ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC】せん妄 JAMA. 2017; 318(12): 1161–1174.  

Delirium in Older Persons

JAMA. 2017;318(12): 1161–1174.  
 
2017年のレビューで過去6年をまとめたもの...なので少し古いかもですが最近読んでみてとても勉強になりました😊
 
抜粋して箇条書きにしてみました
 
原著のアルゴリズムは非常にわかりやすくまとめられているので興味ある人は是非原著を一度見ること推奨です😊
 
ざっくりまとめると診断と治療に関しては
 
・3D-CAMと4-ATという優秀なスクリーニングツールがでてきた
・CAM-Sという重症度評価ツールが出てきた
・非薬物療法による多因子介入が予防に有用
・薬剤での予防は抗精神病薬に関しては否定,一部の薬剤が効果があるかもしれない
抗精神病薬での治療はメリットがデメリットを上回らない
 
という状況のようです
 
3D-CAMと4-ATに関して興味ある人は是非こちらもご参照ください😊
 
 
 
□本文抜粋
 
・せん妄には、低活性型と高活性型がある。低活動型は高齢者に多く、しばしば認識されず、合併症や死亡率の上昇につながる。
・診断にはベースラインの精神状態と変化を判断することである
・通常は数時間〜数日にわたって生じる
・注意力障害はせん妄では高頻度でみられるが認知症後期でもみられる
・意識レベルの変容は認知症,うつ,精神病ではあまりみられないせん妄特有の症状である
 
・検査は病歴や身体診察から得られた情報に基づいて行う
・せん妄は多因子であり、多くの素因(高齢,認知機能障害,併存疾患)と促進因子(感染症,代謝異常,薬剤)など様々なものの影響をうけることにも留意するべきである
 
・せん妄と認知症は共存することが多い。せん妄と認知症を診断的に区別することだけでなく、せん妄が既存の認知症と重なっている場合、認知症単独の場合と比較して、認知・機能低下の速度が速く、入院期間が長くなり、再入院、施設入所、死亡率が高くなるという予後に関連することを認識することが大切である。
 
□臨床診断
 
・CAMのアルゴリズムは,せん妄の4つの特徴(急性発症,症状の変動,注意力障害,思考の混乱または意識レベルの変化)の存在に基づいており,高い感度(94%-100%),特異性(90%-95%),および評価者間信頼性(κ=0.92)を誇る
・様々なスクリーニングツールがあるが,その中でも3D-CAMと4A's テスト(4AT)は診断精度の報告基準で高い評価を得ている。
・3D-CAMは,CAMの4つの中核的な特徴を評価するための簡単なアセスメント(3つの方向性項目、4つの注意項目、3つの症状プローブ、10の観察項目)で,入院患者の前向き検証試験において臨床参照基準の評価と比較して,95%の感度と94%の特異性がある(Ann Int Med. 2014;161(8):554–561.)
・4A's テスト(4AT)はツールも簡潔で実施しやすく,感度は89.7%,特異度は84.1%である。スコアによっては詳細な評価が推奨される。(Age Ageing. 2014;43(4):496–502)
・Nu-DESCは感度72%特異度80%(Br JAnaesth. 2013;111(4):612–618.)
・覚醒,鎮静,意識レベルを測定するModified Richmond Agitation and Sedation Scale(mRASS)は,感度が64-70%でありせん妄のスクリーニングツールとしては推奨されない
 
  せん妄 認知症 うつ 精神病
意識状態の急な変化 + - - ±
注意力障害 + ± ± ±
意識障害 + - - -
支離滅裂な思考 + ± - +
精神運動活動の障害 + ± + +
慢性経過 ± + + ±
 
 
□せん妄の重症度
 
・せん妄の重症度測定は,臨床経過と回復へのフォロー,治療への反応のモニタリングのために重要。
・せん妄の重症度測定にはDelirium Rating Scale-Revised-98(DRS-R-98)およびMemorial Delirium Assessment Scaleが広く用いられてきた。
 
・Confusion Assessment Method-Severity(CAM-S)が開発された。これは、CAMの短いバージョンまたは長いバージョンをベースにした新しいスコアリングシステム
・2つのコホート合計1219人以上の患者を含む質の高い検証研究では、CAM-Sが入院期間,入院費用,老人ホーム入居,死亡などせん妄に関連する重要な臨床結果に対して高い予測妥当性があることが示された(Ann Intern Med. 2014;160(8):526–533)
・入院期間中のCAM-Sスコアの合計など、強度と期間の両方を含むエピソードの重症度指標が、30日および90日の病院後の転帰と最も強い関連を持つことが示された(J Gen Intern Med. 2016;31(10):1164–1171.)
 

Delirium Observation Screening scaleは、看護師による新しいせん妄の測定法で、DRS-R98得点と強い相関があるが、検証試験はまだ終了していない。(Int J Geriatr Psychiatry. 2011;26(3):284–291.)

 

□Advances in Prevention and Treatment
 
 
2014年、米国老年医学会と米国外科学会は、術後せん妄の予防と治療に関する臨床実践ガイドラインを共同で発表した(Table 3)(J Am Geriatr Soc. 2015;63(1):142–150)
 
ここには 新たに
 
・低活性型せん妄に対する薬物治療の回避(BZOと抗精神病薬)
・アルコールまたはベンゾジアゼピン系薬剤の離脱症状を除くせん妄治療へのベンゾジアゼピン系薬剤の使用回避
 
が追加された
 
Table 3: American Geriatrics Society Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Treatment of Postoperative Deliriumaより一部抜粋
 
 
□強く推奨
✓リスクのある患者に対して予防のための多因子非薬物的介入:早期離床,身体抑制を避ける,見当識を入れる,睡眠衛生,適切な酸素と水分と栄養
✓教育プログラム
✓疼痛管理(できれば非オピオイドによる治療)
✓避けるべき薬剤(高用量オピオイド,BZO系薬剤,抗ヒスタミン,ジヒドロピリジン)
コリンエステラーゼ阻害剤は、術後せん妄の予防や治療のために新規に処方すべきではない。
ベンゾジアゼピン系薬剤は、せん妄に伴う興奮の第一選択薬として使用すべきではない。
ベンゾジアゼピン系薬剤と抗精神病薬は、低活動性せん妄の治療には使用しない方がよい。
 
□弱く推奨
 
✓治療のための多因子非薬物的介入:早期離床,身体抑制を避ける,見当識を入れる,睡眠衛生,適切な酸素と水分と栄養
抗精神病薬は最小量で最短期間でひどく興奮したり,苦痛だったり,自傷他害の恐れがある場合に使用する
 
 
 
・多因子の非薬理学的アプローチによる一次予防は、入院中のICU以外の内科および外科患者のせん妄予防に最も効果的な戦略であることが一貫して実証されている。
・これらの予防戦略には,早期の離床,十分な水分補給,睡眠の強化,時間や場所への適応,回想法などによる認知刺激のため,必要に応じて補聴器や視覚補助具を使用した聴覚や視覚の最適化が含まれる。
 
 
Table 4 : Multicomponent Nonpharmacologic Approaches to Delirium Prevention
 
オリエンテーションや治療的な活動:照明,標識,時計などの設置。時間,場所,役割などオリエンテーションをいれる。認知を刺激するような活動(回想法)を導入する。家族や友人の定期的な訪問を促す。
✓水分補給,栄養補充,早期離床
✓視力や聴覚の補助
✓睡眠の強化:可能であれば睡眠中の医療行為や看護行為は避ける。睡眠を妨げないような服薬スケジュールを組む。夜間の騒音を減らす。
✓感染予防:不必要なカテーテルの会議,感染予防の実施
✓疼痛管理
✓内服管理/再評価
 
 
・通常、せん妄は複数の要因によって引き起こされるため、効果的な予防戦略は多職種チームによってまとめて(通常一度に3つ以上)実施される必要がある。
・Hospital Elder Life Programに基づく14の介入研究のメタアナリシスでは、これらのアプローチにより、ICU以外の65歳以上の入院患者のせん妄発生リスクが53%,転落リスクが62%有意に減少している(JAMA Intern Med. 2015;175(4):512–520. )
・しかし,せん妄の予防に関するCochraneレビューでは,16,082人の患者を含む39の臨床試験を検討し,多成分の非薬理学的介入はせん妄の発生予防に有効だが,せん妄の重症度または期間の減少にはそれほど強固ではないという中程度の質のエビデンスを見いだしている(Cochrane Database Syst Rev. 2016;3:CD005563)
 
・また,非薬物療法によるせん妄予防のアプローチは長期療養,がん患者,終末期疾患では,これらの介入によるせん妄予防の効果はより限られていた(Cochrane Database Syst Rev. 2014;(1):CD009537.)
 
・老年医学コンサルティングによるアプローチの成功は、コンサルタントが行った勧告を医療従事者が遵守するかどうかにかかっている(Lancet. 2014;383(9920):911–922)

・最近のCochrane reviewでは、16歳以上の入院中のICU以外の内科・外科の成人患者を対象としたせん妄予防のために抗精神病薬は有益性はみられていないことが認められた(Cochrane Database Syst Rev. 2016;3:CD005563.)
・同メタアナリシスから,コリンエステラーゼ阻害剤,メラトニン,メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)など、せん妄を予防するための薬剤の使用を支持するわずかなエビデンスが見いだされた(Cochrane Database Syst Rev. 2016;3:CD005563)
 
 
□Treatment
 
・近年の研究では、せん妄の治療に対する非薬物的アプローチを検討したものはほとんどなかった
・療養施設におけるせん妄と治療のための修正HELPプログラムがパイロット研究で実行され高い満足度と入院率の減少をしめしている(J AmGeriatr Soc. 2016;64(5):1108–1113.)
認知症に重なるせん妄に対して、急性期後のケアで認知刺激のために回想法のような日常的な治療活動を用いた最近の臨床試験では、せん妄の期間や重症度に対する効果は認められなかったが、実行機能の有意な改善と入院期間の短縮が証明された。(J Am Geriatr Soc. 2016;64(12):2424–2432.)
・せん妄専用の部屋や睡眠改善に焦点を当て、耳栓、明るい光療法、睡眠プロトコルを用いてせん妄の治療を行っているが、その結果はさまざまで限定的であった(Crit Care. 2012;16(3):R73.Gen Hosp Psychiatry. 2012;34(5):546–551.)
 
・薬剤に関しては,ほとんどの研究では,抗精神病薬によるせん妄の持続期間や重症度の減少の効果は認められていない。
・近年のシステマティックレビューでは、リスペリドン経口剤、オランザピン経口剤、セロクエル経口剤、ジプラジドン筋注、ハロペリドール経口剤、静注、筋注などの抗精神病薬を検討し、入院高齢者のせん妄の治療(あるいは予防)に抗精神病薬を使用することは現在のエビデンスでは支持できないと結論づけている。(J AmGeriatr Soc. 2016;64(4):705–714)
 
□Key Point
 
高齢者のせん妄の診断,予防,管理について6年でどのような進歩があったか?
 
・せん妄の認識とリスク層別化のための簡単なスクリーニングツールおよび改良されたせん妄重症度測定ツールが開発された。
・非薬物的な多成分戦略によるせん妄予防は有効である
・せん妄の薬理学的管理については、有益性が有害性を上回らない。安全性のリスクを伴う重度の興奮状態にある患者以外には控えることが推奨される。