ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC】高齢者の腹痛の救急受診のData(J Am Geriatr Soc. 2022 Feb;70(2):501-511.)

Evaluation and disposition of older adults presenting to the emergency department with abdominal pain
J Am Geriatr Soc. 2022 Feb;70(2):501-511.

 

救急外来を腹痛で受診した高齢者のBigData

緊急手術になる疾患でもトリアージランクが低くなりやすい、という傾向があるという結果でした

それ以外にも検査,管理(鎮痛は5割),診断(Non-spe系がそれなりの頻度)などでまだまだ改善の余地が見込めるでしょうという研究結果で興味深い内容でした😊


・高齢患者の腹痛は若年と鑑別が変わるうえに,症候の中でもリスクが高い
・腹痛の診断で救急外来を受診し退院した患者の死亡原因の第1位は虚血(BMJ. 2017 Feb 1;356:j239.)
・CTの普及が進み,高齢者の腹痛の診断における有用性のエビデンスがある(Eur J Radiol. 2007;61(2):290-296)が,その実態に関しての調査はここ20年ない
・さらに近年レントゲン検査が意味がないことや救急医の育成が進んできた
・意味のない検査(腹部Xr)と意味のある検査(採血,US,ECG,CT)に関してのDataを調べる

という背景からのBigData解析

□結果

65歳以上の高齢者の救急受診のうち腹痛は7%
緊急とトリアージされる頻度は低い(7.1% vs 14.8%)が,緊急手術に成る確率が高い(3.6% vs 0.8%)。帰宅,死亡,重症入院に有意差はなかった。

画像検査は75.8%,15.8%がXrのみ,60.0%かUSかCTをうけた
心電図は腹痛患者で39.3%で非腹痛患者の44.5%より少なかった
鎮痛薬を投与されたのは52%だった(ほとんどがオピオイド)

帰宅患者の診断を抜粋すると
15.4% Unspecified abdominal pain
10.9% Pain localized to upper abdomen
7.4%  Pain localized to other parts of lower abdomen
4.0% Other abdominal pain
2.0% Dorsalgia, unspecified

入院患者の診断を抜粋すると
11.1%  Other and unspecified intestinal obstruction
9.3% Duodenal ulcer
8.8% Unspecified abdominal pain
6.3%  Chronic kidney disease, unspecified
5.5%  Enterocolitis due to Clostridium difficile
4.7% Diverticular disease of intestine, part unspecified, without perforation, or abscess
4.0% Acute pancreatitis, unspecified
3.7% Other abdominal pain
3.6% Pain localized to upper abdomen


□結論

・救急外来を受診した高齢者の腹痛で、重篤な疾患でも「緊急」トリアージが行われるのは他の疾患の半分の割合だった
・診断と管理を改善する機会はまだありそう

□Key point

- 65歳以上の患者は、非腹痛患者に比べ、緊急とトリアージされる可能性が半分で、外科的治療を受ける可能性はより高い
- 腹痛を主訴とする65歳以上のED患者の6人に1人の画像検査はX線検査を受けただけであった。
- 腹痛を主訴とする高齢患者のうち、心電図検査を受けたのは39%で他の症状の人(44%)より低い頻度だった


□個人的な感想@診断に関して

帰宅患者の診断で非特異的腹痛が15.4%,具体的な病名がついていないのが39.7%
便秘は2.6%のみ,ただし主訴便秘は除外している研究なのでこれに関しては...なんとも
入院患者でも非特異的腹痛が8.8%,具体的な病名がついていないのが16.3%