ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC】IPASSバンドルの申し送りで有意差なし(BMJ Qual Saf 2021;30:782–91)、解釈は?

IPASSバンドルをつかった申し送りのRCTで有意差なし...どう解釈するか、というBMJQSのEditorial


ざっくりと意訳すると
・IPASSのエビデンスは揺るぎないもの
・医療安全の介入試験は関連因子(リーダーシップ,環境の変化,導入の詳細,組織の歴史...etc)が多くRCTでの評価は困難
という内容。
IPASSのエビデンスや歴史に関しては余裕あれば次のネタに。


I-PASS handover system: a decade of evidence demands action
BMJ Qual Saf. 2021 Oct;30(10):769-774

PICUにおいてIPASSによる申し送りで有害事象の頻度やコミュニケーション強化の認識に有意差がでなかったというRCT(BMJ Qual Saf 2021;30:782–91.)が掲載されたBMJQSでのEditorial

①IPASSは10年以上検証され有用性のエビデンスは広がっている

・CRICOの2万件以上の医療過誤請求の調査では30%がコミュケーションの問題だった
・現在の医療は患者の複雑性がまし関わる医療従事者の数や種類が増えているため申し送りに関連する問題が増加している
・時間外のケアがシフトに不慣れな医師や普段を知らない医師によって行われることもあり効果的な申し送りの必要性はますます高まっている。一貫性のある構造化された標準化された申し送りは必要。

□申し送りのエビデンス
(シフト業務,術後患者やICU,重症患者では特に価値が高いと考えられている)

ICUや術後ケアユニット
手術室への入室
外傷患者の管理
ICU から一般病棟への搬送
ローテーション終了後の研修医の引き継ぎ

□IPASSに関して

・構造化された標準的な申し送りでIPASSは主流となっている
・IPASSは引き継ぎに重要な5つ要素(重症度,患者の概要,やるべきこと,状況把握や緊急時のプラン,受け取り側の統合/確認)が全て含まれている
・特に最後の2つ(状況把握や緊急時のプラン,受け取り側の統合/確認)がこれまでの申し送りにはないものだった
・質問やディスカッションの機会やClosed loop communicationがは受け取り側の理解の確認に役立つ
・IPASSは様々な研究により,引き継ぎの時間を増やすことなく,主に予防可能な有害事象を減らすエビデンスが確立されてきた

②医療安全における介入の効果判定の難しさ


・効果的なコミュニケーションが重要であることは言うまでもないが,患者の臨床結果に影響を与える数多くの医療機関のプロセスや病院システムの一つに過ぎない
・ほとんどの病院では品質と安全性の向上に向けた多様な取り組みが常に行われている
・特定の介入の効果を分離することは困難である
・理想的には対象群の盲検化と観察者の盲検化だが前者は難しい
・ほかのシステムが機能して最適ではない申し送りの影響を相殺することもある


IPASSは患者や医療従事者に対して悪影響を及ぼすことはほとんどなく、少なくとも2つ以上の大規模で綿密な研究で医療過誤や有害事象の大幅な減少と関連しているものである。そしてこれらの研究はIPASSを含む申し送りシステムが重視されておらず認知度が低い時代の研究であり、現代では考えられないほど介入とコントロールの状態が離れていた。

RCTは特定の治療や介入の有用性を科学的に確認するうえで重要な役割を果たしているが、複雑な社会的・行動的変化を伴う介入では限界も大きい。RRSの介入でも類似の結果がでた。
安全に対する介入はリーダーシップ,環境の変化,導入の詳細,組織の歴史など様々な影響をうける...そのためこのような複雑な領域ではRCTでは不十分かもしれない。


ということで今回の研究はIPASSの有用性を棄却するものではないというEditorial
もっと複雑な話なんですが、イメージとしては敗血症診療におけるEGDTのエビデンスと似たものを感じました

 

IPASS 興味あるかたはこちらの記事なども参考になりますので是非

夜間・休日の急変に備えた効果的な申し送り(三高隼人) | 2019年 | 記事一覧 | 医学界新聞 | 医学書院