ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【備忘録】Renal or Muscle? CKD+サルコペニアの高齢者の蛋白/栄養は?

【備忘録】Renal or Muscle? CKD+サルコペニア の高齢者の蛋白/栄養は?

 

獨協で毎月行わせていただいている老年内科/高齢者医療のときに栄養や蛋白の目標量に関して質問をいただいた質問をきっかけに調べなおしてみました😊

 

前からちょっと興味があることでもあったので備忘録的な感じでまとめてみました。間違っている部分/修正したほうがいい部分や補足のコメントなどいただけるとありがたいのでよろしくお願いいたします。

 

 

日本の 2018 CKDガイドライン

✓CKDステージ別のたんぱく質摂取量の基準(ステージ G3a:0.8~1.0 g/kg標準体重/日,G3b以降:0.6~ 0.8 g/kg標準体重/日)
✓これらのエビデンスの多くは,腎臓専門医ならびに管理栄養士の指導の下に,指導内容の遵 守率が良い状態での結果,もしくは適格基準が厳しいデザインで有効性が示されたものであり,CKD診 療一般にそのまま当てはめることは難しい可能性が ある.  
✓以前から高齢者では,たんぱく質摂取制限 に伴う低栄養の懸念から,一定のたんぱく質摂取を 確保すべきとの見解がある。たんぱく質摂取制限によってCVD発症,感染症,サルコペニア,フレイルを 増減させたことを直接示した研究はなかったが,高齢者を中心に過度なたんぱく質摂取制限はQOLや 生命予後悪化につながる可能性もあり,その実施に おいては腎臓専門医と管理栄養士を含む医療チーム の管理の下で行われることが望ましいと考えられる.

 

□一般的なコンセンサス

CKD患者(G3a):タンパク制限 0.8-1.0g/dまで
CKD患者(G3b以降):タンパク制限 0.6-0.8g/dまで
サルコペニア :1g-1.5g/kg/d以上


サルコペニア+CKDの患者は腎臓をとるか筋肉をとるか!?
という答えのない(?)CQに関しての備忘録です

 


□蛋白制限はエビデンスあり

・CKDガイドライン(前述)
・KDIGOや一部文献で出るケト酸アナログは日本では利用不可
・緩やかなものだが低タンパクの効果はある(Cochrane Database Syst Rev 2009:CD001892.)
・近年のメタアナリシスで低タンパク食はPEW(後述)やカヘキシアのリスクをおさつつCKDの進行や透析の開始を遅らせる(J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2018 Apr;9(2):235-245.)

ということで前提としてはCKDガイドラインに従うべし、ということになる


□PEWという概念:CKDに伴う低栄養でおこる現象:protein-energy wasting (PEW)で臨床的基準

 

✓採血項目
Alb 3.8g/dL未満
トランスチレチン/プレアルブミン 30mg/dL未満(透析患者)
✓体重
BMI<23
3ヶ月で5%,6月で10%以上の体重減少
全脂肪率10%未満
✓筋肉量喪失
3ヵ月間で5%、6ヵ月間で10%の筋肉量の減少
中腕筋周囲長が50パーセンタイルと比較して10%減少
血清クレアチニンが期待値より低い
✓食事摂取の不足
透析患者でタンパク摂取が0.8g/kg/d未満が2ヶ月以上
カロリーが25kcal/kg/d未満が2ヶ月以上


・4カテゴリーのうち3つ以上該当でPEWと診断
・日本人ではBMI<20がよいのではという話も(J Ren Nutr. 2017;27:201-206)
・このPEWを放置しておくと全身のタンパク質とエネルギーの貯蔵量が同時に失われ,カヘキシアがどんどん進行してしまう


A Practical Approach to Nutrition, Protein-Energy Wasting, Sarcopenia, and Cachexia in Patients with Chronic Kidney Disease
Blood Purif. 2020;49(1-2):202-211.

・高タンパクによるCKD進行リスクと低タンパクと十分なエネルギーの組み合わせでPEWの発症を防げる
・腎保護効果があるという先行研究から考えるとCKD stage3b-4の患者ではタンパク質の摂取量を0.6-0.8g/kg/day、カロリー摂取量を30-35kcal/kg/dayが推奨される
・ただし高齢者における低タンパクの腎保護効果は顕著ではない

 

ということなので,CKDのステージに準じて蛋白は抑えつつも「カロリー摂取量を30-35kcal/kg/day」というのがPEW予防もふまえた現状の推奨になります

また,栄養士の介入が前提ですが低タンパク食自体はCKD患者の栄養状態や筋肉量に影響を与えない(Int J Med Sci. 2017 Jul 18;14(8):735-740)という報告もあるので栄養指導をしっかりはさむ、というのも大事なのかもしれません


しかし、ここでおわらず別の議論に...


□タンパクの「質」に関する研究が!?

・動物性蛋白の食事は尿中アルブミン排泄量が多めで,全粒粉/果物/低脂肪乳製品を多く含む食事パターンは尿中アルブミン排泄量が少なかった(Am J Clin Nutr. 2008 Jun;87(6):1825-36.)
・動物性タンパク質 vs 植物性タンパク質で植物性タンパク質のほうがCKDの進行を遅らせる(J Am Soc Nephrol. 2016 Jul;27(7):2164-76. Epub 2016 Jan 28.)
・動物性タンパク質 vs 植物性タンパク質は研究によって結果が異なるが...植物性タンパクのほうがサルコペニア発症リスクを低下させる(Nutrients. 2020 Nov 24;12(12):3601.)
・植物ベースの蛋白のほうが腎臓に良いかも?(J Nephrol. 2020 Oct;33(5):1091-1101.)
・タンパク質、特に植物性タンパク質は、CKDの成人患者において炎症を抑える可能性がある(Nutrients. 2021 May 14;13(5):1660)

 

□Red Meat Intake and Risk of ESRD(J Am Soc Nephrol. 2017 Jan;28(1):304-312)

・前向きコホート研究
・赤身肉の摂取は,用量依存的にESRDリスクと強く関連
・鶏肉,魚,卵,乳製品の摂取はESRDのリスクと関連しなかった
・赤身肉を他のタンパク源に置き換えると最大62%のリスク減少し,ESRDの発生をへらすかもしれない

 

□Impact of Dietary Potassium Restrictions in CKD on Clinical Outcomes: Benefits of a Plant-Based Diet(Kidney Med. 2020 Jun 15;2(4):476-487)

「Potential Benefits of a Plant-Based Diet」の「CKD Incidence or Progression

・健康的な植物性食品(果物,野菜,全粒粉,ナッツ,豆類)の摂取はCKD発症リスクの低下と関連
・動物性タンパク質の摂取量が多いと急速な腎機能低下のリスクが高まる
・腎機能が正常な人を対象とした食事研究のメタアナリシスでは健康的な食事パターン(すなわち,果物,野菜,全粒穀物,豆類,ナッツ,魚が豊富でナトリウム,砂糖入り飲料,赤肉,加工肉が少ない)はCKDおよびアルブミン尿の発生確率の低下と関連していることが明らかになっている
・腎代替療法を行っていないCKD患者においてもバランスのとれた植物由来の食事はCKDの進行を遅らせる可能性がある

 

ということで何を食べるか、が今後鍵になってるかもしれません

 

現状のコンセンサスは

 

タンパク質の質に関しては、タンパク源によってCKD進行のリスクに異なる影響を与えるかどうかについてのコンセンサスは得られていない(Am J Kidney Dis. 2020 Sep; 76(3 Suppl 1):S1-S107)

 

なので今後に期待というところでしょうか

 


ということでざっと調べた範囲としては...

「CKD」+「サルコペニア 」というカテゴリーの中でのエビデンスはまだ少ないが...現状としては

 

・CKDの進行をとめるためにステージに合わせたタンパク制限を行う(透析導入になった場合はまた別)
・カヘキシアやPEWの発症を抑えるためにしっかりカロリー確保を行う(30-35kcal/kg/d),「低タンパク」ではなく「高エネルギー・低タンパク」
・タンパクの質に関しての話もあるが現状はまだ未確定,今後に期待
エビデンスが不明確な部分や何を重視するかにもよるとおもうのでCKDガイドラインに記載があるように症例に応じたチームでのShared decision makingが望ましい

 

ということになりそうです。