ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC】サイアザイド系利尿剤の副作用(Am J Med. 2021 Sep;134(9):1148-1154)

Am J Med よりサイアザイド系利尿薬の副作用に関する報告(Am J Med. 2021 Sep;134(9):1148-1154)

HCTZは個人的には12.5mgで使うイメージでいます

Risk of Electrolyte Disorders, Syncope, and Falls in Patients Taking Thiazide Diuretics: Results of a Cross-Sectional Study
Am J Med. 2021 Sep;134(9):1148-1154

救急に来た患者の後ろ向き解析
サイアザイド内服患者は有意にAKI(22.1% vs 7%),低Na血症(22.1% vs 9.8%),低K血症(19% vs 11%)が多く,交絡因子を調整しても有意だった
電解質異常は用量依存性があった
転倒(20.5% vs 7.0%)や失神(6.2% vs 3.1%)も多かった

□薬に関して
84%の人がヒドロクロロチアジドを内服し,投与量は16.2±9.6mg
21%の人がループとサイアザイド併用
サイアザイドの種類の中でヒドロクロロチアジドが最も電解質異常のリスクが低かった

【JC】高K血症の治療薬 ケイキサレートは腸管壊死のリスクか?(J Hosp Med. 2021 Aug;16(8):489-494.)

Risk of Intestinal Necrosis With Sodium Polystyrene Sulfonate: A Systematic Review and Meta-analysis
J Hosp Med. 2021 Aug;16(8):489-494.


高K血症に使う薬の1つ,Sodium Polystyrene Sulfonate(SPS)/ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(商品名:ケイキサレート)はポリマーの吸着薬になります。ポリマー性の吸着薬では膨張による便秘,腹痛,腹部膨満感など消化器系の副作用のリスクがあります。

 
という背景からのSPSの安全性に関するSystematic review&Meta-analysis
 
6件のレビューによる腸管壊死のORは1.43(95%CI, 0.39-5.20)と有意差はでない
2件のレビューによる重度の消化器系の有害事象の複合転帰だとHR 1.46(95%CI, 1.01-2.11)
交絡因子や報告に寄るバイアスもふくめるとSPSによる消化管壊死や重度の消化器の有害事象に関してのエビデンスレベルは低い
 
という結論

なお,よく使われているイメージのある(?)はアーガメイトやカリメートはポリスチレンスルホン酸カルシウムになり,ケイキサレート同様にポリマー性の吸着薬です。Calcium polystyrene sulfonate(CPS)はアメリカで使用不可なのもあってか文献はあまりないようですが...調べてみると消化管穿孔や腸管壊死の報告(Acta Gastroenterol Belg. Oct-Dec 2019;82(4):542-543)や便秘患者に対するCPS投与での消化管穿孔(Case Rep Med. 2013;2013:102614.)の報告はあるので副作用はポリスチレンスルホン酸ナトリウムと似ているのかもしれません。


なお、新薬のジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム(商品名:ロケルマ)投与は非ポリマーの吸着薬で消化管内で膨張することがない...とのことでこの辺の副作用のリスクは低そうです

Systematic Review and Meta-Analysis of Patiromer and Sodium Zirconium Cyclosilicate: A New Armamentarium for the Treatment of Hyperkalemia
Pharmacotherapy. 2017 Apr;37(4):401-411

の報告によると48時間後にKは-0.67mEq/L低下,副作用は 尿路感染症1.1% 浮腫 0.9%とのことでした。

患者さん視点のDiagnostic Excellence(JAMA. 2021 Nov 18)

患者さん視点のDiagnostic Excellence(JAMA. 2021 Nov 18)

JAMAで進行中のDiagnostic Excellence、患者さん視点での...ということで5つのポイントが紹介されました。

いろいろと身につまされる内容でした。。以降がんばります!!


Diagnostic Excellence Through the Lens of Patient-Centeredness
JAMA. 2021 Nov 18. doi: 10.1001/jama.2021.19513


卓越した診断とは、患者さんの状態を正確かつ完全に理解することであり、患者さんを中心とした視点から見ると以下の5つになる

(1) 臨床医の知識だけではなく、患者の知識を受け入れる。
(2) 長期的なフォローアップと、患者の報告を含めた継続的な検証を行う。
(3) 説明のレベルを調整する。
(4) 患者の解釈可能性と知識の成長を確保する。
(5) 可能な限り、患者の言葉と理解を臨床家のそれと融合させる。

優れた診断とは、癒やしや安心を求める患者のニーズを第一に考えること

【JC】リハビリ病院において老年病コンサルト/CGAは機能を改善するか(J Am Geriatr Soc. 2021 Sep;69(9):2648-2658)

Quality improvement outcomes from the introduction of a geriatrician into a rehabilitation setting
J Am Geriatr Soc. 2021 Sep;69(9):2648-2658.

リハビリ病院において老年病コンサルト/CGAはFIMスコアは改善するという研究

 2009年1月1日から2019年6月30日までのデーター
老年病コンサルトによる介入は2013年8月1日に開始
介入は全ての患者に対してCGA,週1のミーティングして治療や投薬に関する問題をマネージメント,適宜フォローアップ
アウトカム:平均機能的自立度指標(FIM)の変化(退院時FIM-入院時FIM)

65歳以上対象のリハビリ病棟では20.8→29.3に改善
60歳以上対象の透析リハビリ病棟では22.1→30.6に改善
入院期間も25-28%短縮,サービス中断頻度も34-49%低下した

リハビリ病棟でも老年病コンサルトによりFIMスコアは改善するという研究

【JC】病棟評価で毎日ルーチン診察する意義は?②(J Hosp. Med. 2021 September;16(9):570-571)

前回のPERSPECTIVE(J Hosp Med. 2021 September;16(9):568-569.)に異議あり!!のPERSPECTIVE


個人的にはhypothesis-driven physical examination(HDPE:鑑別診断を考えながら行う身体診察)の視点は大事だとおもっているので,どちらかというと前回の記事よりの考えではありますが...どっちがあってる/正しいというよりは,いろいろな視点の考え方をもったりや普段のルーチンを再考する事が大事だと思っています

 

Counterpoint: Routine Daily Physical Exams Add Value for the Hospitalist and Patient
(J Hosp Med. 2021 September;16(9):570-571)

1.日々のルーチンの身体診察はスキルの維持のために必要

・研修やその後のキャリアで身体診察のスキルが落ちる可能性があるArch Intern Med. 2006;166(6):610-616)
・身体診察はベッドサイドで学ぶのが一番であり,日々のルーチンは大事な機会である
・希な異常を検出するには正常を何百回も繰り返す必要がある

2.診断上のメリットもある

・不十分な身体診察は診断エラーや悪い転帰につながることがある
・入院中に担当医による身体診察で診断や管理が変更されることがある報告も有る(Lancet. 2003;362(9390):1100-1105)
・日々のルーチンの診察は自分たちの臨床推論に対するチェックにもなるし,予想外の合併症や副作用を早期にきづけるかもしれない。

3.医師の燃え尽き防止や医師患者関係の強化のために重要

・日々のルーチンの診察は、患者中心のケアと医師の燃え尽き防止のために重要です。
・ 徹底した検査を行うことで、患者さんは私たちに信頼を寄せてくれます。
・身体診察の儀式は患者と医師の関係を深めるのに重要な役割を果たす(Med Clin North Am. 2018;102(3):425-43)
・身体診察をすることでベッドサイドにいる時間を確保することは燃え尽き症候群の予防になる

主に上記3つの視点から患者およびHospitalistの双方にメリットがあるというPERSPECTIVEでした。

【JC】病棟評価で毎日ルーチン診察する意義は?①(J Hosp. Med. 2021 September;16(9):568-569)

衝撃的なタイトルなので読まずにはいられなかったのですが...

意義の低い診察(例:蜂窩織炎で入院した人に毎日胸部聴診を行う)をするくらいであれば,ベッドサイドの時間を患者さんとの対話,問題点の共有や不安や希望などを話す時間に使いましょう、という話しでした

 

いろいろな意見もあるとおもいますが...個人的には、意義や鑑別を考えずに漫然と診察をする、というのはあまり好きではないのでこのPERSPECTIVESはささりました😊

(無限ではない時間をどう使うか、という観点でも大事だと思いました)

 

異議あり!!のPERSPECTIVEがあり次に続きますっ!!

Point: Routine Daily Physical Exams in Hospitalized Patients Are a Waste of Time
J Hosp. Med. 2021 September;16(9):568-569.

患者に毎日ルーチンの身体診察を行うこともあるがこの伝統的な儀式はよく言えば時間の無駄であり,悪く言えば有害である

身体診察は19世紀から発達してきた分野であり,現代においても予測の高い診断ツールの1つであり,エビデンスもしめされている。また心不全患者のボリューム評価など身体診察は病棟での重要な評価の1つである。

ただし,目的からはずれたルーチンの身体診察は意義の低く,ときには有害にもなり得る
蜂窩織炎で入院した人に胸部聴診を行うのは「スクリーニング」になる
入院患者での研究はないが外来患者におけるスクリーニングで有用な身体診察はほとんどない

入院患者に定期的なルーチンの身体診察を必要とするエビデンスはない
「安価」で「迅速」であるのでエビデンスの有無にかかわらず実施すべきであるという意見もあるが、ルーチンの身体診察が費用対効果に優れているかというとそうでもない(外来で看護師が55歳以上の人に1人1分の触診を行うと数千ドルになる)
スクリーニングの身体診察で余計な検査が発生することも有る(腹部の触診からのAAAの検査)

研修医がベッドサイドで過ごす時間は10%未満と言われている(Acad Med. 2016;91(6):827-832)
この貴重な時間を意義の低いルーチンの診察に割くのではなく,患者さんの症状や不安や本人を知るためや,患者さんと向き合って問題点を話し合う時間に使うべきである

などなど記載がありました
患者さんの期待や「儀式」としての見方に関する考察などもかいてあり勉強になりました

【JC】H.pylori血清検査の意義は?(J Hosp Med. 2021 Jul 21. doi: 10.12788/jhm.3638.)

JHMの「Things We Do for No Reason™」(TWDNR)シリーズより
H.pyloriの血清検査の意義は? の抜粋です

内視鏡検査の適応がある人は生検で診断を
内視鏡検査の適応がない人では便中抗原か尿素呼気試験を(血清検査は使用しない)
・便中抗原か尿素呼気試験をする場合は4wはPPI,抗菌薬,ビスマスを中止する。制酸薬の使用が必要な場合はH2を

・除菌は治療4w後に全ての症例で生検,尿素呼気,または便潜血抗原検査を確認すること。

わかっていない部分もあり勉強になりました😊

Things We Do For No Reason™: Serum Serologic Helicobacter pylori Testing
J Hosp Med. 2021 Jul 21. doi: 10.12788/jhm.3638.

BACKGROUND

H pylori感染は上部消化管症状を引き起こし消化性潰瘍疾患や胃癌,その他一部の疾患の原因になる。H pylori感染が診断された場合、現在の米国消化器病学会のガイドラインでは除菌が推奨されている

検査には様々な方法があり侵襲的な検査では内視鏡検査,非侵襲的な検査では血清検査(抗体),鞭虫抗原検査,尿素呼気試験がある。2010年-2012年の米国の調査では70%の人の初回検査が血清検査だった

WHY YOU MIGHT THINK SEROLOGIC H PYLORI TESTING IS HELPFUL

血清検査のメリット
・採取が簡単
PPI,抗菌薬,ビスマスの影響をうけない(これらは便中抗原や尿素呼気試験の感度を下げる)

WHY SEROLOGIC TESTING FOR H PYLORI IS NOT HELPFUL

ピロリ菌の問題

1.他の非侵襲的な検査に比べて感度が低いこと。
2.現在の感染や過去の感染か区別できない
3.(米国では)認可されていない検査が使われている(IgA および IgM 検査など)


血清検査の感度は76-84%
便中抗原検査の感度は93%
尿素呼気試験の感度は96%

よくある誤解に「除菌療法をうけたことがない人の血清検査が陽性であれば現在の感染を示唆する」というものがあるが,小児でも大人でも自然に除菌したり再感染したりすることがあるので血清検査による活動性の評価は困難


WHEN MIGHT SEROLOGIC H PYLORI TESTING BE HELPFUL?

消化管出血で入院した人など検査前確率が高く,PPIの使用を中止できない人であれば血清検査が陽性であれば治療を開始するべきである
(ただし検査前確率が高いため感度の高くない血清検査が陰性でもピロリ感染は除外できない)

検査前確率が低く内視鏡の適応にならない人(消化不良や不快感など)であれば血清検査の前に便中抗原や尿素呼気試験を行うべきである

WHAT YOU SHOULD DO INSTEAD

警告症状があり内視鏡検査の適応がある人は内視鏡検査で診断する
検査前確率が低く内視鏡の適応にならない人(消化不良や不快感など)であれば血清検査の前に便中抗原や尿素呼気試験を行うべきである(血清学的検査は避けるべき)

便中抗原または尿素呼気試験抗菌薬,ビスマス,PPIを4週間中止した後にのみ実施する。制酸薬が必要な人はPPIのかわりにH2blockerを使う。
除菌の効果判定は治療終了してから4w後に尿素呼気試験か便中抗原検査で確認する


※TWNDRは明確な結論や臨床実践の基準を示すものではありません。興味ある人は是非論文を読んでみてください!!