ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【備忘録:小児頭部外傷】 BEYOND the PECARN rule

現在勤務している病院では2015年に救急外来で小児頭部外傷に関しての診療マニュアルを作って運用をしていました。そして昨日行った小児科の先生との合同勉強会にあわせて、最近の流れはどんな進化しているのか調べてまとめてみました😊


□PECARNルールに関して(Lancet 2009;374:1160-70)

○2歳未満のManagement(すべてなければCTは非推奨)

◇Major項目(該当すればすぐにCTを推奨,4.4%でciTBI)
・GCSが14ないし意識変容の症状(興奮,傾眠,同じ質問の繰り返し,反応が鈍い)がある
・頭蓋骨骨折の触知

◇Minor項目(CTを考慮する因子,0.9%でciTBI)
・前頭部以外の皮下血腫
・5s以上の意識消失
・高エネルギー外傷(90cm以上の転落,自動車から投げ出された,強い勢いで打った,ヘルメットなしで自転車にのってぶつかった,同乗者の死亡)
・親からみていつもと違う

※CTは症状や所見の悪化の有無,所見が単一か複数か,生後3ヶ月未満か,医師の裁量,親の希望などを考慮して適応を判断


○2歳以上18歳未満のManagement(すべてなければCTは非推奨)

◇Major項目(該当すればすぐにCTを推奨,4.3%でciTBI)
・GCSが14ないし意識変容の症状(興奮,傾眠,同じ質問の繰り返し,反応が鈍い)がある
・頭蓋骨骨折の触知

◇Minor項目(CTを考慮する因子,0.9%でciTBI)
・意識消失
・嘔吐
・高エネルギー外傷(150cm以上の転落,自動車から投げ出された,強い勢いで打った,ヘルメットなしで自転車にのってぶつかった,同乗者の死亡)
・重度の頭痛

※CTは症状や所見の悪化の有無,所見が単一か複数か,医師の裁量,親の希望などを考慮して適応を判断


□小児頭部外傷およびPECARNルールに関してのエビデンス

・PECARNルールで該当項目がない場合ciTBI:clinically-important traumatic brain injuries(外傷性脳損傷による死亡、脳手術、24時間以上にわたる気管内挿管、2泊以上の入院)がある確率は2歳未満で0.02%未満,2歳以上で0.05%未満(Lancet. 2009 Oct 3;374(9696):1160-70)
・嘔吐1回のみであればciTBIは0.2%5)であり,嘔吐1回であればCTは不要(Evid Based Med. 2015 Feb;20(1):32)
・PECARNの該当項目が意識消失のみであればPECARN陰性の小児とciTBIのリスクは同等であった(JAMA Pediatr. 2014 Sep;168(9):837-43.)
・救急外来で経過観察(2-4h)をすることによって安全にCT撮像を減らせる(Ann Emerg Med. 2013 Dec;62(6):597-603.Pediatrics. 2011 Jun;127(6):1067-73)
・受傷6時間以降で新規の頭蓋内出血はほぼない(Pediatrics.2010;126:e33)


□小児頭部外傷およびPECARNルールに関してのエビデンス②(頭部外傷に関して)

✓PECARN vs CHALICE vs CATCHで無事PECARNが最も優れている(Lancet. 2017 Jun 17;389(10087):2393-2402.)

✓嘔吐単独であればCTでの頭蓋内損傷(0.6%),臨床的な頭蓋内損傷(0.3%)と極めて稀であり,すぐにCTをするのではなく経過観察がよいのではないか(Pediatrics. 2018 Apr;141(4):e20173123)

✓高速MRI(中央値約6分)の有用性の評価の研究。CTで所見があった患者のうち92.8%でMRIでも所見が認められた。臨床的に安定しているが頭蓋内損傷の懸念がある小児に対してMRIは有用(Pediatrics. 2019 Oct;144(4):e20190419.)

□小児頭部外傷およびPECARNルールに関してのエビデンス③(頭部CTをへらす工夫)

✓非小児科救急病院にPECARNルールを導入したところ頭部CTの使用は減少。全体として38%が17%,低リスクは23%が1%に(Acad Emerg Med. 2019 Jul;26(7):784-795)

電子カルテに臨床意思決定支援ツールを組み込むと安全に頭部CT使用率が減少した(OR 0.73)(Ann Emerg Med. 2019 May;73(5):440-451.)

✓経過観察を導入することにより頭部CTの撮像が減少した(全体でOR 0.2)(Acad Emerg Med. 2020 Sep;27(9):832-843.)
→低リスク(PECARN該当なし): OR 0.9
→中リスク(PECARN minor該当あり): OR 0.2
→高リスク(PECARN major該当あり): 0R 0.1


PECARNをベースにいかに安全に無駄な被曝を避けるか...が少しづつ進んでいるのがわかりますね

個人的にはポイントは「経過観察」と「環境とシステム」かなーとおもっています
もちろん相互には絡みますが、前者は個人の工夫、後者は組織や制度の工夫、でしょうか😊