ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

稀?なミオクローヌスの鑑別:transient myoclonic state in the elderly

稀?なミオクローヌスの鑑別:transient myoclonic state in the elderly



これまで認識できていなかったかも...ですが先日遭遇することがあったため学んでみました

最初に1992年、橋本らが数日間続いた全身性ミオクローヌスとアステリクシスの急性同時発生を発症した7人の高齢の日本人患者を "Transient myoclonic state with asterixis in elderly patients: a new syndrome" として報告した (J Neurol Sci. 1992;109(2):1)

 
“transient myoclonic state with asterixis”
 “benign transient shuddering-like involuntary movement”
 “isolated transient myoclonus”
"transient myoclonic state in the elderly"
 
などの名称でも報告がありますが、多くは日本からの報告という症例です
 
■主な臨床像は

・不規則で反復的な数秒のミオクローヌス
ミオクローヌスの発症部位は顔面と頸部と上肢がほとんどの症例で発症し、下肢にも出るのは1/3〜1/2程度。片側性のことはない。
・アステリキシスを伴うことがある(必須ではない,1/3〜1/2)
意識障害や健忘や麻痺はなく、指示動作も可能
感染症罹患後に発症する症例もある
・安静時に発症、姿勢や動作で増悪することもある、睡眠中は改善
・血糖,電解質,NH3は基本的に正常
・数日間で改善する一過性の病態だが,半数程度で再発の報告がある

① Clinical characteristics and etiology of transient myoclonic state in the elderly
Clin Neurol Neurosurg. 2015 Dec;139:192-8

ミオクローヌスをふくむ病名で診断された5089人中のうち26人の「transient myoclonic state in the elderly」の報告
男性16人,女性10人
年齢は56歳から96歳(79.7±9.9歳)
26例のうち2例が発症数日前にリスペリドンとレボフロキサシンを投与されていた
制御不可能な不随意運動で立ったり話したりすることが困難なため救急搬送される症例が多い

四肢にでたのは7/26
アステリキシスを伴ったのは8/26

24/26がADL自立している人で発症している
電解質,ブドウ糖,NH3は基本的に正常
脳波は正常

ジアゼパム 2.5-5mgのIVで改善するケースあり
クロナゼパム 0.25-0.5mgの経口投与で10/22で1時間以内に消失
1日で2-3回クロナゼパム 0.25-0.5mgを投与すれば消失する

 病態生理には、加齢に伴う動脈硬化の変化を背景とした何らかの代謝異常などが考えられている
数日間で改善する一過性の病態


■鑑別診断

代謝性脳症様やてんかんのようにみえるが、意識は正常なので臨床像を知っていれば鑑別は可能

とくに臨床像が類似しているのは良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんと家族性皮質ミオクローヌス振戦てんかんだが家族歴,発症年齢,ミオクローヌスの分布,症候性発作の有無,安静時の繰り返す短時間のミオクローヌス発作などが鑑別ポイント

② Isolated transient myoclonus in the elderly: an under-recognized condition?
Clin Neurol Neurosurg. 2014 Feb;117:51-54

・平均年齢75歳(54-89)の6人の男性と5人の女性
・家族歴がある人はいなかった
・10人の患者は高血圧などの慢性疾患を患っていた
・11人中5人に感染症があり,回復期ないし急性期にミオクローヌスを発症した
・10/11が頭頸部,11/11が上肢,6/11が下肢,2/11が体幹
・片側性の症例はなかった

電解質,血糖,肝機能はすべての患者で正常
・Crは0.5-1.5mg/dlの範囲NH3は9人で評価され全員正常
・CTやMRIでは4/11の陳旧性脳梗塞があった
EEGではてんかん波や三相波の所見はなかった。5/9が正常、4/9で非特異的な軽度の所見があった
・ミオクローヌスはBZOが投与されたかどうかに関係なく1-4日以内に完全に回復し、維持療法は不要だった
・5/11で2-19ヶ月以内に再発した
・1人は初回と二回目も肺炎後に発症した
・アステリキシスは初回発症時は6/11で確認された
・同じ患者でもアステリキシスが出たり消えたりすることがある
 
主な特徴は以下
1. アスタリスクを伴う/伴わないtransient myoclonic state in the elderlyは、上肢、肩、または頭/首でみられやすい
2. ケースによってはミオクローヌスは行動や姿勢によって増強されましたが、睡眠中には減少しました。
3. 患者はしばしば高血圧などの慢性疾患を患っていた。
4. 発症前の感染症の病歴が時々記録された。
5.  意識の変化、発作、またはその他の臨床的徴候の徴候がない;
6. ベンゾジアゼピン (ジアゼパムまたはクロナゼパム) が有効な場合もありますが、数日以内に自然に解消する
7. 再発することがある(この論文では5/11)


 
...ということで、実際に遭遇した場合は
 
ジアゼパム 2.5-5mgのIV or クロナゼパム 0.25-0.5mgの経口投与で症状を止める
・意識や神経学的な異常がないことを確認する
・血糖,電解質,NH3はチェックする
・数日以内に改善する疾患であることを説明する(短期間でクロナゼパムを処方してもよい)
・再発しうることを説明する
 
初見はわからん殺しのような疾患ですが、知っておくと落ち着いて対応できるかも?、という疾患のイメージです