ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC 流し読み】施設入所者でのBZOや減薬は?

Benzodiazepine Use and Deprescribing in Belgian Nursing Homes: Results from the COME‐ON Study
J Am Geriatr Soc. 2020 Dec;68(12):2768-2777.

施設入所者でのBZOや減薬に関して調べた研究

半分のコップの水問題で少ないと感じるか多いと感じるか...にもみえますが,非認知症患者でもっと減らすようにしましょうという結論


背景:施設入所者におけるBZOの使用や適切性の評価,使用や処方に関連する因子を特定すること
デザイン:施設入所者におけるPIPに対する複合的な介入を評価したCOME-ON研究の事後解析
設定:ベルギーの54の施設
参加者:ベースラインと研究終了時(15ヶ月後)に医療情報が把握できている797人
測定:BZOをPIPと判断した理由は2019年AGS STOPP ver2。 "Deprescribing"には中止も減量も含めた。多変量と多項ロジスティック回帰分析を行い,因子を同定した
結果:


□ベースラインのBZOの使用に関して

平均年齢は87才,73%が女性。薬剤の数は0-25で中央値は9。ベースラインで418人(52.4%)がBZOを内服していた。その中で77.3%が1年以上内服,90%が定時内服。不安に対して73.1%,不眠に対して77.9%でBZOが処方された。41.9%は内服理由に関して不眠や不安の記載がなかった。多変量解析でBZOの内服と関連していた因子は3m以内の転倒,不安,不眠,COPD,薬の数,抗うつ薬,GPの年齢。逆に認知症,トラドゾンの使用,施設管理医のケアはBZOの使用低下と関連していた。不眠,行動症状,精神症状,男性はBZOと関連していた。

□PIP(潜在的な不適切処方)に関して

Beerは全てのBZO使用
STOPPは4w以上のBZO使用(98.3%)

41.9%が適応外使用
67.2%が薬物疾患の相互作用(認知症,せん妄,転倒の既往,骨折の既往)
薬剤相互作用
→BZO+オピオイド 21.1%
→BZO+CNS薬剤 67.2%

□BZOや薬の数の減処方に関して

COME‐ON Studyでは介入群は52.3%→47.2%と5.1%減少した(対象群は2.3%)。多変量解析では認知症,パーキンソン,錐体外路症状,3m以内の入院も減薬と関連していた。減処方は28.2%(介入群 32.9%,対象群 22.1%)であった

□Conclusion

 
BZOの使用は非常に多く,潜在的に不適切と考えられる理由は多くあった。減処方が1/4であるのは励みになる。今後の介入は非認知症患者におけるPIPに焦点をあてるべきである。
 

【JC 流し読み】COPD+心血管疾患ではβ-blockerを

Association of beta-blocker use with survival and pulmonary function in patients with chronic obstructive pulmonary and cardiovascular disease: a systematic review and meta-analysis.
Eur Heart J. 2020 Nov 19. pii: 5992317. doi: 10.1093/eurheartj/ehaa793.

以前から色々なところで指摘がある、COPD+心血管疾患ではβ-blockerを、という話です

目的:心血管疾患とCOPDを持つ人に対するβ-blocker(BB)の呼吸機能や生存に及ぼす効果を明らかにすることと,心臓選択性の効果の違いの比較
方法と結果:PubMed, EMBASE, Cochrane Library, Web of Scienceの4つの電子データベースで関連文献を検索し、BBを服用している慢性閉塞性肺疾患患者とBBを服用していない患者との間で、さまざまな指標の違いを比較した。49 件の研究が含まれ,合計で 670594 人。12の無作為比較試験,37の観察研究が含まれた。COPDの急性増悪に対してBBの内服はHR 0.77,心臓選択性BBはHR 0.72,非心臓選択性BBは0.98。全死亡はBBの内服はHR 0.70,心臓選択性BBはHR 0.60,非心臓選択性BBは0.74。換気に関して有意差はなかった。

結論:COPD患者におけるBBの使用は安全なだけでなく全死亡や院内死亡を減らす。心選択性BBはCOPD-AEを減らす可能性があり,気管支拡張薬の作用に影響を洗えない。さらにBBは気管支拡張薬による心拍数上昇を抑える。BBはCOPDがあっても適応があれば処方されるべきである。
 




JGFMのPreliminary Reportに診断エラーに関するアンケート研究をのせていただきました

研修医の先生の記憶にのこった診断エラーのケースをDEER taxonomyで解析するとどうなるか?というテーマで行ったアンケート結果,JGFMのPreliminary ReportにアクセプトをいただいたのがPublishされました

 
共著の先生方や周囲の方々のサポートがありここまでようやくこれました。
そして査読が非常に教育的,建設的,サポーティブで本当にありがたかったです。査読のおかげで内容が明らかに内容がよくなり,圧倒的感謝っ……!としか表現ができません。。。

【JC 流し読み】85才以上のCOVID-19

COVID-19 in Older Adults: A Series of 76 Patients Aged 85 Years and Older with COVID-19
J Am Geriatr Soc. 2020 Dec;68(12):2735-2743.

 
85才以上,Clinical Frailty Scoreの中央値は6の集団のCOVID-19の報告
転倒が25%,消化器症状が22.4%,混迷のみの人が2%という非典型的パターンや,重症が50%,死亡率29%,という報告。

Abstract
背景:高齢者におけるCOVID-19の臨床像や死亡のリスクはよくわかっていない
目的:85才以上のCOVID-19の臨床的特徴と転機,死亡の危険因子を描写する
デザイン:前向きコホート研究
参加者や設定:85才以上で非ICUに入室したCOVID-19の患者,フォローアップは21d
測定:臨床所見および検査所見を収集した。Cox生存率分析を実施して 死亡に関連する因子を調べた。
結果:76名が入院した。年齢の中央値は90才で女性は55%。
Clinical Frailty Scoreの中央値は6。97.4%の人に並存疾患があり,64.5%が3つ以上あった。並存疾患は高血圧81.6%,認知症63.2%,心不全31.6%など。
多い症状は衰弱/asthenia(76.3%),発熱(75.0%),せん妄や混迷(71.1%),SpO2低下(59.2%),呼吸苦(50%),転倒が25%,消化器症状が22.4%で報告されている。重症度は軽症が15.8%,中等症が32.9%,重症が51.3%。合併症はARDS 28.9%,心不全 14.5%,ショック 9.0%。21dの死亡率は28.9%,男性の方が死亡が多かった(68.2%)。生存者の入院期間の中央値は12d(9-19.5d),志望の独立した予測因子は入院時のCRPとリンパ球の最小値だった。
発症から入院までの日数と死亡に有意差はなかった。
結論:COVID-19は高齢者では重症型が大半を占め、3週間の死亡率も高い。高齢者では多臓器損傷や非典型的な臨床症状を含む特徴的な特徴が確認されている。早期発見と集中的なサーベイランス,高齢者への感染を回避するための予防戦略が必要

【執筆】しくじり症例から学ぶ! Difficult Patient対応技法で1例執筆させていただきました

しくじり症例から学ぶ! Difficult Patient対応技法
ようやく読破しました

https://www.amazon.co.jp/dp/4784973826/


あーあるある、という症例から、突き抜けたような衝撃的な症例まで...読み応え最高でした
医師の思考過程がわかりやすく具体的に書いてあり頭に入りやすい設計かつ,目次の26のシナリオと最後の索引のページもわかりやすいです
自分は「医学的に説明がつかない症状の患者(Medically unexplained symptom)」の症例を担当させていただきました
このような素晴らしい書籍に執筆させていただく機会をいただき,鋪野先生本当にありがとうございました

【JC 流し読み】施設入所後でもスタチンは中止されるか

Statin Discontinuation and Life‐Limiting Illness in Non–Skilled Stay Nursing Homes at Admission

https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/jgs.16777


First published: 17 August 2020
https://doi.org/10.1111/jgs.16777

スタチンは施設入所後/予後が限られている人でも継続されている,第二弾。

個人的にスタチンはそこまで興味の中心ではないのですがAGSの中でどうしても目に付くので。。。

目的:施設入所した人を対象に予後に準じた30d以内のスタチンの中止率を推定する
デザイン:2015-2016年の間の施設入所者を対象とした後ろ向きコホート研究
設定:米国のメディケア,メディケイド認定の介護施設
患者:65才以上,新規に入所し,入所時にスタチンが投与されている人
測定:入居者はエビデンスに基づいた基準で予後が限られている人かどうか分類し,入所30日後にスタチンが投与されているかを確認した
結果:全体では19.9%が入所30日以内にスタチンが中止されていた。その割合は予後にかかわる疾患の分類によって異なった(致死的な疾患がない:20.5%,重篤な疾患:18.6%,緩和ケアコンサルト:34.5%,終末期と判断された:45.0%)。致死的な疾患がある人はない人と比較してスタチン中止の割合は重症度に応じて増加したが,それにもかかわらずほとんどの患者は予後が限られているにもかかわらず施設入所後はスタチンが継続されていた。
結論:メディケア受給者のほとんどは施設入所後もスタチンが継続されていた。入所後に医療を提供する側が効果に疑問がある薬を安全かつ効果的に中止するためのプロセスを明らかにするための研究が必要である。
 

 

【JC 流し読み】スタチンのガイドラインは高齢者での中止を考慮しているか

Recommendations for (Discontinuation of) Statin Treatment in Older Adults: Review of Guidelines
J Am Geriatr Soc. 2020 Feb;68(2):417-425

具体的な指針の提示はないという結論

 

高齢者医療は個別化とSDMがKeyだと思っているので,まぁ...という感じですが,このへんも個別化された群(例えばですが...Clinical frail scale7以上とか)でのDataがでてくるとよいなとは思っています


目的:高齢者に適用されるスタチン治療の中止に関する様々なガイドラインの提供
計画:PubMed,EMBASE,EMCARE,ガイドライン開発機関のウェブサイト,オンラインガイドラインリポジトリから一般集団を対象とした心血管疾患予防ガイドラインを系統的に検索した。2009年1月から2019年4月までに発行された高齢者に適用可能なスタチン治療の中止に関する推奨が記載されたすべてのガイドラインを選択した。スタチン治療に関する高齢者向けの他のすべての推奨事項の情報を統合した。
結果:11の国/地域の33のガイドラインを検討したが15(45%)は、高齢者に適用可能なスタチンの中止に関する推奨事項が全く含まれていないため対象から外れた。一般成人を対象とした心血管疾患予防のための18の国際ガイドラインでは,高齢者にも適用可能なスタチン中止の推奨事項が記載されていたが,高齢者を特に対象としたものではなかった。18のガイドラインのうち,16のガイドラインでは高齢者のスタチン治療に関する推奨の記載はあるが,実際にどのように実施するかについての詳細は示されていなかった。18のうち3つのガイドラインには,治療中に機能低下がみられる患者や平均余命が限られている患者など,健康状態が悪い患者に対するスタチン中止の示唆が含まれていた。その条件は平均寿命が短い患者,多臓器疾患を持つ患者,または 併存疾患の増加,虚弱性,機能低下,または 害が利益を上回る場合というフレーズが使用されていた。
結論:現在の国際的な心血管疾患予防ガイドラインでは,健康状態の低下と短命の状況下で高齢者のスタチン中止に関して具体的な指針はほとんど提供されていない。


Table 2. 18の国際的なガイドラインでの高齢者におけるスタチン中に関する推奨


■不耐症

□中止するべき
筋症状(横紋筋融解症含む)
肝毒性
禁忌


□中止を考慮/継続するべきではない
筋症状(横紋筋融解症含む)
スタチン製剤開始後の認知機能障害(可逆性を評価する)

■患者さんの状態
□中止を考慮
・余命が短い
・多並存疾患
・フレイル
・機能低下(身体か認知か)
・害がデメリットを上回る(ポリファや副作用)


Table 3.収録されている18のガイドラインにおける高齢者に対するスタチン治療の一般的な推奨事項

□安全性に関して
・副作用に注意する
・低用量で
・薬物-薬物相互作用を考慮に入れる
・ポリファーマシーを考慮に入れる
・PK_PDを考慮に入れる
・リスクとメリットを考慮に入れる

□健康状態に関して
余命,並存疾患/多並存疾患,QoL,触れる,健康状態,生活習慣の改善によるメリット,コスト,機能の変化.認知機能低下...を考慮する

□Preference and judgmentに関して
患者の好みを考慮に入れる
意思決定の共有
ケアの優先順位を考慮する

□開始/継続に関して

75歳以上の高齢者では許容があれば治療を継続する。
定期的に治療に関して再考する
75歳以上の高齢者、または余命が限られている患者の脂質異常症のスクリーニングは適切ではないかもしれない/中止することが推奨される
二次予防のためには、若年者と同様に高齢者にもスタチン系薬剤による治療が推奨される。