ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC】高フェリチン血症の鑑別は

高フェリチン血症,予想外の値がでた症例がありチームの症例で話題になったついでに調べてみました
 
まとめると
 
・高フェリチン血症の原因が鉄過剰症であることは少ない(10%未満)
・フェリチンは炎症やサイトカインストーム,腫瘍,肝障害,腎不全,飲酒やメタボリックシンドロームなどでも上昇しうる
・高フェリチン血症の原因が単一でなく複合的なこともある
・小児においてフェリチン>10,000μg/Lは、血球貪食の診断に高い特異性と感度を示す 。疾患によってある程度傾向はあるが,成人では腎障害,肝障害,感染症,血液悪性腫瘍などの様々な疾患がフェリチン値異常高値をきたすので1万以上でも特異的とはいえない
・腎不全,非HIV感染症,固形腫瘍の単独では2000を超えることはあまりない
・飲酒でもフェリチンは上昇しうるが1000を超えることはあまりない
 
 
ということで...フェリチンの解釈は臨床状況による、という結論に。。。
そうはいっても色々ヒントになることも少なくないので個人的には好きなマーカーです
 
日本の疫学データーや、肝障害で上昇する、NAFLDや飲酒でもあがる、というのも知らなかったのでこれはこれで学びになりました。
 
 
Hyperferritinemia: causes and significance in a general hospital
Hematology. 2018 Dec;23(10):817-822.
聖路加国際病院からの論文(日本の疫学!!)

フェリチンが500以上の1670人
276人が除外され1394人が解析対象
平均年齢は66.0歳,62.7%が男性
フェリチンの中央値は1024

1000以上は51%
3000以上は22%

感染症 44.8%
固形腫瘍 26.3%
肝障害 20.3%
腎不全 20.2%
血液腫瘍 12.0%
鉄過剰症 6.7%
リウマチ/炎症疾患 6.3%

・血清フェリチン値が高い群では低い群に比べ、HLHおよび血液学的悪性腫瘍の患者の割合が高くなっていた。
・59%の患者が高フェリチン血症の検出可能な原因を1つ持っており、統計的に有意ではなかったが、基礎疾患が多いほど血清フェリチン値が高くなる傾向が見られた
・41%の患者には複数の原因があり、そのフェリチン値は共存する原因の複合的な影響を反映していると思われることがわかった。
・各病因に関連する血清フェリチン値の範囲は広いが、腎不全、非HIV感染症、固形腫瘍の患者では、血清フェリチン上昇の程度は緩やかで2000を超えることはほとんどなかった。
・HLHやHIV感染症患者では,患者数が少ないにもかかわらず,血清フェリチン値が高い傾向があり,中には血清フェリチン値が数万μg/Lとなる著明な高フェリチン血症を示す患者もいた.
・リウマチ・炎症性疾患、血液悪性腫瘍、肝疾患の患者では、血清フェリチン値の幅が広く、中には著明な高フェリチン血症を示す患者もいた。
・血清フェリチン値の上昇が比較的緩やかな疾患でも、一部の患者では10,000を超える顕著な高フェリチン血症を引き起こす可能性がある
・併発する疾患がフェリチン値をさらに上昇させる可能性があること、また、「高フェリチン血症」は血清フェリチン値の上限がなく非常に広い範囲を占めることを考えると、
 

・非HIV感染症、肝機能障害、腎不全は、前述したように一般に単独では著しい高フェリチン血症を引き起こさないが、他の病因と組み合わさることにより、著しい高フェリチン血症をおこしうる
 
□Table 2 フェリチン>500 1394人の疫学

HIV感染症 44.8%
固形腫瘍 26.3%
肝障害 20.3%
腎不全 20.2%
血液悪性腫瘍 12.0%
鉄過剰症 6.7%
リウマチ/炎症性疾患 6.3%
HLH 1.4%
HIV感染 0.8%
溶血性貧血 0.2%
その他 10.8%

□Table 3 フェリチンが上がる疾患の数とフェリチンの中央値

疾患数1/904
疾患数2/1133
疾患数3/1460
疾患数4/2270

□Table 4 単一の原因でフェリチンが上昇している疾患とnと中央値とSD

HLH(2) 44901(54163)
リウマチ/炎症性疾患(29) 1142(14438)
血液悪性腫瘍(63) 1330(9308)
固形腫瘍(145) 1165(1707)
non-HIV感染(250) 872(1969)
肝障害(95) 1080(33202)
腎不全(88) 720(2109)
HIV感染(4) 2551(55355)
他(147) 828(166881)


□Table 5 フェリチン>10000 111人の疫学

non-HIV感染 47.3%
肝障害 35.5%
血液悪性腫瘍 30.9%
腎不全 23.6%
鉄過剰症 21.8%
固形腫瘍 20.9%
リウマチ/炎症性疾患 14.5%
HLH 13.6%
HIV感染 2.7%
溶血性貧血 1.8%
他 3.6%



Causes and significance of markedly elevated serum ferritin levels in an academic medical center
J Clin Rheumatol. 2013 Sep;19(6):324-8.

627人のフェリチン>1000の解析
年齢は18-91歳,57%が男性
悪性腫瘍 24% 鉄過剰症 22%
純粋な炎症性疾患は稀だった(4.3%,27例)
6例がHLH/MAS/AOSDによるものだった
5例は診断不明

50歳未満では鉄過剰症が最多(27.8%),肝障害性(18%)
50歳以上では悪性腫瘍(30.1%),鉄過剰症(17%),肝障害(16.5%)

フェリチンの中央値
炎症性症候群 4799(SD 6830)
鉄過剰症 3112(SD 3112)
肝障害 2477(4866)
重症感染 2408(3134)
悪性腫瘍 2849(3926)
CKD 1580(1046)
慢性疾患性の貧血 1248(155)

フェリチン>10000は18人
悪性腫瘍 6
鉄過剰症 4
炎症性 4(HLH/MAS)
感染症 2
肝障害 2

HLH/SJIA/MAS/AOSDの診断を受けた人は他の炎症性疾患よりフェリチンが高い傾向にあった
14242(SD 9379) vs 2101(SD 2064)


□Hyperferritinemia-A Clinical Overview
J Clin Med. 2021 May 7;10(9):2008. 
 
 
・炎症がない状態であればフェリチンは鉄欠乏症の診断に非常に特異的で感度の高いパラメータ
・高フェリチン血症は、急性期反応時,サイトカインによる刺激,肝疾患における肝細胞障害でもみられる
 
・高フェリチンで鉄過剰症は10%未満と言われている
・その他の原因は炎症,サイトカインによる刺激,メタボリックシンドローム,慢性アルコール摂取,肝細胞障害,悪性腫瘍など。複合的なこともある。
・小児においてフェリチン>10,000μg/Lは、HLHの診断に高い特異性と感度を示す 。しかし、慢性腎臓病、感染症、血液学的悪性腫瘍などの様々な疾患がフェリチン値>50,000μg/Lを示すことがあるため、成人患者集団では当てはまらない。
 
 
・転移性悪性腫瘍においてフェリチン>1,000μg/Lはよく見られる
・アルコール性肝疾患や非アルコール性脂肪性肝疾患 (NAFLD) を含む急性および慢性肝障害の際に、フェリチンは >10,000 μg/L に達することがある
・飲酒のみでも<1000μg/Lのフェリチン上昇はよくみられる
・鉄過剰症を伴わない高フェリチン血症のまれな遺伝的原因に遺伝性高フェリチン血症白内障症候群(HHCS)とゴーシェ病がある。
 
□疫学
 
・白人男性の約20%は、年齢に関係なくフェリチン値が300μg/Lを超えている
・女性では、月経や妊娠のためにフェリチンの年齢分布が顕著である。30~50歳の女性では、200μg/Lを超えるのは3%だが、70歳を超えると17%にも達する。
・フェリチンの上昇は、アジア系やアフリカ系アメリカ人の健康な個体でしばしば見られるが、鉄過剰症やC282Yホモ接合の存在は、これらのグループではまれである。
 
・日本で行われたフェリチン>500μg/Lの外来および入院患者を対象とした研究では、被験者の41%がこの増加の原因となる複数の基礎疾患を有していることが示された。さらに、フェリチン値が10,000μg/Lを超える患者の70%が複数の病因を有していた。基礎疾患が多い患者ほど、フェリチンレベルは高かった。この増加は統計的に有意ではなかったが、他の研究でも同様の関連が報告されており 、フェリチンの上昇は特定の病因に依存するだけでなく、併存する基礎疾患の数にも徐々に関連していることが示唆される。
 
 


□WorkUP

 
・いくつかガイドラインがあるが推奨事項が合致していない
・高フェリチン血症の診断ワークアップにおいて臨床医をよりよく支援するために、我々は、根本的な原因の特定とさらなる管理のためのアルゴリズムを提案する
・ほとんどの場合,非侵襲的な診断ワークアップにより原因が特定される。初診時に予想外に高いフェリチンを示す患者は,併存する疾患が手がかりとなりうるため,臨床医がさまざまな疾患におけるフェリチン上昇の特徴について知っておくことは有益である。先に述べたように,鉄の指標異常を評価する際には,遺伝的,環境的要因,年齢,性別も考慮する必要がある
・溶接ヒュームの長期暴露は、最近、溶接工のサブグループにおける全身性鉄過剰症の新規原因として示唆されており,職業性既往歴が関連する可能性がある。
 
・高フェリチン血症の家族歴も,遺伝的原因を示している可能性があるため,注目される。患者の既知のヘモクロマトーシスの第一度近親者がいる場合、HFE遺伝子検査に直接進むことを考慮すべきである。
 
・フェリチンの測定を一定期間繰り返すことは、しばしば合理的である。トランスフェリン飽和度が正常な健康な患者において、フェリチン<1000μg/Lの中等度かつ孤立した値に遭遇した場合、適切であればライフスタイルを調整し、2~3ヵ月後に測定を繰り返す観察期間が、診断ワークアップにおいて有用であることを証明するかもしれない
 
・アルコールによる高フェリチン血症、肝脂肪症、脂肪肝炎、急性期反応などは、通常、フェリチン値が変動するが、ヘモクロマトーシスや遺伝性高フェリチン血症白内障症候群のような高フェリチン血症を特徴とする遺伝子疾患では、比較的安定したフェリチン値を示すことがある。

・フェリチンが10,000μg/L以上と著しく高い場合は、成人発症のスチル病やHLHなどの稀な疾患を考慮する必要があるが、腎臓疾患、肝臓疾患、感染、悪性腫瘍など、よりありふれた疾患でも見られることがある。
 
・トランスフェリン飽和度が正常である場合、調査の初期段階において、二次的な原因が注目される。貧血の有無,炎症反応の有無,肝障害の有無,腎機能などの情報が有用。
 
・フェリチンが1000μg/L以上で安定しており、かつ/または肝機能検査に異常がある患者は、トランスフェリン飽和度にかかわらず、肝線維化のリスク上昇と関連するため精査が必要である
・フェリチンの緩やかで進行性の経時的な増加は、継続的な鉄過剰症を示し、通常、トランスフェリン飽和度の上昇で確認することができる。
・急性感染症,月経,最近の献血は,鉄過剰症が存在する状況でもトランスフェリン飽和度を一時的に正常レベルまで低下させる可能性があることにも注意すべきである
 

★Table 2 抜粋
 
フェリチン 50000以上のData
(Blood. 2015;125:1548–1552.)
 
患者数 113人
2つ以上の疫学同定率 86.7%
非特異的感染症 46%
血液悪性腫瘍 32%
固形悪性腫瘍 4%
リウマチ/炎症性疾患 18%
肝障害 54%
腎不全 65%
鉄過剰症 12%
HLH 20%
血液学的異常 4%
他の原因 2%
不明 0%
 
フェリチン 10000以上のData
(J Clin Pathol. 2013;66:438–440.Hematology. 2018;23:817–822. Am J Clin Pathol. 2016;145:646–650. Ann Hematol. 2017;96:1667–1672.)
 
非特異的感染症 4.3-47.3%
HIV感染症 2.7-8.7%
血液悪性腫瘍 8.7-30.9%
固形悪性腫瘍 2.5-20.9%
リウマチ/炎症性疾患 1.8-14.5%
肝障害 15.1-35.5%
腎不全 9.4-23.6%
鉄過剰症 5.3-35.0%
HLH 0-16.7%
血液学的異常 1-8.7%
 

□Table3 : 肝臓への鉄負荷を考慮するべき臨床例
・トランスフェリン飽和度が50%以上であるが、明らかな原因がない。
・フェリチン>1000μg/Lで、トランスフェリン飽和度が正常で、明らかな説明がつかない
・フェリチン>1000μg/Lで肝疾患の危険因子(例:アルコール、ウイルス性肝炎、肥満)がある場合
・フェリチン>1000μg/Lおよび/または肝トランスアミナーゼの上昇を伴うC282Yホモ接合体
・高フェリチン血症で輸血歴が複数回ある場合
・高フェリチン血症とフェリチン上昇に関連する複数の病態が確認された場合
・フェリチンが長期にわたって上昇し、その原因がコントロールされているにもかかわらず、フェリチンが上昇する場合

★アルゴ抜粋

✓まずTSATで鉄過剰どうか判断
✓TSATのカットオフは男性 45%,女性 40%

✓鉄過剰であれば貧血の有無を確認
→貧血があれば治療による鉄過剰を考慮
→貧血がなければ遺伝検査を考慮

✓鉄過剰がなければ肝障害をチェック
→肝障害があれば肝障害のWorkUP(ウィルス性肝炎含む)へ
→肝障害がなければ炎症(CRP/ESR)の評価へ
→炎症があればその精査
→炎症がなければメタボリックシンドロームのチェック
→場合によっては肝臓のMRIで評価をする