ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

上半規管裂隙症候群

末梢性めまいの鑑別の1つとしての「上半規管裂隙症候群」

Tulio現象(眼振やめまいが音で誘発される)が陽性の人の慢性めまいの人を診る機会があったので振り返り/知識再確認に


■ SUPERIOR CANAL DESHISCENCE SYNDROME/SCDS/J Clin Neurosci 2018; 48:58–65

 

上半規管裂隙症候群/SCDSはまれに上半規管を覆う骨が失われることにより、内耳に「可動可能な第3の窓」ができる
→咳,くしゃみ,などによりめまいや耳鳴りが起こる

 

SCDSの症状

 

■SCDSの聴覚症状
自声強聴/自分の声や呼吸音が異常に大きく聞こえる症状
骨伝導による聴覚過敏
拍動性耳鳴り
低音性難聴

 

■SCDSの前庭症状(圧刺激や大きな音で誘発されやすい)
Tulio現象
Hennebert’s sign/鼓膜正常で外側半規管骨迷路に瘻孔がないのに瘻孔症状をきたす
動揺視
めまい
慢性的な平衡障害

 

SCDSに対してVEMP(Vestibular Evoked Myogenic Potential 前庭誘発筋電図)は有用,高い感度と特異度を誇る
高解像度のCT側頭部スキャンは,片側または両側のSCDSを確認するための第二のゴールドスタンダードと考えられている

 

前庭てんかん

続:持続1分以内のめまいの鑑別シリーズ
特に数秒間だけ持続するめまいの鑑別に上がる「前庭てんかん」...ちょっと調べてみました。

Epilepsy and the cortical vestibular system: tales of dizziness and recent concepts
Front Integr Neurosci. 2013 Nov 11;7:73.

てんかんに前庭症状が伴うことはよく知られている
・前庭症状のみのてんかんはまれ,そして診断困難。診断まで4年という報告も。
・症状は数秒と短い時間のことが多いが,何分も続く場合がある
・症状は突然始まって突然終了することが多い(純粋な前庭てんかんの場合はこの病歴は鑑別に有用)

・比較的若年の発症が多い
てんかんの家族歴は20-29%
・前庭てんかんは抗てんかん薬への反応がよい

Clinical and electrographic findings in epileptic vertigo and dizziness: a systematic review
Neurology. 2015 Apr 14;84(15):1595-604.

EVD/epileptic vertigo or dizzinessのシステマティックレビュー
1,055名のEVD患者のうち、non isolated EVDが8.5%、isolated EVDが0.8%であった。
除外のために徹底的な検索が行われたのは0.1%未満
脳波異常は側頭部が79.8%,頭頂部は11.8%
前庭症状の持続時間は様々であったが,孤立性EVDの69.6%と非孤立性EVDの6.9%では30秒以下の非常に短い時間であった。


ということで存在はしそうですが...頻度はまれなので...検査前確率(ほかがどれくらい除外されているか)と病歴勝負になるのでしょうか。。
 

稀な末梢性めまいとしての前庭発作症

持続時間1分未満のめまいの鑑別を考えるか?というディスカッションで非常勤先で一緒に内科外来しているスーパー後期研修医の先生に教えていただきました😊

三叉神経痛のⅧ Versionみたいなイメージがわかりやすいかもしれません。

 

●前庭発作症 Vestibular paroxysmia

・数秒〜数分の短時間のめまい発作を反復する疾患の1つ
・発作は頭位変換や過呼吸によって誘発されることが多い
・内耳症状はあってもなくてもよい
・中枢性前庭障害,眼球運動障害,脳幹徴候を認めない。
・AICA由来の脳神経Ⅷに対する神経血管圧迫症候群でMRi/MRAで95%以上の症例で第8神経の神経血管の圧迫が確認される
カルバマゼピンが治療薬の1つ


■前庭性発作症(Vestibular paroxysmia:VP)の診断基準(J Vestib Res 2016;26:409-15)

1.前庭性発作症(vestibular paroxysmia)
A-Eの基準全てを満たす
A:少なくとも10回の自発性の回転性あるいは非 回転性のめまい発作を認める
B:めまい発作の持続時間は1分以内である
C:めまい発作に伴う特徴的な脳神経症状が存在 する
D:カルバマゼピン,オクスカルバゼピンが奏功 する
E:他の疾患ではうまく説明できない。


2.前庭性発作症疑い(probable vestibular paroxysmia)
A-Eの基準全てを満たす
A:少なくとも5回の回転性あるいは非回転性の めまい発作を認める
B:めまい発作の持続時間は5分以内である
C:めまいは自発的ないし特定の頭部運動 により生じる
D:めまい発作に伴う特徴的な脳神経症状が存在 する
E:他の疾患ではうまく説明できない。


●前庭性発作症に関して(J Neurol. 2016 Apr;263 Suppl 1:S90-6.)

・主な症状は回転性または非回転性の短時間のめまい発作(典型的には1分以内で,1日に30回以上連続して起こる)
・発作は頭位変換や過呼吸によって誘発されることが多い
・内耳症状を伴うこともある
・中枢性前庭障害,眼球運動障害,脳幹徴候を認めない。
・めまいセンターの外来患者のうち3.7%という報告も

・昔は“disabling positional vertigo”という病名であった
・小脳橋角部のAICAによるⅢの圧迫で生じる
MRI/MRAで95%以上の症例で第8神経の神経血管の圧迫が確認される
カルバマゼピン(200-600mg/d)やオカルバゼピン(300-900mg/d)に反応する事が多い


●前庭性発作症の鑑別診断/(J Neurol. 2016 Apr;263 Suppl 1:S90-6.)

脳幹のてんかん
上斜筋ミオキミア(単眼の垂直回転性の動揺視)
前庭性片頭痛
BPPV
機能性めまい
回転性椎骨動脈閉塞症候群/Rotational vertebral artery occlusion syndrome
上半規管裂隙症候群
中枢性の頭位眼振
起立調節障害
前庭てんかん,てんかんの前兆

 

備忘録:食後低血圧に関して

 

食後低血圧 Postprandial hypotension に関して


■病態や疫学など

・食後低血圧の病態は十分にはわかっていない。脾臓の血液貯留に対する交感神経の補正の不十分,圧反射低下,食後の心拍出増加不十分,末梢血管収縮,インスリンによる血管拡張,消化管ペプチドによる血管拡張...いろいろ考えられている(J Frailty Aging. 2018;7(1):28-33.)
・食後低血圧は失神,転倒,心血管疾患,脳卒中などとの関連が示唆されている(Am J Med. 2010 Mar;123(3):281.e1-6.J Frailty Aging. 2018;7(1):28-33.)
・死亡の独立した危険因子の指摘もある(J Frailty Aging. 2018;7(1):28-33.)


・施設に入所している高齢者では24〜36%(J Am Geriatr Soc 1994;42:930–2,Ann Intern Med 1991;115:865–70)
・入院中の高齢者では67%(J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2005;60:1271-7)


■食後低血圧のリスク(Am J Med. 2010 Mar;123(3):281.e1-6.Clin Auton Res. 2017;27(4):263. Epub 2017 Jun 24.)

薬:利尿剤,ポリファーマシー
食事:炭水化物豊富,朝食,温かい食事
併存疾患:糖尿病,自律神経障害,パーキンソン病,高血圧,慢性腎不全,アルツハイマー認知症

薬の中では特に利尿剤がリスクという報告もある
ステマティックレビュー&メタアナでは神経疾患患者は健常対照者に比べて食後高血圧の頻度が有意に高いことが明い(OR 5.23)。パーキンソン病(OR 3.49) MSA(OR 89.55) アルツハイマー認知症(OR 6.61) 糖尿病性神経障害(OR 4.83)(Clin Auton Res. 2017;27(4):263. Epub 2017 Jun 24.)


■食後低血圧の診断

・食後の血圧の最大の低下は食後30分から1時間以内におこる
・食後2時間以内に収縮期血圧が20mmHg以上低下ないし90-100mmHgに低下した場合に定義されている。標準的なPPH診断法は、食前に1回、食後120分間は15分ごとに1回、計9回の測定を行います(Ann Intern Med. 1995;122:286-95)

※シンプルな方法として食前のBP測定値と食後75分後のBP測定値との間でSBPが少なくとも10mmHg減少する、で感度82%特異度91%という研究もある(J Frailty Aging. 2018;7(1):28-33.)


■食後低血圧の治療

・試されているのは下記(Am J Med. 2010 Mar;123(3):281.e1-6)

カフェインは60-200mg
α-GI/アカルボース 100mg
グアーガム 4mg
オクトレオチド 50μg

・いくつかの薬剤が食後低血圧の患者の血圧を改善することが示されているが、症状に対する効果は十分に評価されていない。症状がある人対象でアカルボースで改善あり,カフェインで改善なしの報告もある(J Am Geriatr Soc. 2014 Apr;62(4):649-61. Epub 2014 Mar 17)


●失神や転倒の原因で食後低血圧を診た場合

・可能な範囲で診断を詰める(食前と食後75分の血圧測定が効率がよいかも)
・食事に関してのアドバイスをする(大食い避ける,飲酒避ける,炭水化物割合減らす,食事と一緒に水を飲む)
・介入可能なリスクがあれば介入を(利尿剤やポリファーマシー)

【JC】プライマリ・ケアでの転倒介入/Negative study(Health Technol Assess. 2021 May;25(34):1-114)

ガチっぽいデザイン+大規模研究での転倒介入Negative studyなので個人的には残念でした。論文の量に悶絶しつつ流し読み(Discussion部分が個人的には最高でした).コストに関して一旦カットしてます。


Negative Studyではありますが...

Fall prevention interventions in primary care to reduce fractures and falls in people aged 70 years and over: the PreFIT three-arm cluster RCT
Health Technol Assess. 2021 May;25(34):1-114

目的: 転倒予防のための代替的な介入の臨床効果と費用対効果を調査
デザイン:経済分析を併用した3群間実用的クラスター無作為化対照試験。無作為化の単位は「診療所」
設定:プライマリ・ケア
患者:70歳以上
介入:
①すべての参加者にアドバイスリーフレットを郵送
②積極的介入群(運動)
③積極的介入(多因子転倒予防)
積極的介入に割り振られたクリニックは質問表を用いて参加者の転倒リスクをスクリーニングし,転倒リスクの高い参加者には積極的な治療が行われた。
主要アウトカム:病院の記録,クリニックの記録,自己申告での18mの骨折率。副次的アウトカムは転倒率,健康関連QOL,死亡率,フレイル,医療サービス資源利用。

結果:2011-2014年,63のCL,9803人が無作為に分けられた。
21のCL(3223人)が助言のみ
21のCL(3279人)が運動
21のCL(3301人)が多因子介入

積極的介入群では,6580人中5779人(87.8%)の参加者が郵便による転倒リスクスクリーナーに回答し,そのうち2153人(37.3%)が転倒リスクが高く治療介入が行われた。介入を受けた割合は,運動療法群では65%(1079人中697人),多因子による転倒予防群では71%(1074人中762人)であった


骨折は全体で3.9%で3群で有意差はなかった。
転倒は8ヶ月後は運動群で減少した(RR 0.78)が18ヶ月後には有意差はなかった。
死亡は有意差なし。
転倒リスクの高い人のサブグループ比較をITT解析しても介入の効果はなかった。
Limitationは骨折率の低さ
 
結論:プライマリ・ケアにおける転倒予防戦略は骨折を減少させなかった。運動は短期間では転倒の減少をもたらした。
 
ガチっぽいデザイン+かなりの人数でのNegative studyなので個人的には残念でした。Discussion内容が(一部理解できないのですが)非常に読み応え抜群でした。というか消化しきれませんでした。。
 
Fallは個人的には取り組みたい高齢者プロブレムの1つなので...日々updateですね。

【JC】多汗症の鑑別は?

J Am Acad Dermatol. 2019 Sep;81(3):657-666.
多汗症の鑑別は?ということで調べてみました

 

●個人的ポイント


アメリカのアンケート研究では4.8%に多汗症があると考えられる
医療者に話すのは4割程度なので診断されていない人が多い,QoLが低下し,抑うつや不安の頻度が増える

多汗症のうち93%は原発多汗症,ただし二次性の除外が必要なので発汗のパターン,発症年齢,誘引,持続時間,頻度,量,分布,寝汗,家族歴,および二次的な原因を示唆する症状の確認が大事
二次性多汗症を疑う所見は全身性,非対称性,片側性,夜間症状,25歳以降の発症,家族歴がないなど


原発多汗症の特徴

正常なエクリン汗腺が神経因性に過活動するのが原因と考えられている。汗腺のサイズ、数、組織学的外観に変化はない。

原発多汗症を診断する前に二次性多汗症を除外する必要があるが,ルーチンでの臨床検査は必要ない

14歳から25歳の間に発症しやすい(どの年齢でも発症しうる)
90%は腋窩,掌,足底,顔面などの好発部位に「両側性・局所性」の分布をきたす
一番多いのは腋窩51%,他に測定30%,掌24%,顔面10%(腋窩+掌 18%,手掌+足底 15%)
思春期の発症だと掌や測定に多い,稀な部位のパターンもとりえる
環境要因,感情要因,身体活動などで誘発される
夜間には通常発症しない
汗の検査は臨床目的ではあまり使われない

□二次性多汗症の鑑別

全身性のことが多いが局所性のこともある
一般的に25歳以降に発症し,家族歴はなく,しばしば夜間発汗を伴う
原発多汗症とは対照的に二次性多汗症は非対称性,片側性,または全身性である。
体重減少,発熱,リンパ節腫脹などの関連症状があれば二次性を疑う
全身性多汗症原発性では稀
二次性多汗症を疑う所見は非対称性,片側性,夜間症状,25歳以降の発症,家族歴がない

●二次性多汗症の鑑別

生理的:暑さ,発熱,妊娠,閉経
悪性腫瘍:リンパ腫,骨髄増殖性疾患
感染症:急性感染,TB,マラリア,ブルセラ,HIV
内分泌/代謝:糖尿病,血糖異常,尿崩症,甲状腺機能亢進症,褐色細胞腫,末端肥大症,下垂体亢進症,カルチノイド症候群
心血管:感染性心内膜炎,うっ血性心不全,心血管ショック
呼吸:呼吸不全
神経:脳卒中,パーキンソン病,精神疾患
薬剤性:抗うつ薬(TCA,抗精神病薬,SSRI,抗不安薬...),抗菌薬(CPFX),抗ウィルス薬(ACV),血糖降下薬,トリプタン,解熱薬,NSAIDs,制吐剤,カテコラミンやコリン作動薬,アルコール,コカイン,ヘロイン

□局所性の場合の鑑別
非対称性の局所の多汗:局所性神経疾患,腫瘍,Frey症候群,汗腺母斑
局所性二次性多汗症:悪性腫瘍,末梢神経障害,脊髄病変,脳卒中

【JC】Convulsive syncope(痙攣性失神?)とは!?

Convulsive syncopeとは!?(正式な和名がわかりませんでした...)

多いのは迷走神経反射に伴ってですが...失神をきたすような脳血流低下状態で痙攣が起きうることを知っておくことは大事です。

 

でないと「迷走神経反射で失神する→倒れる前に誰かが支える→痙攣」というだけのひとを急性症候性発作やてんかん疑いというラベルがはられてしまうリスクがあります。


ERでたまにみかけるはずのConvulsive syncope
復習がてら文献を確認してみました

(機序としては脳血流低下による大脳皮質の抑制系機能が低下/興奮性増強などの機序が考えられているようでこのへんを脳波で評価した研究などもあるのですが...そのへんは割愛させていただきます)

How to Differentiate Syncope from Seizure
Cardiol Clin. 2015 Aug;33(3):377-85

Convulsive syncopeはおそらくコモンな疾患であり,てんかんの評価や不要な治療,診断エラーの原因になっている
Chowdhuryらはてんかんの誤診は4.6%-30%(全体で20%程度)と報告している(Eur J Neurol 2008;15:1034–42.)

失神に伴うConvulsive syncopeの発生率は様々(4-42%)

典型的なConvulsive syncope
・前兆(発汗,前失神,熱感)や顔面蒼白はよくある
・意識の回復はスムーズで嘔気,倦怠感などを伴う
・痙攣様動作は1分以内におわる,ミオクローヌスなどの動きが多いが痙攣の様式は色々
・長時間の痙攣や痙攣頓挫後の混迷はまれ
・眼球所見は正中か上転
・仰臥位での発症はあまりない
・舌咬傷はまれであっても舌先


Differentiating motor phenomena in tilt-induced syncope and convulsive seizures
Neurology 2018;90:e1339-e1346
失神と痙攣発作の運動症状の比較

Jerks/けいれんやtonic postures 姿勢の固定は失神でよくみられる
失神性痙攣のほうが非リズミカルで筋弛緩/Atoniaがみられる
10/20 rule 痙攣の回数が10回未満であれば失神,20回以上であればてんかん


ということで,Convulsive syncopeは異常電気信号ではなくあくまで失神/脳血流低下による痙攣症状などのでベースは失神っぽさがある(意識回復がスムーズなど)のが特徴です

History!History!History!、ということですね😊