ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

サルコペニア AWGSガイドライン(J Am Med Dir Assoc .2020;21:300-307.e2)

サルコペニア AWGSのガイドラインがupdateされていたことを最近しりました

ということで流し読み

より多くの医療者/患者群に適応になりように変化があり、評価にSPPBが組み込まれているのが個人的には好きです

Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment
J Am Med Dir Assoc .2020;21:300-307.e2


AWGS2014では
1.歩行速度 or 握力でスクリーニング
2.筋肉量を評価(BIAかDXA)
の2STEPだったのが色々変更になっています

 

より広い範囲で診療状況に応じたスクリーニングを、という意図を感じます

BIA,DXAに関しては変更なしですが筋力の値もそうですしSPPBやSARC-Fなど色々組み込まれています


①スクリーニング基準の変更

クリニック設定:大腿周囲径(男性34cm未満,女性33cm未満),SARC-F4項目以上,SARC-Calf/下腿周囲長とSARC-Fを組み合わせた指標で11以上,の3つのどれか

病院設定:クリニック設定の指標に加えて意図せぬ体重減少,うつ,認知機能障害,繰り返す転倒,慢性疾患(心不全,COPD,DM,CKD...etc)

②筋力(握力)の値が変更 男性:28kg未満 女性:18kg 未満 へ

③身体機能の指標は歩行速度(6m歩行で1.0m/秒未満),SPPBスコア9以下,5回の椅子立ちテスト12秒以上の3つのうちどれか

サルコペニアの診断関連

Possible Sarcopenia:筋力ないし身体機能低下
(Possibleの段階で運動や生活への介入をする)

Sarcopenia:筋量低下にくわえて筋力低下 or 身体機能低下
Severe Sarcopenia:筋量低下+筋力低下+身体機能低下

 

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【JC】イギリスのプライマリ・ケア領域の診断エラーの測定研究

イギリスのプライマリ・ケア領域の診断エラーの測定研究(BMJ Qual Saf. 2021 Jun 14;bmjqs-2020-012594.)

診断機会の損失は4.3%で発生,37.1%で中等度以上の害をもたらしていた

プロセスでの主な要因は診察,検査の実施と解釈,フォローアップ関連が多く,72%は2つ以上のプロセスでエラーがあった

 

 

Incidence, origins and avoidable harm of missed opportunities in diagnosis: longitudinal patient record review in 21 English general practices
BMJ Qual Saf. 2021 Jun 14;bmjqs-2020-012594.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34127547/

 

 MOD:missed opportunities in diagnosisという概念で多施設後ろ向きランダム抽出で調べられた研究になります

 

2100症例のうち2064症例の解析
記録全体の一致率は79.4%,カッパ係数は0.63
患者さんの平均年齢は49.5歳,平均2.8の慢性疾患,2.8の常用薬
MDOの発生率は4.3%
新規の診断におけるMODの発生率は7.4%
MDOはいろいろな領域にまたがっていたが50%で泌尿器,皮膚/皮下,消化器系だった
MDOで一番大きい要因はEncount(病歴,診察...)で主要因の58%,副要因の10%だった
次が診断テストの実施と解釈(主要因の25%,副要因の10%)
その次が診断情報のフォローアップと追跡に関する問題(主要因の24%,副要因の24%)
MDOのうち72%は2つ以上のプロセスでエラーがあった
MDOのうち37.1%は中等度以上の害をもたらしていた

【JC:降圧剤で転倒するのか②】

■降圧剤で転倒するのか②
 
SPRINT研究以外にも色々調べてみると...研究によって差があり

systematic review and meta-analysisだと有意差なしの結果

「健康な高齢者」なのか「機能障害がある高齢者」なのか,起立性低血圧があるのかないか...このへんはなかなか難しいと思いました
 


Antihypertensive medications and serious fall injuries in a nationally representative sample of older adults
JAMA Intern Med. 2014 Apr;174(4):588-95

傾向スコア調整とマッチングをつかった観察研究
高血圧を持つ70歳以上の4961人のうち,14.1%が薬なし,54.6%が中等度降圧,31.3%が高度降圧
重度の転倒は薬なしと比較して中等度群がHR 1.40 高度群がHR 1.28
転倒既往がある503人だと薬なしと比較して中等度群がHR 2.17 高度群がHR 2.31
降圧薬は重篤な転倒傷害のリスク増加と関連しており、特に転倒傷害の既往がある人ではその傾向が強かった。



Effects of Antihypertensive Class on Falls, Syncope, and Orthostatic Hypotension in Older Adults: The ALLHAT Trial
Hypertension. 2019 Oct;74(4):1033-1040.

ALLHAT trailの解析
高齢者において降圧剤の選択は転倒,失神,OHの長期的なリスクに影響を及ぼさなかった。
ただしアムロジピンは投与開始後1年以内の転倒リスクを増加させた


Association between antihypertensive treatment and adverse events: systematic review and meta-analysis
BMJ. 2021 Feb 10;372:n189.
降圧剤による有害事象をしらべたsystematic review and meta-analysis
15023の論文のうち58のRCT,280638人,追跡中央値3年

転倒に関する7研究では降圧剤との関連を示すエビデンスはなかった(RR 1.05)
AKI(RR 1.18),高K(RR 1.89),低血圧(RR 1.97),失神(RR 1.28)と関連はあった
降圧は全死亡,心血管死亡,脳卒中のリスク低下と関連していた(ACSは関連なし)

【JC:降圧剤で転倒するのか①】

JC:降圧剤で転倒するのか①

降圧の歴史を変えたSPRINTstudyの関連文献で高齢者の降圧で転倒を増えるか調べてみました

SPRINTstudyに組み込まれるような(高リスクの)健康な高齢者では降圧による転倒リスクで有意差は出ない、という結果

 (関連文献の多さにも驚きました)

 

Intensive vs Standard Blood Pressure Control and Cardiovascular Disease Outcomes in Adults Aged ≥75 Years: A Randomized Clinical Trial
JAMA. 2016 Jun 28;315(24):2673-82.

SPRINTに参加した75歳以上の患者を対象とした多施設共同無作為化臨床試験
120mmHg未満の降圧と140mmHg未満の降圧の比較でOutcomeは複合(急性冠症候群,脳卒中,心不全,心血管イベントによる死)
フォローアップは平均3.14年で複合転機は34%減少,全死亡も33%減少
重篤な有害事象の全体的な発生率は有意差なし
(低血圧,失神,電解質異常,AKI,転倒は多い傾向にあったが有意差なし)


Impact of Intensive Blood Pressure Therapy on Concern about Falling: Longitudinal Results from the Systolic Blood Pressure Intervention Trial (SPRINT)
J Am Geriatr Soc. 2020 Mar;68(3):614-618.

SPRINT参加者の転倒に関しての解析
→120mmHg目標と140mmHg目標で転倒に有意差はなかった
→75歳以上の参加者では,転倒に関する自己効力スコアの平均値が1年ごとに0.3ポイント増加する傾向があった(治療群の比較では有意差なし)


Hypertension Treatment and Concern About Falling: Baseline Data from the Systolic Blood Pressure Intervention Trial
J Am Geriatr Soc. 2016 Nov;64(11):2302-2306.

SPRINT参加者の解析
治療,薬剤,転倒への懸念と転倒に関連性はなかった


Intensive vs Standard Blood Pressure Control in Adults 80 Years or Older: A Secondary Analysis of the Systolic Blood Pressure Intervention Trial
J Am Geriatr Soc. 2020 Mar;68(3):496-504.

SPRINT参加者の80歳以上の解析
120mmHg目標の降圧は140mmHg目標の降圧と比較して心血管イベント34%,全死亡33%,MCIが30%有意に減少した
認知機能(MoCA)が高いほど心血管イベントや死亡の複合イベントに対するメリットがあり,MoCAが低い人では有意差は出なかった
転倒は有意差なし

Clinical Frailty Scaleに関して


■Clinical Frailty Scaleに関して

・定義がわかりやすい
・臨床応用しやすい
と非常に使いやすいCFS

そして,CFSは様々な臨床転機と相関しているという報告(BMC Geriatr. 2020 Oct 7;20(1):393)もあります。高齢者医療に興味がある!!ってひとはCFSを意識してみると,よりおもしろいかもしれません😃


図と定義は以下のような感じです

 

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1.壮健(very fit):頑強で活動的であり,精力的で意欲的。一般に定期的に運動し,同世代の中では最も健康状態が良い
2.健常(well):疾患の活動的な症状は有していないが1に比べれば頑強ではない。運動の習慣を有している場合もあり,機会があればかなり活発に運動する場合も少なくない
3.健康管理しつつ元気な状態を維持(manageing well):医学的な問題はよく管理されているが,運動は習慣的なウォーキング程度で,それ以上の運動はあまりしない
4.脆弱(vulnerable):日常生活においては支援を要しないが,症状によって活動が制限されることがある。「動作が遅くなった」とか「日中に疲れやすい」などと訴えることが多い
5.軽度のフレイル(mildly frail):より明らかに動作が緩慢になり,IADLのうち難易度の高い動作(金銭管理,交通機関の利用,負担の重い家事,服薬管理)に支援を要する。典型的には次第に買い物,単独での外出,食事の準備や家事に支援を要するようになる
6.中等度のフレイル(moderately frail):屋外での活動全般および家事において支援を要する。階段の昇降が困難になり,入浴に介助を要する。行為に関して見守り程度の支援を要する場合もある。
7.重度のフレイル(severely frail):身体面であれ認知面であれ,生活面において介助を要する。しかし,身体状態は安定していて,半年以内の死亡リスクは高くない
8.非情に重度のフレイル(very severely frail):全介助であり,死期が近づいている。典型的には,軽度の疾患でも回復しない
9.疾患の終末期(terminally ill):死期が近づいている。生命予後は半年未満だが、それ以外では明らかにフレイルとはいえない。

https://www.dal.ca/sites/gmr/our-tools/clinical-frailty-scale.html
ここに色々のってます

CFSの妥当性は?というのを調べた今流行(?)のScoping reviewより

A scoping review of the Clinical Frailty Scale
BMC Geriatr. 2020 Oct 7;20(1):393

1688件のうち183件をInclusion

62%の研究が2015年以降の実施
63%の研究が入院患者でCFSを測定していた
 
CFSと臨床転機との関連は
併存疾患 73%
合併症 100%
入院期間 75%
転倒 71%
認知機能 94%
機能 91%
 
ほかのフレイルスコアとの相関も94%
 
ということでCFSは様々な臨床転機と相関しているという結果でした。心肺蘇生の予後予測...etc色々使われていますね😊
CFSは便利なので高齢者評価の一助にぜひぜひ

【JC】フレイル患者における降圧(Circ Res. 2019 Mar 29;124(7):1045-1060.)

フレイル患者における降圧はどうするか
Circ Res. 2019 Mar 29;124(7):1045-1060.

レビューからの抜粋

・健康な高齢者を対象とした臨床研究では80歳以上でも降圧のメリットが示されている
・しかし、超高齢者では機能的不均一性が非常に大きいため、一律の治療戦略は適用できない。
・老年医学では、高齢者の機能/フレイルティ/自律性の状態を考慮することが提案されている

CGAは非老年医には時間がかかるので...Clinical Frail Scaleを使用するのが良いのでは!?という意見も

CRSが1-3:機能保持
→成人と同じアプローチをする,SBP 120-140mmHgが目標
→単剤から開始し,身長の調整する
→起立性低血圧は常にチェックする
CRSが4-5:機能障害/ADL保持
→心血管疾患予防のRisk/Benefiの評価や降圧剤に耐えられるかふくめ機能やフレイルの詳細な評価を行う
→中等度の機能障害であればCRS1-3群に準ずる
→明確な機能障害があればCRS6-9群に準ずる
CRSが6-9:ADL障害
→降圧剤の調整を行う
→降圧をするのであれば単剤で低容量/ゆっくり調整,SBPの目標は150mmHg,3剤以上の投薬は避ける
→治療中にSBP<130mmHgや起立性低血圧がおきるのであれば降圧剤の中止や他の要因検索を行う

 

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高齢者にエビデンスを適応するべきか?のAGSの提言と似たような感じのフロー
J Am Geriatr Soc. 2019 Apr;67(4):665-673

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Clinical frailty scaleに関してはまた別記事で!!

【JC】高齢者の血圧管理に関して(終末期の変化,降圧剤中止後の変化)

高齢者の血圧管理に関して

1.血圧は死亡14-18年前にピークを迎え徐々に減る(JAMA Intern Med. 2018 Jan 1;178(1):93-99.)

2.2剤以上併用の高齢者で降圧剤中止してもあまり変化はない(JAMA. 2020 May 26;323(20):2039-2051.)

 

Blood Pressure Trajectories in the 20 Years Before Death
JAMA Intern Med. 2018 Jan 1;178(1):93-99.

死亡前の血圧のデーターを後ろ向きに解析した研究
血圧は死亡の14-18年前にピークをむかえ徐々に減る

ピークからの変化は
60台で死ぬ人は-8.5mmHg
70台で死ぬ人は-13.8mmHg
80台で死ぬ人は-19.1mmHg
90台で死ぬ人は-22.0mmHg
64%以上の人が10mmHg以上の低下があった


高血圧,認知症,心不全,体重減少のある人でそのスピードははやい
体重が20kg以上減少した人ではより低下する傾向があった -24.87 vs -15.91
血圧の低下は、死の10年前から3年前までは直線的であったが、人生の最後の2年間で急に低下した。
死の10~3年前からのSBPの低下
高血圧 -1.58/年,認知症 -1.81/年,心不全 -1.66/年

Effect of Antihypertensive Medication Reduction vs Usual Care on Short-term Blood Pressure Control in Patients With Hypertension Aged 80 Years and Older: The OPTIMISE Randomized Clinical Trial
JAMA. 2020 May 26;323(20):2039-2051.

複数の降圧剤を使用している80歳以上の高齢者569名を対象に,そのままと1剤中止でRCTをしたところ12w後にSBPが150mmHgをこえた割合は13.6% vs 12.3%(aRR 0.98)と非劣性だった
2群の血圧の差は薬剤中止群のほうが3.4mmHg血圧が高かった
フレイル,QoL,有害事象に関しては有意差なし

 

●まとめ

血圧は死亡の14-18年前にピークをむかえ徐々に減る,特に最後の2年は一気に減る

・複数降圧剤を内服している高齢者で薬剤を止めても血圧はあまり変わらない(中止にリスクはあまりなし)