ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC 流し読み】鑑別診断ツールはプライマリケアで使われる可能性が低い Diagnosis (Berl). 2020 Feb 14;8(1):91-99.

Assessing the utility of a differential diagnostic generator in UK general practice: a feasibility study
Diagnosis (Berl). 2020 Feb 14;8(1):91-99.


□背景①

・診断の意思決定を支援する鑑別診断ツールの有用性を支持するエビデンスが増えているが,主に米国の二次医療機関に限られて使われている
プライマリケア領域ではその多忙さから医師の時間に制約があるといわれ,その代替手段の一つとして鑑別診断ツールが注目されている
・しかし,一方でプライマリケア領域では25-50%は疾患特異的な診断ができないことが言われており,二次医療機関とは様相が異なる

□背景②/Isabelに関して

・Isabelは他のツールと比較しても有用性が示されている
・役に立つというユーザーの報告もある
・逆に9割のユーザーが不便と感じているという報告もある
・イギリスの利用に関する研究は1つしかなく,使用頻度も低く成果も限られていた

□Table1よりIsabelの特徴

・独立ないし電子カルテと統合して使えるWebベースの診断チェックリストツール
・患者の年齢,性別,臨床像,渡航歴を入力する
・診断結果は2秒以内に見逃していけない疾患ふくめ10件提示され,ワンクリックで詳細が表示される
・地域に合わせてカスタマイズできる
自然言語処理ソフトを搭載している


※Isabel vs 志水太郎先生の記事も是非

日経メディカルの記事
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/dxbias/201909/562114.html

IJERPHにLetterで掲載になりました
https://generalistcwtg.hatenablog.com/entry/2020/08/22/183714
https://www.mdpi.com/1660-4601/17/17/6110
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32842581/


●結果と結論

・利用がそもそもかなり限られていた
・ほとんどの人は使用しておらず,使用した人の中でも使用は限られており,患者管理を変えることはなかった
・事前インタビューでは両価的な見方が示された
・使用後のインタビューでは内因性,外因性,様々な要因による使用率の低さを示唆した。
→内因的要素:DDxツールの存在を知らない,患者と臨床医の関係への影響に関する懸念,DDxツールをいつ使うかの不確実性や変動性
→外因性要素:電子カルテへの統合の欠如,時間


・現状では鑑別診断ツールとしてのIsabelは英国のプライマリケア診察で使われる可能性が低い。これには内因性,外因性,両方の要因が絡んでいる

・教育/訓練や稀な疾患や複雑な症例の診断支援には有用な可能性がある