ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

2020年6月 CPS The Game Is Afoot

63才女性,骨粗鬆症なしの多発骨折,その原因は?

2020年6月 CPS The Game Is Afoot
N Engl J Med. 2020 Jun 4;382(23):2249-2255.

63才女性が数ヶ月続く両足首の痛みで受診した。発熱や体重減少や他の部位の頭痛はなく,痛みのために杖を時々使用している。

OSASと子宮筋腫(両側の卵巣と子宮全摘出術),10年前に乳癌の小葉癌に対して摘出術施行しタモキシフェンで5年の治療歴,ほかにOsteopenia(骨量減少)がある。2年前に転倒し左脛骨高原骨折,その後特に誘引なく左大腿骨内顆骨折をきたしどちらも保存的加療となっている。
喫煙,飲酒はなくCa,VitD,マルチビタミンを摂取していた。
家族歴に両親の股関節骨折,父親の大腸癌,母親の乳がんがあった。

診察では両足首に圧痛とROM低下があったが腫脹や紅斑はなかった。
足首のレントゲンで骨折はなし。
採血ではCa 8.6 P 1.4 ALP 185 CBC,肝臓,腎臓,電解質は異常なし。
Calcidiol  25(OH)Dは 31,(正常) Calcitriol (1,25(OH)2D)は 14(軽度低下),PTHは 51(正常)。

痛みの原因をどこまで考えるか、というCPSでした


骨粗鬆症ではなくOsteopenia(骨量減少)の段階にしては非典型的な骨折がある症例。病的骨折の鑑別は多発性骨髄腫や固形腫瘍からの転移,代謝性疾患(骨粗鬆症,骨軟化症,骨パジェット病,副甲状腺機能亢進症による繊維性嚢胞性骨炎など)などになります。
病的骨折があり低Ca+低P(+ALP上昇)なので骨軟化症の疑いが...まではたどりつけるとは思いましたがその先が...ということで大変勉強になりました

骨スキャンなどで両側頸骨遠位,左腓骨遠位,右踵骨,肋骨,椎体,頸骨近位,大腿骨遠位に不全骨折があり骨軟化症の可能性が高くなった。

低P血症の原因検索として
・下痢やBP製剤の使用なし
・低P血症の家族歴なし
FePを測定したところ35.7(正常は5)と亢進しており腎性の喪失が考えられた
(測定タイミングはrandomでもOKですが空腹時のほうがより好ましい、というのは初めて知りました)

※腎性以外の低P血症の原因には細胞内へのシフト(インスリン,敗血症,カテコラミン,Hungrybone,過換気など)やリン酸の摂取不足(吸収不良,Fe/Al/Mgの摂取,アルコール,低栄養など)があります

この症例は腎性のP喪失ですが高Ca,副甲状腺機能亢進,VitD不足,薬剤(ステロイド,シクロフォスファミド,シスプラチン)などはすでに除外されているのでFGF-23依存性の低リン血症が考えられた

FGF-23依存性の低P血症の原因には、腫瘍誘発性骨軟化症(腫瘍からFGF-23が分泌される)と遺伝性低リン血症性くる病がある。遺伝性低リン血症性くる病は早期に発症するので今回の症例は年齢から腫瘍誘発性骨軟化症を強く示唆している。原因となる腫瘍は、典型的には良性の間葉系の腫瘍。

その腫瘍はどこにあるか?
診察ではわからず68Ga-Dotatatate のシンチで右第一中足骨の領域に集積があった
整形外科に紹介、腫瘍切除および切除後の二次性副甲状腺機能亢進症を予防目的にCaとVitDの投与をうけ、その後足首の痛みは消失し、自立歩行にまで改善した

という症例でした

FGF-23や間葉系腫瘍の検索に関してCommentaryで詳しく解説がありましたが割愛させていただきます

骨折が多発している患者さんを見たらPを測定しましょう、というCPSでした

ほかにも骨軟化症はPMR mimicで大事な鑑別の1つだと思っています