ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

急性心不全治療下での「水分制限」のエビデンスは!?(J Hosp Med. 2021 Dec;16(12):754-756.)

JHMのTWNDRより、EF低下した心不全患者が急性非代償性心不全で入院するとき、水分制限、の意味はあるのか?
恥ずかしながらこれ全然知らなかったので勉強になりました。。。
※TWNDRは明確な結論や臨床実践の基準を示すものではありません。興味ある人は是非今回の論文や関連文献を読んでみてください😊
 

Things We Do for No Reason™: Fluid Restriction for the Management of Acute Decompensated Heart Failure in Patients With Reduced Ejection Fraction
J Hosp Med. 2021 Dec;16(12):754-756.

WHY YOU MIGHT THINK FLUID RESTRICTION IS IMPORTANT IN THE MANAGEMENT OF ADHF IN HFREF PATIENTS

慢性心不全患者における長年の常識とエビデンスにより急性非代償性心不全における体液制限の根拠/基礎となっている

ガイドラインでも重症急性非代償性心不全(ADHF)の管理戦略として1日1.5〜2.0Lの水分制限を推奨している(Eur J Heart Fail.2016;18(8):891-975.J Am Coll Cardiol. 2013;62(16):e147-e239.)

しかし根拠となる論文は慢性心不全の塩分制限の論文であって,急性非代償性心不全でも水分制限の論文でもない(Clin Sci (Lond). 2008;114(3):221-230.)


WHY FLUID RESTRICTION IN THE MANAGEMENT OF ADHF IN HFREF PATIENTS MIGHT NOT BE HELPFUL

病態生理学的な観点では急性非代償性心不全における水分制限は、逆にRAASの活性化につながる可能性がある(Clin Sci (Lond).1988;75(2):171-177)

うっ血は動脈の灌流低下がRAASの活性化に繋がりNaと水分の貯留を誘発することにより発症する(Eur Heart J Suppl. 2016;18(Suppl G):G11-G18)

ADHFのバイオマーカーに関する最大級のデータベースの解析結果によると、限外ろ過膜療法中はRAASがさらに亢進することが示唆されている(JACC Heart Fail. 2015;3(2):97-107)

これらのデータから推定すると、ADHF患者の水分制限がRAASの活性化をさらに促進し、腎機能の悪化などの有害事象の原因となる可能性がある。

水分制限に対する最も適切で説得力のあるエビデンスは、Traversらによって行われたADHF患者の水分制限を検討した最初の無作為化比較試験である(J Card Fail. 2007;13(2):128-132.)
入院中のADHFの患者(n=67)を1Lの水分制限 vs 自由摂取で比較したが薬剤投与量,症状改善までの時間,入院中の体重に差がなかった。サンプルサイズが67人で水分摂取量の差が両群で400mlしかない研究だった。その後Alitiraにより、入院中のADHF患者(n=75)を積極的な制限(水分800m,Na800mg)と自由(水分2.5L/d以上,塩分3-5g/d)の2群に比較したところ臨床的な安定性,体重減少,利尿薬の使用,再入院について有意差は認められなかった(JAMA Intern Med. 2013;173(12):1058-1064)


WHEN FLUID RESTRICTION IS HELPFUL IN THE MANAGEMENT OF DECOMPENSATED HEART FAILURE IN HFREF PATIENTS

心不全末期で慢性的な低Na血症(Na<135mEq/L)の患者は状況に応じて成分を制限する。心不全で低Na血症を発症するのはアルギニン・バソプレシンの分泌により自由水の排出ができないこと(J Am Coll Cardiol. 2013;62(16):e147-e239.)や,アンジオテンシンIIによる渇きの刺激で自由水の摂取量が増加することや、糸球体濾過率の低下により腎臓からの自由水の排泄が制限されることなどがある。


心不全における低ナトリウム血症は主に自由水の調節障害によって起こる。米国及びヨーロッパのガイドラインではD期の心不全患者に対して明確に推奨している(Eur J Heart Fail.2016;18(8):891-975.J Am Coll Cardiol. 2013;62(16):e147-e239.)

しかし、この方法を支持する無作為化データはなく、観察データによると、ADHFの低ナトリウム血症に対する水分制限の影響は限定的であることが示唆されている(Cochrane Database Syst Rev. 2018;28(6):CD010965)


WHAT YOU SHOULD DO INSTEAD

エビデンスに基づいた薬理学的治療が行われている現在、水分制限は助けにならず、潜在的に害を及ぼす可能性があることが研究で示されている。むしろ、入院中のADHFのHFrEF患者には、エビデンスに基づく最新の薬物療法を行い、喉が渇いたら飲めるようによる。

RECOMMENDATIONS

・駆出率が低下したADHF患者には、エビデンスに基づきRAAS系統の遮断を行い、うっ血を緩和するためにループ利尿薬を開始する。
・駆出率が低下したADHF の患者は、低ナトリウム血症がなければ、のどが渇いたら飲むことができる。
・ADHF で低ナトリウム血症および/または利尿剤抵抗性を併発している患者には、水分制限の開始を検討する。