ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

シャルコー関節症に関して

Mayoの症例をきっかけにちょっと確認。
一言でいうと「糖尿病性神経障害の人で生じる抗菌薬治療抵抗性蜂窩織炎様症状,初期レントゲン正常だが診断が遅れると骨や関節の変形や破壊が進行する疾患」、蜂窩織炎のmimicker/cluster疾患と考えるのがよさそう。
 
シャルコー関節症に関して

シャルコー関節症は一度関節の機能障害が生じると数ヶ月以内に不可逆的な破壊や変形をおこす。初期は変形性関節症様で,進行すると関節にたまった余分な体液と骨の異常な増殖のため関節が腫脹し,袋に骨が入っているようなぶよぶよした感じになる。

足や足首のシャルコー関節症は変形,不安定,再発性潰瘍,切断などにつながり全体的なQoLを低下させ,合併症や死亡率を劇的に増加させてしまう。シャルコー関節症の原因はハンセン病,毒物暴露,脊髄空洞症,ポリオ,慢性関節RA,多発性硬化症,先天性ニューロパチー,外傷など様々だが現在は糖尿病が原因の一番。

真の罹患率は不明だが研究によっては年間発生率0.3-0.85%,有病率は一般糖尿病患者の0.08%,DM足専門CLでは13%程度とされている。50-60代に多いという報告もある。

□臨床症状

シャルコー関節症の臨床像は典型的には熱感+腫脹+紅班。初期症状は軽度〜中等度の痛み,浮腫,むくみで靴をはけない...など。基本的に全ての患者は重度の末梢神経障害を持っているため感覚障害があり,発覚がおくれることもある(神経障害がベースにあるため病歴が不正確になるのはやむをえない)。両側性の報告は5.9-39.3%だが同時に両側性で生じるのは0.7%程度。

□診断に関して

誤診は多い。というか7-8割が誤診される。
外観上は感染症と区別がつかない

長期の糖尿病がありコントロール不良で末梢神経障害があり,開放性潰瘍がなく,赤く腫脹した足がある場合シャルコー関節症は鑑別診断の上位にくる。他の鑑別診断は骨髄炎,痛風/偽通風,蜂窩織炎,膿瘍,神経障害性骨折,DVTなど。

大部分のDM足感染症は潰瘍など開口部を通しての障害から始まるので潰瘍や解放創がなければ感染症の可能性は下がる。なお、蜂窩織炎や骨髄炎からシャルコー関節症がおこることもあるので感染症があってもシャルコー関節症は除外できない

感覚がない状態での反復的な障害の累積はシャルコー関節症に進展する可能性があり,変形,潰瘍,感染,切断を招くリスクがある。診断のdelayは合併症や死亡につながるが、特にStage0の患者はXrが陰性のために蜂窩織炎,痛風,DVTと誤診されうる。7-8割が捻挫,骨髄炎,Sudeck萎縮/CRPS,DVT,蜂窩織炎,関節RAなど誤診されていた。なので臨床医がシャルコー関節を強く疑うことを過小評価するべきではない

シャルコー関節症に対する画像検査

・早期診断にはMRIが推奨されている(stage0でもひっかけられる)。
・早期(stage0)ではレントゲンは正常。
・骨髄炎とシャルコー関節症はある程度MRIで鑑別可能(難しいこともある)
→骨髄炎:単一の骨の骨髄のびまん性信号変化,つま先/中足骨/踵骨が好発
シャルコー関節症:関節周囲や軟骨下の信号変化,靭帯損傷などの所見がでて,単一の骨ではなくいくつかの関節/骨が関与する
・骨シンチは感度は高いが特異度は低い(除外に使える)。骨シンチは骨髄炎の除外にも使えるので臨床状況に応じて選択肢になりうる。
・PET-CTも有用で骨髄炎との鑑別も可能という報告がある。研究によっては感度93.8%特異度100%。

シャルコー関節のStage/Modified Eichenholtz stages

0:炎症(inflammatory)フェイズ:局所の熱感,腫脹,発赤。Xr上は陰性。MRIで転移なしの病的骨折や足や足関節の骨髄浮腫
1:発達(Development)フェイズ:局所の熱感,腫脹,発赤。画像上で骨片,軟骨下骨の断片化,関節周囲骨折,亜脱臼や脱臼
2:融合(Coalescence)フェイズ:局所の熱感,腫脹,発赤はあるがすこしおさまる。画像上は破片の吸収や融合,新規骨形成,関節の融合/強直,骨末端の硬化症
3:リモデリング(Remodeling)フェイズ:局所の熱感,腫脹,発赤はほぼないか消失している。腫大した変形病変がある。画像上は骨の新形成やリモデリング,硬化症の減少,変形の残留

●まとめ

シャルコー関節症の早期診断は難しいが診断遅延/診断エラーがあると合併症や死亡につながるので早期診断が望ましい
・外傷の病歴の有無にこだわらず糖尿病性神経障害がある人で足部の浮腫や疼痛があればシャルコー関節症を鑑別にあげ,疑った段階で免荷する。特に治療抵抗性の蜂窩織炎様症状は疑う。
・早期診断にはMRIが有用。特異度は低いが骨シンチは感度が高い。PETの有用性の報告もあるが保険適応はない。
・管理と治療に関しての高いレベルのエビデンスはないが,治療に重要なのは免荷と専門家への即時コンサルト
 
シャルコー関節症の足

 

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□参考文献

J Diabetes Complications. 2009;23(6):409-26
Cleve Clin J Med. 2010;77(9):593-9.