ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC】多併存疾患(特に中年期発症)は認知症のリスク

Association between age at onset of multimorbidity and incidence of dementia: 30 year follow-up in Whitehall II prospective cohort study
BMJ. 2022 Feb 2;376:e068005.

 

高血圧,聴覚障害,喫煙,肥満,うつ病,糖尿病...いろいろ認知症も予防可能な部分があるというのはもっと知られてもよいと常日頃思っています(Lancet 2020; 396: 413–46)が、白内障手術(JAMA Intern Med. 2022 Feb 1;182(2):134-141)にくわえて多併存疾患と認知症に関する非常に熱い研究が30年(!!)の前向き研究がBMJより出ました。

結論としては...

 

✓多併存疾患は将来の認知症のリスク

✓特に55歳未満での多併存疾患はリスクが高い

✓成人期の慢性疾患の予防と管理は認知症リスクを抑えるという意味でも重要

 

ということでした。


Abstract抜粋

目的:中年期および晩年期の多併存疾患と認知症発症との関連性を検討すること。
デザイン:前向きコホート研究。
設定:ロンドンの公務員部門(Whitehall II研究、研究開始は1985-88年)
参加者:ベースライン時の年齢が35~55歳の10,095人。
主要評価項目:1985年から2019年の間の追跡調査における認知症発症
結果:多併存疾患(慢性疾患が2つ以上)の有病率は55歳で6.6%,70歳で31.7%,追跡期間中央値31.7年間に639例の認知症発症があった。社会人口学的因子と健康行動で調整した後,55歳時の多疾病はその後の認知症リスクと関連していた(1000人年当たりの発症率の差は1.56、HRは2.44)。この関連は、多疾病発症年齢が高くなるにつれて徐々に弱まった。55歳時の3つ以上の慢性疾患は、1000人年あたり5.22,HR 4.96と高い認知症発症率と関連した。
結論:多併存疾患,特に中年期に発症した場合はその後認知症発症と強い関連がある。多併存疾患の若年化が進んでおり,慢性疾患が1つある人の多併存化の予防は重要である。



■Intro/抜粋

高齢者を平均8.4年間追跡調査した結果、多併存疾患患者では認知症のリスクが高いことが報告されていますが、より長期間にわたって個人を追跡調査した研究は不足している(Alzheimers Dement 2021;17:768-76.)

また、最近の研究では、心代謝系疾患を有する人の認知症リスクは晩年よりも中年で高いことが示唆されており、多疾病の発症年齢が認知症リスクの重要な決定要因であることが示唆されている(JAMA 2021;325:1640-9.Eur Heart J 2018;39:3119-25)

ということから、多併存疾患の発症年齢や期間,重症度(慢性疾患の数)と高齢期の認知症リスクに関連するかを30年にわたる前向き研究で検討したという研究

■Result

10095人が最終的な対象,追跡期間の中央値 31.7年,639例の認知症発症があった
13の慢性疾患を調査(冠動脈性心疾患,脳卒中,心不全,糖尿病,高血圧,悪性腫瘍,CKD,COPD,肝疾患,うつ,精神疾患,パーキンソン病,関節炎/関節リウマチ)
2つ以上の慢性疾患があればMultimorbidityと定義した


認知症患者で頻度の高い慢性疾患は高血圧(64.9%),冠動脈性心疾患(21.1%),うつ(11.5%),糖尿病(16.5%)

パーキンソン病(HR 8.16)以外で認知症との関連が強かったのは精神疾患(HR 5.73),うつ(HR 2.95),脳卒中(HR 3.37),CKD(HR 2.98)。悪性腫瘍は認知症との関連がなかった。

脳卒中,心不全,糖尿病,慢性閉塞性肺疾患,精神疾患認知症の関連は加齢とともに減少する傾向にあった
逆にうつ病は加齢とともに認知症リスクが上昇する傾向にあった

55歳時点での多併存疾患は1.56/1000人年,HR 2.44で認知症発症と関連していた(フォローの中央値は19.6年)

60歳時点での多併存疾患は認知症のリスクだったが
55歳未満で多併存疾患 HR 2.46
55-60歳で多併存疾患 HR 1.39
と55歳未満での多併存疾患のほうが強いリスクであった
(この傾向は65歳,70歳で算出しても同様だった)

多併存疾患を時間的に変化させた指標で算出しても認知症リスクであった(HR 2.36)。パーキンソン病を削除しても結果に影響はなかった(HR 2.29)。

多併存疾患の数を3つ以上にすると認知症リスクはHR 4.96だった
多併存疾患の発症が高齢になると関連性が弱まった(Figure 2)

 


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認知症リスクが高まる併存疾患の組み合わせ(Figure 3)
(パーキンソン病を抜いたもの)

脳卒中+心不全 HR 6.33
脳卒中+うつ HR 8.60
脳卒中+CKD HR 5.13
脳卒中+精神疾患 HR 6.55
CKD+精神疾患 HR 7.40
うつ+精神疾患 HR 5.55
関節炎+精神疾患 HR 5.69

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■結論

認知症に対する有効な治療法がなく、その個人的・社会的影響を考えると、認知症予防のターゲットを見つけることは急務である
・成人期初期から中年期にかけて、多疾病合併症はますます増加する
・今回の研究は、多併存疾患が高齢期の認知症リスクの増加と関連しており、多疾病の発症が晩年ではなく中年期である場合はなおさらリスクが高いことを示す
・今回の研究は高齢期における有害な転帰を軽減するために、成人期における慢性疾患の予防と管理の役割を強調するものである。
・多併存疾患は、医療サービスの利用、生活の質、死亡率に影響を与えることがすでに知られていが、今回の研究ではそれに認知症が加わることを示す