突起痛に違いない!!」とおもって意気込んだことがありました
 
カーネット陽性、感覚低下あり、ピンチサイン陽性、Hooking maneuver陰性、剣状突起の圧痛なし
 
ということで結局最終診断はTh8くらいの高さの左上腹部のACNESだったわけですが...良い機会なので学びなおしてみました
 
 
Xiphodynia: a rare cause of epigastric pain
Intern Emerg Med. 2018 Jan;13(1):127-128
63歳男性
受診6ヶ月前に自動車事故
受診3ヶ月前発症の経過の腹痛
CTで剣状突起の角度が鋭角であることが確認され剣状突起痛の診断
手術で切除された
 
外傷や重いものを持ち上げたり,手術による侵襲などが原因でおこる剣状突起の筋性癒着
確定診断はCT画像で可能
 
Xiphodynia
Am J Med. 2021 Mar;134(3):e215-e216.
石塚先生の症例報告
 
51歳男性
2dの経過の心窩部痛
疼痛部位に1cm程度の腫瘤と圧痛あり
自発痛なし,姿勢や動作により誘発される
カーネット徴候は陽性
CTで剣状突起の角度は133°で剣状突起痛の診断となり,病態説明後症状は改善した
 
Discussionより抜粋
痛みは胸部や背部に放散することもある
原因は外傷や軟骨炎の報告があるが特発性のこともある
剣状突起が皮下に隆起していれば剣状突起痛の可能性がある
剣状突起痛の症例の角度がそれぞれ105°,135°,120°であったが症状がない人の平均は172±15°だった
 
剣状突起の圧痛があれば診断可能であり診断は必須ではない
病態の説明のみで改善することも多く鎮痛薬やトリガーによる鎮痛も行われる
難治性の場合は切除術をおこなうことも
 
Xiphodynia
Intern Med. 2022; 61(1): 131.
70歳女性
4年前 肋骨骨折
3年前 時々起こる心窩部痛を自覚
前傾姿勢で増悪
身体所見では上腹部の圧痛と腫瘤のような突出物あり
CTで剣状突起が128°の角度で前方に突出していた
NSAIDsで改善した
 
Episodic abdominal and chest pain in a young adult. 
JAMA 307(16):1746–1747
22歳男性
1年前からの再発性の上腹部痛・胸痛があり7回入院している
外傷歴なし
NSAIDs,モルヒネ,抗不安薬で治療されている
ほぼベッド上でうつ伏せで眠れず咽頭部に痛みがある
剣状突起に圧痛がありステロイドやNSAIDsを注射しているが疼痛は持続している
 
剣状突起痛の診断の鍵の剣状突起部の圧痛の再現
局所薬投与への反応が乏しいため剣状突起術の切除が推奨される
CTでは異所性骨化/軟骨化が認められた
手術で2cmの軟骨検体が切除された
手術翌日に症状がおさまり10ヶ月後も症状の再発はなかった
 
Discussionより
ギリシャ語で剣を意味するxiphosが由来
稀な疾患と思われていたが一般病棟の2%にいて従来考えられているより多いという報告もある
 
放散する場所は色々(頸部,背部,腕,肩,胸壁...etc)
嘔吐や下痢を伴うこともある
診断は臨床診断で剣状突起部の適度な圧迫に寄る圧痛
皮下の隆起が明らかなこともある
 
Xiphodynia and prominence of the xyphoid process. Value of xiphosternal angle measurement: three case reports
Joint Bone Spine. 2010 Oct;77(5):474-6
 
剣状突起痛の症例の角度がそれぞれ105°,135°,120°であった
症状がない人の平均は172±15°
 
 
Xiphodynia Mimicking Acute Coronary Syndrome. 
Intern Med. 2015; 54: 1563-6.
 
脳卒中と糖尿病と胃癌に対する部分切除の既往のある79歳男性
労作時の心窩部痛で入院
CAGで90%狭窄がありPCIを行った
しかし痛みが改善しなかった
造影CTで剣状突起が5cmの大きさに伸びているのがわかった
剣状突起部を押すと圧痛が得られた
アセトアミノフェン,トラマドール,モルヒネ,SNRIは効果がなかった
ステロイドと局所麻酔薬の局所投与も効果がなかった
剣状突起切除術が行われたあと疼痛は直ちに消失し7ヶ月再発はなかった
 
 
 
ということで
 
私見としては...
 
■剣状突起痛 Xiphodynia 
 
・頻度は不明だが診断不明の胸痛・上腹部痛(剣状突起部)の痛みの鑑別に剣状突起痛は考えよう
・放散痛はいろいろな場所に起きうる
・筋骨格系の疼痛なので圧痛があり、体動やカーネット徴候で増悪する
・診察で剣状突起が腫瘤様にふれることもある
・画像は必須ではないがCTで剣状突起の角度をみると診断の補助になるかもしれない
・病態の説明で改善することもあれば局所薬の投与で改善がなければ切除が必要なことも
 
ということでした😊