ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC】アルコール使用障害患者,退院時のビタミン処方に関して(J Hosp Med. 2021 Dec;16(12):751-753)

いよいよ今日から『岸辺露伴は動かない』3夜連続で放送開始ィィイ! 

初日は“ザ・ラン”っ!!

 

JCは今月のJHMのTWNDRより

・退院処方に何も考えずにビタミン剤入れないでね
・そもそもアルコール使用障害の評価と治療を検討しようね
・食事に関する不安があれば適切なリソースを

・ビタミン剤処方はリスクと患者の希望に応じて判断を

あまりデメリットなさそうと思って思考停止で処方していました。。。
このへんもしっかり学びなおし大事ですね😊


Things We Do for No Reason™: Prescribing Thiamine, Folate and Multivitamins on Discharge for Patients With Alcohol Use Disorder
J Hosp Med. 2021 Dec;16(12):751-753

※TWNDRは明確な結論や臨床実践の基準を示すものではありません。興味ある人は是非論文や関連文献を読んでみてください😊

WHY YOU MIGHT THINK IT IS HELPFUL TO PRESCRIBE VITAMIN SUPPLEMENTATION TO PATIENTS WITH AUD AT HOSPITAL DISCHARGE

アルコール使用障害(alcohol use disorder : AUD)はビタミン欠乏症のリスクがあるため入院患者はチアミン,葉酸,マルチビタミンなどの補充をうけている。そして退院時にもこれらの投薬継続をすることが多い。

欠乏症を見逃した場合の影響を考慮して、アルコール離脱の管理には一般的にビタミン補充のオーダーが組み込まれている(J Subst Abuse Treat. 2019;99:117-123)

水溶性ビタミンは腎臓から排出されるため患者へのリスクはほとんどなく、コストも低い


WHY ROUTINELY PRESCRIBING VITAMIN SUPPLEMENTATION AT HOSPITAL DISCHARGE IN PATIENTS WITH AUD IS A TWDFNR

Hospitalistは退院時にビタミン補充を継続することが多い。しかし、アルコール使用障害患者にビタミン剤を処方することは臨床的に有意な改善につながるというエビデンスはなく、患者は害を被る可能性がある。

ガイドラインではAUD患者へのビタミン補給についての合意は得られていない。
(Curr Opin Clin Nutr Metab Care. 2020;23(2):138-144.Hepatology. 2010;51(1):307-328.)

チアミン欠乏や葉酸欠乏を確認するための信頼性の高い検査はなく臨床判断となる。
葉酸濃度の検査は不正確である(J Hosp Med. 2015;10(11):753-755)
BMIのほうがビタミン血中濃度よりアルコール関連の認知症を正確に予測する(Alcohol Alcohol. 2018;53(1):64-70.)

経口ビタミンB1はバイオアベイラビリティが低い
Wernicke脳症を予防するためにはチアミンがBBBを通過する必要があるがそのための投与量,投与回数,投与期間は不明である(Cochrane Database Syst Rev. 2013;2013(7):CD004033)
高用量のチアミン静注でWernicke脳症の治療や予防はできるが低用量の経口チアミンはアルコール使用障害患者に有益ではないかもしれない(Crit Care Med. 2016;44(8):1545-1552.)

葉酸補充や最適料のエビデンスも乏しい
米国では1998年に穀物製品に葉酸を添加することが義務化されていらい血清葉酸が低い人はほとんどいなくなった
アルコール使用障害の患者は葉酸濃度は低めだが臨床的に重要な差ではないといわれている(Mol Nutr Food Res. 2013;57(4):596-606.)


アルコール使用障害患者におけるマルチビタミンの臨床的なアウトカムに関するエビデンスは不足している(Int J Equity Health. 2018;17(1):8.)

重要なことはエビデンスが不明確な診療で退院時に複数のビタミン剤を処方することは,ポリファーマシーによる弊害や不必要なコストをもたらす可能性があることである

アルコールの使用は服薬アドヒアランスの低下と関連している(Ann Intern Med. 2008;149(11):795-803.)

くわえて退院時の薬の数が多いと再入院のリスクが高いという結果もある。これは薬のリスクよりも薬の数やレジメンの服札座に寄る可能性がある(BMC Health Serv Res. 2015;15:282.)

WHEN TO CONSIDER VITAMIN SUPPLEMENTATION AT DISCHARGE FOR PATIENTS WITH AUD


進行中のビタミン欠乏リスクがある場合,患者のリスクベネフィットプロセスをへてビタミン補充に関して患者さんと議論するべきである

ビタミン剤を処方する場合は飲酒量を減らし,健康的な食事の摂取量を増やし,患者の栄養状態を改善する努力も同時に行う。
食事にアクセスするための情報提供による飲酒による害をへらすこともできる。

アルコールの大量摂取によってビタミンが欠乏するリスクがあることを患者さんに話す

ビタミン欠乏のリスクが低いアルコール使用障害の患者さん(軽度のアルコール使用障害で健康的な食生活を送っている)に対しては、患者さんが補充を希望する場合はチアミンをふくむビタミン剤を単独で摂取するのが最も効果的である

アルコール摂取量が多く,栄養不良のリスクがある患者の場合はマルチビタミン葉酸チアミンを追加した多量のビタミン剤により恩恵を受けるかもしれない。しかし最適な投与量やレジメンは不明である。

アルコール使用障害患者におけるビタミン欠乏のリスク
・「お茶とトースト」など限られた食事しかしていない
・食生活の乱れ
・体重減少,筋肉量の減少,悪液質などがある栄養失調
・確認されたビタミンの欠乏
・胃炎,慢性膵炎,胃バイパス術後などの消化器系疾患


WHAT WE SHOULD DO INSTEAD

残念ながら、アルコール使用障害患者のうち薬物療法を受けているのは3%以下(JAMA Psychiatry. 2021;78(8):922–4.)
アルコール使用障害の患者を評価し、動機付け面接を行い、関心期の患者さんにはアルコール使用障害の治療を提供する。

リスクがある患者には入院中に経験的にチアミンの静脈注射を行う

退院時は反射的にビタミン剤を処方するのではなく、リスクとベネフィットの評価を行う。退院時のビタミン処方には患者の希望を聞く。リスクがなく補充を希望するアルコール使用障害の患者さんにはチアミンを含むビタミン剤を一種類処方する。

アルコール関連の害を彫らすために飲酒時に食事を一緒にするようにアドバイスする(Lancet Psychiatry. 2021;8(4):287-300.)
食事の供給に不安がある患者には栄養相談やSWへのコンサルトを通して食事の改善を行う

RECOMMENDATIONS
エビデンスに基づくのアルコール使用障害の治療を提供する。
・食事に関する不安がある患者に適切なリソースを提供する。
・入院時にマルチビタミン,葉酸,チアミンの大量静注を開始しても退院時には中止する
・リスクと患者の希望に応じてビタミン補充を検討する。特に複数の薬剤をもともと内服している場合はポリファーマシーのリスクのバランスをとる。