ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

高齢者診療における"Diagnostic Excellence"とは?(JAMA. 2022 Mar 8;327(10):919-920)

高齢者診療における"Diagnostic Excellence"とは?(JAMA. 2022 Mar 8;327(10):919-920)

 

JAMAの Diagnostic Excellenceシリーズより抜粋です

個人的にはめちゃめちゃささる内容でした!!

 

高齢者医療における診断のエッセンスがぎゅっとつまった内容で...非常に臨床的な内容でした。詳細を知りたい人は是非原著をお読みください😊

 


Achieving Diagnostic Excellence for Older Patients
JAMA. 2022 Mar 8;327(10):919-920

かなりざっくりと抜粋しています

 


1.疾患発現の違い

高齢者だと非典型的でくる経過がしばしばみられる
肺炎でも発熱や胸痛を伴わず、認知機能の変化のみが症状として現れたり、疼痛なしの心筋梗塞は高齢者だと頻度が増加する

 

2.コミュニケーションの難しさ

 

聴覚障害認知障害は、頻度が高く見落とされがちな疾患であり、なおかつ、正確な病歴を収集する上での課題にもなる。

難聴は年齢とともに増加し、75歳以上の高齢者の半数以上が罹患しているにもかかわらず、スクリーニング検査で病歴や身体検査に含まれることはほとんどない。

 

聴覚に問題がある高齢者のうち補聴器を使用しているのは14-30%程度。この頻度の低さには補聴器のコストやスティグマが関係している。難聴はうつ,認知,転倒のリスクとしても高齢者に関連している。


認知機能障害は初期であればかんたんに見過ごされる。系統的なスクリーニングや適切な家族の関与がないと、病歴聴取で大きな過ちを起こすことがある。


介護者や同伴者は、重要な情報を持っていることが多い。しかし、主な情報源は患者であり、診断のための問診と評価の中心となるべきである。患者の自律性の尊重と、他者から最大限の情報を引き出すことの必要性のバランスをとることが熟練した臨床医である。

 

3.診断プロセスを混乱させる複雑さ

 

高齢者医療の診断の難しさの要因は老年医学の根底にある複雑さである。高齢者は複数の慢性疾患を抱え、複数の薬剤を服用し、複数の臨床医(プライマリ・ケア医と専門医)がケアを行うが、これらの臨床医は常に互いにコミュニケーションをとっているとは限らない。


高齢者は薬の副作用や薬物相互作用の影響を受けやすい。薬剤に関する情報は診断プロセスにおいて必須である。また、薬の数を安全に減らすことは高齢者医療の重要な原則でもある。


節約の法則、いわゆる、オッカムの剃刀は高齢者医療では有用ではないかもしれない。高齢者が倦怠感やめまいなど漠然とした症状を訴えている時薬剤の相互作用なども考慮するべきある。発熱がなく痛みのない尿路感染症、難聴によるうつ様症状の悪化...機能改善とQOLの向上を目指すためには、これらすべての要因を評価し、対処しなければならない。


加えて臨床医は過剰検査の危険性にも留意する必要がある。詳細な病歴聴取と診察による多くの検査が回避することができる。


4. Ageism/年齢差別のリスク


「高齢」に対する固定観念や否定的な態度は、診断の探求を早期に終了させる結果になりかねない。Ageismとは、「人種差別や性差別が肌の色や性別で達成されるのと同様に、高齢であることを理由とした固定観念や差別のプロセス」と定義され、社会にも臨床ケアにもいまだに広く浸透している。

高齢患者を治療する際の暗黙的な徒労感は、診断の卓越性を損なっている


□What Is Diagnostic Excellence for Older Adults?


高齢者における卓越した診断には省略エラーのリスク(診断の見落とし)と共に遂行エラー(過剰検査,過剰治療)も認識する必要がある。ケアの目標達成のために個別化アプローチは高齢者において特に重要である。複数の慢性疾患を持つ高齢者において、患者の身体機能や認知機能を考慮しながら、個人の目標を理解することは診断医の重要な課題である。


特に高齢の患者において、介入の潜在的なリスクや医療環境で過ごす時間が長いことが望ましくないことや、QOLのために診断の不確実性を許容する患者もいる。このような場合、臨床医は患者の価値観を尊重するようなコミュニケーション能力を必要とする。不確実性を許容し、残りのQoLを最適化するために症状を注意深く治療する姿勢が必要である。患者の年齢や状況の変化により、ケアの目標がどのように変化するかを理解することは、高齢者における診断の卓越の中心をなすものである。

□Key Points for Diagnostic Excellence(一部改変)

1. 加齢に伴い医学的な複雑さが増し、診断の難易度が増す。
2. 過剰診断と過小診断はよくあることであり、同程度に危険。
3. 様々な基礎疾患の相互作用により、曖昧な徴候が生じることがある。
4. Ageism的な固定観念は、Diagnostic Excellenceを妨げることがある。
5. 患者や家族は重要な情報提供者である。