ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

2020年7月 CPS:Cryptic Cachexia(N Engl J Med 2020;383:68-74.)

 
57才男性 半年の意図せぬ体重減少,下肢の色素沈着
 
解説で疾患名がでるまでは想起できず。。
最終診断が胸熱すぎる!!
 

Cryptic Cachexia(N Engl J Med 2020;383:68-74.)

直腸癌の既往があり切除術後の57才男性,半年での意図せぬ体重減少(22.6kg),倦怠感で受診した。この間にBMIは23.9から16.6,衰弱が進行しADLが障害された。腹部膨満と足の痛みがあったが。嘔気,嘔吐,食欲不振,関節痛,発熱,咳嗽はなし。便は茶色でストマからでており,血便や脂肪便はない。

 
6年前にステージⅢb(T3N1aM0)の直腸癌に対してネオアジュバンド化学療法,RTX,腹腔鏡下結腸切除を行った。3年前の大腸内視鏡,半年前のCEAは正常。その他の病歴で特筆すべきものはない。結核の既往もない。
 
診察では浅い頻呼吸,カヘキシア,筋萎縮,水平性眼振,腹部膨満とshifting dullness,下腿の色素沈着があった。
L/Dでは慢性炎症変化(正球性貧血,鉄低下,フェリチン上昇,CRP 8.69mg/dl)、TP 6.4 Alb 1.5 AST 84 ALT 82 ALP 157だった。
 
セリアック抗体,肝炎ウィルス,副腎機能,甲状腺機能,HIVの検査では異常はなく,タンパク尿は0.9g/g・Crの結果だった。CTでは大量の腹水と後腹膜リンパ節腫脹があったが、それ以外に異常はない。
 
 
癌の治療歴があったので再評価されたが再発は否定的だった。(CFで軽度の炎症はあり)
電気泳動は陰性,IgG 2080 IgM 30 IgA 1360,IgG4 194
 
腹水穿刺の結果はSAAG 0.6 mg/dl WBC 47 Neu 12 Lym 10。TPは4.5g/dl ADA 24.4。細胞診,培養,抗酸菌染色,抗酸菌培養,TB-PCRは陰性。
便中α1-アンチトリプシンは1.13mgと上昇していた。
 
CTガイド下生検が行われた結果非壊死性肉芽腫が認められた
IgG4や悪性腫瘍は認められなかった
 
残る鑑別は...??
 
というCPSでした。
 
上部内視鏡検査で十二指腸内にEGDの生検ではびまん性の活発な十二指腸の炎症を認め,病理では泡沫状の組織球の浸潤が認められWhipple病が疑われた。検体からT. whippleiのPCRが陽性になりWhipple病の診断となった。
その後,(whipple病でも稀に起きるようです)Jarisch–Herxheimer反応を乗り越え患者は改善したという症例でした。
 
(治療に関しては割愛させていただきます)
 
 
解説やCommentaryも非常に勉強になりました
 
・腸管切除やストマなどあると炎症性腸疾患やセリアック病のような吸収不良の症状がわかりにくい
・下腿の色素沈着は血管不全,内分泌疾患,,吸収不良など。副腎不全はありえるが基本的には「びまん性」の色素沈着,特に粘膜や皮膚のシワにおきる。VitB12欠乏でも稀に手や足の色素沈着をおこす。(そしてWhipple病でも41%で黒皮症がおきる)
 
・重度の低アルブミン血症およびプレアルブミン値の低下は、摂取低下,吸収不良,蛋白質喪失性腸症,腎性喪失を考える
・この症例でもみられたα1アンチトリプシンの値は蛋白漏出胃腸症を示唆する
・この症例でみられた著しいIgA値の上昇は、炎症または腸管の慢性感染源を反映している可能性がある
 
 
・Whipple病の頻度は1/100万
・T. whipplei はどこにでもいる病原体
・診断には病理でのPAS陽性マクロファージ,T.whippleiのPCR,whipplei特異的抗体の2つ以上が必要(病理所見は他の疾患でも類似所見がでることがあるので,それのみで確定はしない)
・ウィップル病は古典的には関節痛,腹痛,下痢を伴う。関節痛と下痢はそれぞれ70~80%,腹痛は約55%。
・ほかに体重減少(92%),低アルブミン(91%),貧血(85%),リンパ節腫脹(60%)
・黒皮症(40%),非壊死性肉芽腫のリンパ節(9%),腹水(8%)
・稀に腰椎の脊椎炎による腰痛も
・CNS障害は約5割
 
ということで

体重減少(9割以上)→あり
下痢(7-8割)→ストマなのでわからず
関節痛(7-8割)→なし
腹水(8%)→あり
黒皮症(40%)→あり
 
という症例でした。中年男性に多い疾患というところは合致していました。
 
Whippleは5年前のCPSにも慢性咳嗽の症例で出てました(N Engl J Med 2015;373:561-6.)
 
血液培養陰性のIE,SeroNegaの関節症状....頻度が稀+非典型的な経過をきたしうる、ということでChallenging caseになりやすい疾患です。過去の東京GIMの症例も胸熱でした。
 
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26063201/
J Gen Intern Med. 2015 Nov;30(11):1711-5.