ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

心不全のフィジカル(JACC Heart Fail. 2018 Jul;6(7):543-551.)

心不全のフィジカル
 
The Role of the Clinical Examination in Patients With Heart Failure
JACC Heart Fail. 2018 Jul;6(7):543-551.
一部のみ抜粋
 
 
●Volumeの評価
 
心室充満圧に関連する症状や徴候:頸静脈土町,肝頸静脈逆流,起座呼吸,Bendopnea/前屈時呼吸困難症,Valsalva手技に対する血圧の変化などがある。
 
 
□JUGULAR VENOUS DISTENTION.
 
頸静脈怒張は10cmH2O程度で出現する。
1.36 cmH2O =1 mmHg
内頸静脈の評価が困難であれば外頸静脈でもよい。
頸静脈怒張は非代償性心不全でよくみられ,入院などの有害事象や死亡のリスクとも関連しているという報告もある。(すなわりVolume評価だけでなくハイリスク患者の特定にも使える)
 
□JVP評価のコツ(Table1)
1.正座の姿勢から始める
2.静脈の構造物ではなく波形/脈動を探す。頸部に光をあてるとわかりやすくなるかも
3.患者さんがベッドにいるときは枕が高いと首を屈曲させて頸静脈をみえにくくするので,枕は1つ程度がよい。顎を少し上に傾けると見やすくなる。
4.右,左どちらかでよく見えることがあるので両側で探す。たまに前頸部で見やすい人もいる
5.内頸静脈の評価が困難であれば外頸静脈でもよい。
6.色々な角度で観察すること(JVPが高いと仰臥位ではわかりにくい)
7.頸動脈波動なのか頸静脈波動なのか区別するには1-2インチ下を指で圧迫すればよい(脈動がきえたら静脈,持続すれば動脈)
8.呼吸性変動(Kussmaul徴候:吸気時にJVPが増加し,吸気時に減少する)や姿勢による変化が静脈性か動脈性の変化に区別に有用
9.患者が仰臥位の時にJVPが上昇していないようであれば、腹部を圧迫して肝頸静脈逆流が存在するかどうかを判断します。多くの患者は腹圧をかけるとJVPが一過性に上昇し,その後戻る。肝頸静脈逆流は10秒以上の持続的な上昇はないと陽性にならない。
 
□HEPATOJUGULAR REFLUX.
 
肝頸静脈逆流は腹部を10秒持続して圧迫したときに3cm以上のJVP上昇があり,腹部の圧迫を解除するとJVP上昇がなくなる徴候。肝頸静脈逆流は右室収縮機能障害がなければPCWP>15mmHgを予測する。
肝頸静脈逆流はPCWPの予測だけでなく心不全患者の予後悪化との関連も示唆されている。
 
□ORTHOPNEA/起座呼吸(省略)
□Valsalva手技に対する反応(省略)
 
□Bendopnea/前屈時呼吸困難症
 
進行した心不全の患者で前屈時の姿勢を維持すると呼吸困難を訴える。Bendopneaの評価は椅子に座りながら前屈姿勢で手で足を触り,患者に息を止めないように指示しながら10s毎に呼吸困難をたずね30s以内に呼吸困難があるときに陽性と判断する。
 
心不全患者の18-49%で存在し,予後予測にも使える可能性が示唆されている。
 
アレルギー性気管支肺アスペルギルスや他の肺疾患や病的な肥満患者でも報告があるが,これらはBendopneaの重要性を低下させるものではない。
 
 
●灌流
 
PCWP上昇のための診察所見はあるが,CI低下に対する信頼性の高い所見は少ない。脈圧の低下,四肢の冷感,Bendopneaなどがある。
 
低い脈圧(SBP-DBP)やproportional pulse pressure:PPP(=(SBP-DBP)/SBP))は低CIのマーカーである。PPP25%未満は低CIの予測になったが,頻度が低く,CI 2.2L/min/m2と有意に関連していなかった。四肢冷感は低CIに対してOR 2.97だったが感度は20%と低く,患者の体温や検者の体温が影響する。
Volumeの評価は身体所見である程度の信頼性で評価できるが,CIの評価は困難である。四肢があったかくても,うっ血に対して利尿剤の反応が悪い時などは身体診察の限界を認識することが重要。