ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

ケース流し読み:51才男性,4週間続く咳嗽,発熱,関節痛からの肺炎像と急性腎障害

□ケース流し読み:51才男性,4週間続く咳嗽,発熱,関節痛からの肺炎像と急性腎障害

 
2019年11月のCPSです。

※注意:ネタバレ含みますので注意してください,また管理人の判断で情報をかなり抜粋していることを御容赦ください

Double Trouble(N Engl J Med 2019;381:1854-60)

なんだかんだでタイトルから推測するのが好きなので結構タイトル気にしながら読むのですが,まさか...と思いつつ読んでいきました。
初めて知ったこともあり勉強になるCPSでした。


不安障害と両下肢のDVTの既往がある51才男性が4週間つづく咳嗽,発熱,悪寒,倦怠感,関節痛でプライマリケア医を受診した。最初は血痰だったが後に乾性咳嗽になった。鼻閉,咽頭痛,頭痛,耳痛,呼吸苦,嘔気,下痢,排尿障害,発疹はなかった。AZMが処方され,その後別の医療期間でCAMが処方されたが改善しなかったため,2週間後に再受診した。診察でBT 37.7 BP 121/65 HR 88 SpO2 99%,具合が悪そうな外観だった。身体所見で副鼻腔,咽頭,頸部リンパ節は正常。咳嗽は明確だが胸部聴診で異常なし。腹部所見や関節所見も特になし。WBC 13900(Neu 74%,Eo 5%) Hb 14.0 Plt 49万。腎機能,肝機能などの基本項目は正常。胸部Xrでは心横隔膜角に浸潤影があり胸水なし。胸部CTの予定とAMPC/CVAが7d処方と2w後のf/u受診となったが再受診はなかった。
その一ヶ月後に持続する乾性咳嗽と嘔気,重度の脱力,倦怠感,筋痙攣の症状と意識が悪そうということで家族につれられて救急受診した。BT 36.7 BP 160/77 HR 75 RR 16 SPO2 97%。右前胸部痛の軽度の圧痛と羽ばたき振戦を除けば診察所見は特に変わりなかった。L/DではWBC 14600(eo 7%) Hb 11.4 Plt 45.8万 Na 132 K 8.0 Cl 98 HCO3- 12 BUN 176 Cr 22.6 Glu 132 Ca 8.7 P 12.9 Alb 2.1 CK 31 ESR 75 CRP 2.74。尿道カテーテルを留置しても尿の排出はなかった。単純CTでは軽度の右の無気肺と胸水があり,尿閉の所見はなかった。C3は正常 C4は81と軽度上昇,ASOは正常,HIV,HBV,HCVの検査は陰性。
mPSL高用量による治療と腎生検が行われた。血液培養と経胸壁心エコは陰性。
抗核抗体,抗カルジオリピンは陰性。MPO-ANCAは陰性,PR-3ANCAは39U/mlと陽性,抗GBM抗体は207Uと陽性だった。
腎生検では基底膜にそって補体とIgGの線状の沈着があり(抗糸球体基底膜腎炎の所見),細動脈では血栓性微小血管障害があった(ANCA関連血管炎の所見)。

ということでL/Dでも生検結果でもANCA関連血管炎と抗糸球体基底膜腎炎が揃っている...診断は?

というような症例でした。


その後の経過としては...

抗体と生検結果もあわせANCAと抗GBM抗体が共存する糸球体腎炎"Double Positive"と診断された。高用量mPSLの治療後に経口シクロホスファミド,リツキシマブ,血漿交換などによる治療が行われ1年後の再発もなく抗GBMや抗ANCAも陰性のままだが腎不全の回復はなく維持透析中となりました。

この"Double Positive"の存在を知らなかったのでとても勉強になりました

UTDの「Anti-GBM (Goodpasture) disease: Pathogenesis, clinical manifestations, and diagnosis」を参照するとOther variantsの中に「Double-positive anti-GBM and ANCA-associated disease」の記載がありました。なお他のVariantsに膜性腎症に伴うもの,非典型例,移植後の抗GBMなどもあるようです。その中の「非典型的な抗GBM疾患」は肺出血やRPGNを伴わず血尿,タンパク尿,軽度の進行性の腎障害で来る様で抗GBMの中で約1割をしめるという報告もあるようです(Kidney Int. 2016;89(4):897)

GBM疾患は頻度は1/100万人年以下で非常に稀な疾患で基本的に80-90%で急速進行の糸球体腎炎,30-60%で肺胞出血をきたし(喫煙者だと確率があがる),稀に肺胞出血のみのこともあります。分布は二峰性で20-40台は男性が多く典型的は肺腎症候群を示し,60才以上は女性に多く腎病変のみをきたす傾向にあります。基本的に症状が出る場所は肺か腎臓であり,全身倦怠感や発熱や関節痛などの症状は稀であり,存在するのであれば血管炎の併発を考慮する必要があります。また抗GBM抗体の患者の約1/3がANCA(通常はMPO-ANCA)が陽性になります。

ANCA関連血管炎は50-70才の成人に発生し年間発生率は10-20/100万人年とされています。(稀ながらも頻度は抗GBMよりは多いです)。まず発熱,倦怠感,筋肉痛,関節痛,神経障害などの全身症状を発症し,その後に腎障害や肺障害をきたすことが多いです。ANCA関連血管炎の患者で5%で抗GBM抗体陽性になります。

そして今回のDouble Positiveは抗GBM疾患とANCA関連血管炎の臨床的特徴をハイブリッドしたような疾患でざっくりまとめますと

腎障害:抗GBM疾患と類似ないしより予後が悪い(ANCA関連血管炎は適切な治療で75%が回復する(Clin Rheumatol. 2013 Sep;32(9):1317-22.))
腎外障害:ANCA関連疾患と類似する
再発:ANCA関連疾患と類似して再発しやすい(抗GBM疾患は再発しにくいがANCA関連血管炎は再発しやすい)

ということでした。
なお、別文献になりますがDP患者と抗GBM疾患で肺胞出血の頻度は同様(Clin Rheumatol. 2013 Sep;32(9):1317-22.)とのことです。

 

ということでDouble PositiveのCPSでした。

Atypical 抗GBM疾患ふくめ抗GBM疾患のvariantの存在をしるよいきっかけになりました。