ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

□ケース流し読み:22才女性 緩徐進行の筋力低下

□ケース流し読み:22才女性 緩徐進行の筋力低下

※注意:ネタバレ含みますので注意してください,また管理人の判断で情報をかなり抜粋していることを御容赦ください

Weak and Winded(N Engl J Med 2019;381:76-82.)

鎌状赤血球症(毎月の輸血による慢性の白血球増多と鉄過剰症)ともやもや病(5才)と片頭痛の既往のある22才女性が半年の経過の進行性の脱力で受診した。
階段を登ったり子供を持ち上げたりするのが困難になり、呼吸苦も出現してきた。
筋力低下は両側性でほかに両手のこわばる感じと両側大腿部に軽度の筋肉痛がある。
認知機能障害,感覚障害,尿失禁はない。

ROSを聴取したところ半年で18kgの意図しない体重減少があった。
ここ2ヶ月の間欠的な呼吸苦症状や嚥下困難,2wの間の断続的な複視があった。


バイタルはBT 36.8 HR 112 RR 16 SpO2 100%(2L/min)
強膜は黄疸 胸腹部の診察は正常 大腿四頭筋に軽度把握痛があり皮疹や関節腫脹はない。
左眼で眼瞼下垂があり,複視を検出しやすいレンズを使用して30s側方視したところ複視がでた
MMTは近位で4/5の低下、反射亢進はなく、感覚低下はなし
握った後離す動作が遅く、母子筋を叩くと筋収縮が軽度あった

L/D上はHb 8.7 Ht 25 WBC 19600 HCO3 27 LDH 619 ハプトは感度以下 TP 7.2 Alb 4.3 T-bil 9.1 間接Bil 8.2 CK 47 抗体系統は陰性
VitB1 6.9と低下 VitC 感度以下 VitA 24と低下
AchR抗体は陰性 VGKC抗体は陰性
BGAはPh 7.38 PaCO2 66
胸部造影CTと心エコーは正常だった。

情報的には

・症状が断続的で眼瞼下垂,複視,筋力低下は神経筋接合部疾患を考える
・ミオトニア様症状や眼瞼下垂からは筋緊張性ジストロフィーも考える!?
・感覚障害がないのでCIDPは否定的
・上位運動ニューロン障害はないので運動ニューロン疾患(ALSなど)は否定的

症状が断続的(増悪寛解をする)で複視,嚥下困難,呼吸困難の組み合わせから神経筋接合部疾患を考けど、AchR抗体は陰性でミオトニアのような症状もある

という症例でした・・・



その後の検査では

筋電図はわずかにミオパチーの所見あり
低頻度の反復刺激試験では10%以上の減少あり(MGに矛盾しない所見)
筋生検では炎症や中心核なし、萎縮性繊維だった(筋緊張性ジストロフィーは否定的)

MGの臨床診断でIVIGが投与され症状改善した(ピリドスチグミンによる改善はわずかだった)
そしてMuSK抗体が陽性(87.5nmol/L)の結果で帰ってきてMuSK抗体陽性の重症筋無力症の診断となった症例でした。

AchR抗体は8-9割陽性(なので1-2割は陰性になるのでこれでMGは除外できない)
AchE抗体陰性の38-50%でMuSK抗体が存在する
(そのほかにLRP4抗体があるのも初めて知りました)


□MuSK抗体のMGの特徴
・MG全体の1-10%で陽性
・女性に多く,30-40台とMGの中で若め
・眼瞼下垂や複視はメインにはこない(CPSの症例も聞いたら「複視」の症状がでてきたとのこと)
・球麻痺症状(67%),axialの筋力低下(92%),顔面の筋力低下(96%),呼吸困難(60%)など筋症状がメインにくる
・crisisを起こしたり入院になりやすい

などの特徴がある

そのほかに

・神経筋接合部の症状は機能障害の誤った臨床推論になりうる
・今回の症例のような筋肉痛,こわばりなどの症状を伴うとさらにわかりにくい。筋肉痛やこわばりはVitD欠乏でも報告されている(おそらくこれが原因だった?)
・ミオトニアがあれば鑑別は筋緊張性ジストロフィー,先天性ミオトニア,高K性周期性四肢麻痺,炎症性ミオパチー,ポンペ病などになる

などなど勉強になるCPSでした
(治療の話も結構勉強になりました)
 
 
MGはガイドラインがオンラインで無料で読めるのでそちらも勉強になりました