ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【骨折後のBP製剤投与は1年以内の非癒合リスクと関連していない(J Bone Joint Surg Am. 2023;105(7):549-555.)】

脆弱性骨折の既往はあるが骨粗鬆症の治療はされていない...というのはよくみかけるのではないでしょうか。

 
脆弱性骨折の既往のある患者は2倍のリスクでさらなる骨折のリスクがあると言われています(J Bone Miner Res. 2010;15(4):721-39)しかし、日本において二次予防における治療の頻度は17%(その中でBP製剤で開始となったのは半分程度)(Osteoporos Int. 2021;32(6):1245-1246.)とも言われています。
 
脆弱性骨折の二次予防のためのビスフォスフォネート製剤の治療必要数(NNT)は
 
脆弱性骨折の既往があれば10(Clin Interv Aging. 2020 Mar 26;15:485-491)
脆弱性骨折が 2 回あった患者では 4 (Archives of Internal Medicine. 1997;157(22):2617-24)
脆弱性骨折が 1 回あった患者では 16 (Archives of Internal Medicine. 1997;157(22):2617-24)
 
ともいわれ非常に重要になります。欧米では減少している股関節骨折が日本では増加傾向( Lancet. 2019;393(10169):364-376.)という悲しい報告もあり、脆弱性骨折をみつけたら見逃さずに導入をしておきたいと考えます。
 
二次予防の弊害になっているのがBP製剤の機序から骨融合に影響があるのでは? という懸念および、その懸念から急性期に導入されず...そのまま...という症例も多くあると考えられます。
 
これまでにはざまざまな報告がありますが一般的には骨折後の急性期のBP製剤の導入は問題ないとは言われています(Osteoporos Int. 2011;22(8):2329-36.  J Bone Joint Surg Br. 2012;94(7):956. JAMA Surg. 2016;151(11):e162775. N Engl J Med. 2007;357(18):1799-809.)。過去に骨粗鬆症治療薬が融合不全のリスクと報告する大規模研究もあるがこの集団は65歳未満であり一般的な脆弱性骨折の患者層とは違います(JAMA Surg. 2016 Nov 16;151(11):e162775.)。
 
癒合不全は比較的まれな出来事であり、継続的なフォローが必要なのもあり、今回は後ろ向きの大規模データーを使用して検証しようという研究になります(この研究はSERMに関しても調査していますがここでは割愛します)
 
No Increased Risk of Nonunion with Bisphosphonate Use in a Medicare Claims Cohort Following Operatively Treated Long-Bone Fractures
J Bone Joint Surg Am. 2023 Apr 5;105(7):549-555.
 
■論文の概要
 
2016年から2019年のメディケア請求データーを後ろ向きに評価し骨折後1年のデーターを収集した。年齢、性別、人種、併存疾患(チャールトン併存疾患指数)、骨折の種類、で多変数ロジスティック回帰モデルを評価した。
 
111343件の骨折のうち9.4%で1年以内の癒合不全が生じていた。
非癒合群は若め,白人,併存疾患がある(チャールトン併存疾患指数が2以上)で多かった
BP製剤は癒合群では11.4%,非癒合群で12.2%使用されていた
非癒合はBP製剤非使用者では9.3%、BP製剤使用者では9.7%で発生した(NNH=250)
 
非癒合リスクに関して人種、年齢、性別、および CCI を調整するとBP製剤の使用は非癒合に関連していなかった(OR 1.06 [95%CI 0.99-1.12])
BP製剤使用率も非癒合群で高かったが (12.2% 対 11.4%)、年齢、性別、人種、併存疾患、および骨折の種類で調整すると、この差は有意ではなかった.
 
ということで手術が行われた骨折症例においてBP製剤の使用は1年以内の非癒合リスクと関連していないという結果でした