ある病院総合診療医の備忘録+α

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

壊死性軟部組織感染症

●壊死性軟部組織感染症

壊死性筋膜炎(NF)から色々包括する意味で壊死性軟部組織感染症(NSTI)に名称が統一されている
NSTIは糖尿病,慢性肝疾患,PAD,免疫抑制の人におきやすい(他にも悪性腫瘍,栄養失調,肥満,慢性腎不全...)
外傷や熱傷をきっかけに発症することもあるし深在部から発生することもある
数時間の急性経過もあるが数日の亜急性の経過もある

症状の頻度(Ann Surg 1995;221:558-63.N Engl J Med. 2017 Dec 7;377(23):2253-2265.) は
・境界不明瞭な紅斑(72%)
・視認可能な紅斑を超えた浮腫(75%)
・激痛(72%)
・発熱(60%)
・水泡,壊死,斑状出血(38%)
ほかの症状として下痢,筋肉痛,食思不振などをおこすこともある(これが診断エラーにつながることもある)
壊死性筋膜炎の設定では小血管の血栓および皮下組織の表在神経の破壊により疼痛に対する感覚の低下が発生し,臨床所見に不一致な激痛を起こす。これは壊死性筋膜炎の診断のてがかりになりうる


□NSTIの病期(Curr Opin Infect Dis. 2005 Apr;18(2):101-6.)

Stage1:圧痛,紅斑,腫脹,熱感
Stage2:水疱,皮膚の波動や硬結
Stage3:血性水疱,皮膚の感覚鈍麻,握雪感,皮膚壊死

□NSTIの分類/Stage

type1:polymicrobial:体幹部や会陰部に多い
type2:monobacterial(グラム陽性球菌):四肢に多い
type3(?):Vibrio Vulnificusによる壊死性軟部組織感染症

皮下ガスは特に糖尿病患者のtype1のNFでしばしば発生する
消化管や尿道粘膜などがきっかけで会陰部に起きたらフルニエ壊疽の病名になる。男性に多く,type1のことが多い。
歯原性,術後,咽頭病変がきっかけで頭頸部に起こりうる。type1が多い。Ludwig anginaやLemierre症候群が含まれることもある。

●皮膚所見のジレンマ

・表在から発生するNSTIもあれば深部から生じるNSTIもある(NEJM 2017のreviewの図が秀逸)
なので皮膚所見では除外ができない
・とはいえ単肢ならともかく体幹部の皮膚所見なしのNSTIをどうやって疑えばいいのか...かなり厳しい...


■検査所見

左方移動を伴うWBC増加,アシドーシス,凝固障害,低Na,炎症マーカー上昇,Cr上昇,乳酸上昇,CK上昇などがおこる
CK上昇は筋肉や筋膜までの障害を示唆する(N Engl J Med 2017; 377:2253.)
LRINECスコアというものがある(Crit Care Med 2004; 32:1535.)が、その後の研究で除外に使用するべきではないことがしめされている

LRINECスコアのメタアナリシス(Ann Surg. 2019 Jan;269(1):58-65)では
LRINEC score 6点以上:感度68.2% 特異度84.8% LR+ 4.49 LR- 0.38
LRINEC score 8点以上:感度40.8% 特異度94.9% LR+ 7.94 LR- 0.62
の結果。LRINEC0点のNSTIもある(J Emerg Med 2013; 44:928.)

■診断と治療

□疑うポイント
・バイタルの異常がある(特に頻呼吸,血圧低下,意識障害...蜂窩織炎ではあまり起きない)
・急速進行
・皮膚所見と疼痛部位の不一致,皮膚所見と疼痛の強度の不一致
・握雪感,出血性水疱,皮膚色の変化や壊死,悪臭の存在

診断は手術室で確定する。画像検査や培養や他の結果を待つ時間により外科的介入が遅れてはいけない。早期介入が望ましく基本的に6h以内(J Emerg Trauma Shock 2016; 9:22.)

■Finger Test

●FInger test(Southern Med J 1997;90:1065-8.)

大規模研究がないため診断精度は不明。肉眼所見だけでなくグラム染色による検体や病理検査が迅速に得られる(Triple diagnostics)が、軽視されがち。ガイドラインにも記載がされていないこともしばしば(World J Emerg Surg. 2016 Oct 11;11:51. eCollection 2016)

Finger testをするメリット
・筋膜の情報が得られる、診断の一番の近道
・検体がとれたらG染色や病理に出せる
・ベッドサイドで簡易的にできる
FInger testのデメリット
・感度特異度が不明
・2cmの傷ができる

●試験切開の所見(World J Emerg Surg. 2016 Oct 11;11:51. eCollection 2016)

・肉眼的に灰色な壊死組織
・出血が少ない
・組織抵抗がない(筋膜にもズブズブ指が入る)
・筋収縮がない
・dish water(濁ったサラサラした液体がでる)
※ドロっとした膿はでない


■画像検査

レントゲンは握雪感や急速進行であればSkipでよい。Xrは感度48.9% 特異度94.0% LR+ 8.17(Ann Surg. 2019 Jan;269(1):58-65)

USに関してはDataはそろっていない

最良の初期検査はCT。最も有用な所見は軟部組織のガス,クロストリジウム属かtype1のPolymicroの所見でよくみられる所見でNSTIに特異的な所見であり即時の外科的介入を促すはず(Clin Infect Dis 2007; 44:705.Arch Surg 2010; 145:452.Radiology 1997; 202:471.)
ほかには液体貯留,造影効果の欠如や不均一,筋膜下の炎症性変化などの所見もでる
造影CTでは筋膜の造影効果の消失が有用な所見(Radiol Med 2016;121:106-21.)

MRI vs NSTI(Radiographics. 2016 Oct;36(6):1888-1910.)

MRI検査は深部筋膜にそったT2WIの信号変化がなければ壊死性筋膜炎を除外できる
MRIは軟部組織のガス検出にはむかない
MRIは感度が高いが偽陽性も多い

NSTIに関連する画像所見
・深部筋膜の広範囲な障害
・STIRや脂肪抑制T2WIで3mm以上の筋膜肥厚
・3分画以上の障害
・造影で筋膜の信号変化はかわらない(色々なパターンがあるが造影されないのが特異的)

■鑑別診断
蜂窩織炎
・壊疽性膿皮症
・ガス壊疽(GPRが起因菌なのでG染色でわかる)
・化膿性筋炎(黄色ブドウ球菌が膿瘍をつくるのが典型的なパターン)
・DVT
・壊死性Sweet病

●NSTIの診断に関して(Br J Surg. 2014 Jan;101(1):e119-25)

初回の誤診は3/4くらい
早期診断に役立つ徴候
→広域抗菌薬に反応しない
→皮膚に水疱がある
→Xrでガスがある(24.8%のみ)
糖尿病や肝疾患がある人で強く疑うことが必要

●NSTIの診断のピットフォール(N Engl J Med. 2017 Dec 7;377(23):2253-2265)
発熱がない:NSAIDsは熱を消す。Clostridium sordelliiの場合でも熱はでない。
皮下の所見がない:深部組織から始まるパターン
痛みが外傷や手技による:手術,分娩後,精巣上体炎,陰部外傷などに起因するパターンやNSAIDsやDMNで痛みがないパターン
画像所見が非特異的:浮腫のみでガス像がないこともある
全身症状への帰属:嘔気,嘔吐,下痢などのTSS様症状は食中毒やウィルス性疾患っぽくくる

□NSTIの診断に関してのメタアナ(Ann Surg. 2019 Jan;269(1):58-65)
CTの感度は高く有用
診察,Xr,LRINECスコアは単一で除外できない

出血性水疱:感度25.2%特異度95.8% LR+ 5.97
Xr:感度48.9% 特異度94.0% LR+ 8.17
CT(筋膜のガス):感度88.5% 特異度93.3% LR+ 13.27 LR- 0.12
CT(筋膜の浮腫かガスか腫大):感度94.3% 特異度76.6% LR+ 4.04 LR- 0.07
LRINEC score 6点以上:感度68.2% 特異度84.8% LR+ 4.49 LR- 0.38
LRINEC score 8点以上:感度40.8% 特異度94.9% LR+ 7.94 LR- 0.62

■治療

デブリしない場合の死亡率は100%近い
・壊死組織がなくなるまでに1-2d毎に継続する必要がある
・感染制御のために切断が必要になることもある
・抗菌薬Regimenの例
→カルバペネムかβ-ラクタマーゼ阻害配合の薬
→抗MRSA
→CLDM 600-900mg q8h
 →淡水(Aeromonas)や海水(V.Vulnificus)の暴露があればそれ用の抗菌薬を
・IVIGはコンセンサスが得られていない
・血圧の維持にAlb製剤使用が必要になりうる,特に毛細血管漏出症候群(capillary leak syndrome)の合併時
・心筋症が合併することもある