ある病院総合診療医の備忘録+α

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

ケース流し読み:60歳男性,進行性の筋力低下と咀嚼困難

□ケース流し読み:60歳男性,進行性の筋力低下と咀嚼困難

※注意:ネタバレ含みますので注意してください



A 60-Year-Old Man with Weakness and Difficulty Chewing
(N Engl J Med. 2019 Apr 18;380(16):1566-1574)

60才男性,既往は高血圧,乾癬,圧迫骨折
HCTZ,ARB,ゾルピデム,ビタミン剤,局所VitD製剤を使用している
6ヶ月前に肩や腕の筋力低下とピクつきを自覚
4ヶ月前に咀嚼が困難になってきた。咀嚼は継続すると増悪する易疲労性だった。
5週間前に神経内科受診,診察時は構音障害は目立たず,眼筋麻痺や眼瞼下垂もなかった
MMTは両側性に肩の外転や肘の屈曲が4+/5程度で他は正常
三角筋の萎縮と線維束性筋収縮(fasciculations)が見られた
腱反射は両上肢が3+と亢進があった
VitB12,甲状腺,銅,亜鉛,水銀,ヒ素は正常,Lymeと梅毒は陰性,MGの抗体は陰性
胸部CT,頭部MRI,頚椎MRIは正常だった
ピリドスチグミンが開始されたが反応は一時的で結局悪くなった
診察上は構音障害と筋萎縮が認められ,他に女性化乳房あり
CKは498と上昇,電気泳動HIVの検査は陰性

診断はなんでしょう?という症例でした

解説を読むまでは...fasciculationsがあって感覚障害がないのであれば...とが思っていたんですが、解説が非常に勉強になりました。

□ミオパチーかどうか
・ALSの40%は正常上限の1-2倍CK上昇する
・CKは正常上限の10倍以上であればミオパチーに特異的
・ミオパチーでfasciculationsは出ない

□神経筋接合部疾患
・易疲労性の病歴は神経筋接合部疾患/特にMGっぽい
・MGの症状が起きやすいのは眼球や近位筋
・この症例のMGっぽくないところは...
1.外眼筋の筋力低下がない/眼瞼下垂がない
2.MGの自己抗体が陰性
※眼球MGの50%をふくめ抗体陰性のMGはある。とはいえ眼球以外に症状がおきるMGで抗体陰性は10-20%程度
3.ピリドスチグミンによる治療前から fasciculationsがあった。これはMGっぽくない。(ピリドスチグミンは fasciculationsをおこす)
・LEMは基本的にfasciculationsはおきず.腱反射は通常減弱する

□Neuropathy
・ほとんどの神経障害は遠位の脱力をきたす
・CIDPは例外として近位側の脱力をおこしうるが,この症例ほどの脱力をおこす神経障害であれば感覚障害はまずおこる
・Neuropathyの中に1つ例外がある,多巣性運動ニューロパチー(MMN)は感覚障害をおこさない
・MMNは感覚障害を伴わない左右非対称性の上肢遠位優位筋力低下と筋萎縮を主徴とする後天性の慢性脱髄性末梢神経疾患。ALSのmimic疾患の1つ。IVIGなど治療可能な疾患。神経伝導検査で脱髄性の所見があるのが特徴。またこの患者における両腕と延髄の急速な障害はMMNっぽくない

□Motor Neuron Disease
・この年齢で一番多いMNDはALSで上位と下位の運動ニューロンの両方に障害をあたえる変性疾患
・ALSの脱力の分布は色々。非対称性の腕や脚のことが多い。25-40%は眼球のみ。
・この症例にあるような両側性の近位の脱力は10%未満

などなど勉強になりました。また,この症例の上位運動ニューロン障害に関しては筋萎縮やfasciculationsがある状況では腱反射は低下することが予想されるが、この症例では正常以上(上肢は亢進)なので上位運動ニューロン障害と考えるということでした。
女性化乳房があるので脊髄球性筋萎縮症(Kennedy-Alter-Sung症候群)も考えたくなりますが,経過が極めてゆっくり(20-30年で進行)するのでこの症例ではあわないということでした。


そして咀嚼で出た易疲労症状は?というとですが...これも神経筋接合部に限定されず,ALSでも認められるそうです
ということで最終診断は(atypicalな?)ALSでした。

他にも盛りだくさんなMGH-case recordでした。


詳しく読みたい人は

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcpc1900141

になります