ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC】ヘルスメンテナンスの推奨度(Ann Fam Med. 2017 Jan;15(1):14-22)

今年度よりJPCA関東甲信越ブロックで行っている総合診療プログラム専攻医を対象としたオンラインレクチャー、第2回目のテーマ「ヘルスメンテナンスだ」の中で紹介されていた論文です
https://www.facebook.com/groups/302513727999950/

Updated Priorities Among Effective Clinical Preventive Services
Ann Fam Med. 2017 Jan;15(1):14-22
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28376457/

ヘルスメンテナンスの推奨度を点数化する試み
予防医療の優先度を「clinically preventable burden」「cost-effectiveness」の2項目,各項目5点満点で点数付けし合計点で評価したもの
(点数の根拠は原著のTable1)

10点:小児の予防接種,若年者の喫煙予防カウンセリング,若年者の喫煙のスクリーニングと短時間のカウンセリング
8点:心血管イベント高リスクへのアスピリン,アルコール使用のスクリーニングと簡易的な介入,子宮頸がんスクリーニング,大腸癌スクリーニング

7点:クラミジアと淋菌のスクリーニング,脂質異常症スクリーニング,高血圧スクリーニング
6点:AAAスクリーニング,心血管疾患高リスクの人の生活指導,HIVスクリーニング,HPVワクチン,インフルエンザワクチン,肥満スクリーニング,梅毒スクリーニング
5点:乳癌スクリーニング,うつスクリーニング(12歳以上-成人),小児の肥満スクリーニング,肺炎球菌ワクチン
4点:帯状疱疹ワクチン(60歳以上),骨粗鬆症スクリーニング
3点:葉酸内服(挙児希望)
2点:破傷風トキソイドブースト(10年毎),髄膜炎菌ワクチン
 

一部は国の違いや現時点でのエビデンスでは微妙なものもありますが...ヘルスメンテナンスの項目の優先度,臨床的に大事な視点で勉強になりました!!
個人的には喫煙介入の優先度の高さと骨粗鬆症の推奨の低さに驚きました。。。

【JC】院内搬送は感染症のリスク!? BMJ Qual Saf. 2021 Jun;30(6):457-466.

院内でのベッド移動と院内感染症の発症に関連性はあるか、という研究@BMJQS

なにをもって不要とするか、の基準は難しそうですが...大事な視点での研究だと思いました

Association between intrahospital transfer and hospital-acquired infection in the elderly: a retrospective case–control study in a UK hospital network
BMJ Qual Saf. 2021 Jun;30(6):457-466.

方法:2015-2018年,3つの病院で後ろ向き横断研究(n=24240)
その中で65歳以上に焦点を当てて解析をした。
ロジスティック回帰で年齢,性別,リスクのある時間,併存疾患,入院先,ICU,医療従事者の専門性,処置の数,退院先を調整した
結果:2827例が分析対象となった。72.2%の症例で1回以上の院内移動があった。多変量解析では院内移動が1回ふえること院内発症の感染症は9%上昇した
結論:院内移動は院内感染症のリスクと関連している。院内移動を最小限にするための戦略や不必要な移動を特定する研究が必要。院内移動をへらすことで院内での伝染性病原体の拡散を抑えられるかもしれない。

備忘録:高齢者における脂質異常症の治療

毎月獨協でさせていただいている老年内科Lecture 

今回は脂質異常症をテーマにさせていただきました 
日本と海外のガイドラインの比較,6%ルール,有害事象,ノセボなどの確認と
75歳異常,フレイルや終末期の状況でのスタチン継続の是非...etc
話させていただきました😊
 
 

□高齢者脂質異常症診療ガイドライン2017より抜粋

後期高齢者(75 歳以上)の高LDL-C 血症に対する脂質低下治療による一次予防効果は明らかでない
・余命が1 年以内の患者に対して,服用中のスタチンを中止することは安全であり,QOL 向上,医療費削減につながる(推奨グレードB)

 

□高齢者でのメリットは健常者より少ない

・ 75歳以上の冠動脈患者の患者において,LDL-C値が38.7mg/dl低下するごとに0.6%/年の絶対的なリスク低減効果が算出されており,NNTは167相当 (Lancet 2010;376:1670–81)

・年間の虚血性心疾患死亡率に対する38.7mg/dlのコレステロール低下の絶対的効果は,高齢者と若年者では10倍も異なる(Lancet 2007;370:1829–39)

 

□スタチンのデメリット

・スタチンは筋骨格系に関してはよい影響がない

疲労や倦怠感など非特異的症状のことも

→CK正常はスタチンによる筋障害を除外する理由にはならない (J Clin Lipidol 2014; 8:S58)

→高齢者に多いVitD欠乏や加齢自体がスタチンの筋症状リスク (J Clin Lipidol 2014; 8:S58)

・ポリファーマシー/相互作用リスク軽減

・患者さんの負担軽減(薬の数,コスト)

 

□スタチンの終末期の処方率

・予後が限られて施設入所した人でも7-8割継続
(J Am Geriatr Soc. 2020 Dec;68(12):2787-2796.J Am Geriatr Soc 2020 Nov;68(11):2609-2619.)

・予後半年の高齢者でも34%が処方
(J Am Geriatr Soc. 2020 Apr;68(4):708-716)

 

□予後が何年あればスタチンを考慮するか

 ・平均寿命が少なくとも5年ある高齢者であればスタチンを考慮する必要がある (Age Ageing 2015; 44:213–218)

・スタチン製剤のLag time to benefitは2.5年 (J Am Geriatr Soc. 2018 Feb;66(2):229-234)

・スタチンの効果が得られるまでの期間は推定2年以上なので余命が限られている患者には有用ではなく,終末期には無益 の可能性がある (JAMA Intern Med. 2015 May;175(5):691-700.)

 

□中止に関する検討

・予後1年の患者でスタチンを高用量内服群と中用量内服群を傾向スコアマッチングで比較しても心血管イベントとの関連はなかった (CMAJ. 2019 Jan 14;191(2):E32-E39)

・緩和ケアをうけ余命平均が7ヶ月の人を対象とした無作為比較試験でスタチンを中止した群は継続群と比較して,60日死亡は有意差がなく中止群でわずかにQoLがよかった (JAMA Intern Med 2015; 175:691–700.)

 
□高齢者におけるスタチンに関して
(Cleveland Clinic Journal of Medicine. 2017 February;84(2):131-142)

・一次予防:スタチンの意味はない

・二次予防:重度のフレイルであれば不要(例外はあるかもしれない?)

心不全:スタチンの意味はない

・エゼチミブ:意味はない。ACSの患者に対してはわずかに効果があるかもしれないが,臨床状況を考えると重度のフレイルに患者に対してエゼチミブの使用の意味があるとは考えられない

・スタチンの投与量:加齢やフレイルの進行にともなって減量するのは適切かもしれない

・有害事象:筋障害,薬物相互作用,その他の有害事象が懸念される場合は試験的にスタチン中止を検討する

 

□高齢者におけるエビデンス(Eur J Intern Med. 2018 Apr;50:33-40.)

・75歳以上でもメリットがある報告がある。ただしメリットは成人の1割程度。

・85歳以上だとメリットがある患者は少数だろう

・Clinical Frailty Scale 7-8ではスタチンは(一次予防でも二次予防でも)推奨されないという報告もある。

・重度のフレイルでは一次予防は推奨されず,二次予防のみ治療という意見もある

・予後1年未満の患者でoffにしてもよい研究もでている

【JC】高齢者における予防医療の適応(J Am Geriatr Soc. 2018 Feb;66(2):229-234.)

Individualizing Prevention for Older Adults
J Am Geriatr Soc. 2018 Feb;66(2):229-234.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29155445/

毎月獨協総診で老年内科Lectureをさせていただいていて,その時いただいた質問がきっかけで調べた文献になります😊


JAGS2018年の論文で予後/平均余命 vs 介入による恩恵を受けるまでの時間を比較した文献です(Table1が肝です)

個人的にはもっと骨粗鬆症は予防されてもよいのでは?と思っています

骨粗鬆症に対するBP製剤
→70歳以上の女性 8m
→70歳未満の女性 19m
高血圧:1-2y
脂質異常症:2-5y
AAAに対する手術:6-8y
高リスクASに対する手術:5y
心血管や大腸癌予防のアスピリン:10y
強化した血糖管理:10y
大腸癌スクリーニング:10y
乳癌スクリーニング:10y
前立腺癌スクリーニング:10-15y

Pisa症候群(Lancet Neurol. 2016 Sep;15(10):1063-74.)

Pisaの斜塔のような姿勢異常,Pisa症候群

パーキンソン病でみられることがある姿勢異常の1つで側屈を伴う軸索性ジストニア

まとまって調べたことがないのでちらっと調べてみました。可逆性のことがあることや2方向でのレントゲン撮像は知らなかったことなので学びになりました😊

 

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Pisa症候群(Lancet Neurol. 2016 Sep;15(10):1063-74.)


□原因
パーキンソン病などの神経変性疾患
パーキンソン症候群(抗精神病薬によるもの含む)
正常圧水頭症
硬膜下血腫
特発性の報告もある

パーキンソン病に伴う姿勢異常(Lancet Neurol 2011;10: 538–49.)
camptocormia(45°以上の胸腰椎の屈曲,腰折れ姿勢):歩行で悪化,補助で容易に直立,臥床で解消.Bent spine syndromeと呼ばれることも,
antecollis(頸部の45°以上の前屈):随意運動で部分的に克服できるが,重力に逆らって首を完全に伸ばせない.PDでは稀でMSAでよく見られる
retrocollis(頚後屈):頸部が伸展した状態で保持される。PDでは稀でPSPでよく見られる
scoliosis(脊柱側弯症):脊椎の屈曲(Cobb角10°以上)が自発ないし受動的な運動で改善せず,X線で椎体の軸面の回転がある(回旋を友なている)

 

Pisa症候群は呼吸,運動,姿勢の安定性に影響を与え可逆的な疾患であるため,早期の認識と管理が重要である。

□疫学や定義

コンセンサスの得られている定義はない

Bonanniの定義(Mov Disord 2007; 22: 2097–103)
体幹の側屈が15°以上
・歩行時に増加し、仰臥位では見られず、体幹の動きに機械的な制限がない
・屈曲側と同側の腰部傍脊柱筋に継続的な筋電図活動/EMGが見られる

Dohertyの定義(Lancet Neurol 2011;10: 538–49.)
・起立時に10°以上の側屈
・受動的要因や仰臥位でもとに戻る

可動性変形(Pisa症候群)と固定性変形(脊柱管狭窄症)を区別する必要がありPisa症候群の鑑別診断には、立位および臥位でのX線検査による確認が必要

コンセンサスの報告はないので有病率は色々
10°や15°の定義にもコンセンサスはない

パーキンソン病とパーキンソニズム対象で15°の定義の場合は1.9%(Mov Disord 2007; 22: 2097–103.)
パーキンソン病対象で10°の定義では8.8%(Neurology 2015; 85: 1769–79)

□臨床経過
・13%が急性,17%が亜急性(1-3m),70%が慢性進行パターン
・座っているときや歩いているときにわずかに可逆的な傾斜行動が起こることがあり、これは後に臨床的に明確なPisa症候群が発生するのに先立つことがある
(Lancet Neurol 2011;10: 538–49.Clin Neuropharmacol 2015; 38: 135–40.Neurology 2015; 85: 1769–79.J Neurol 2006; 253 (suppl 7): VII17–20.)
・急性発症の場合,薬剤性の可能性が高いとされるがデーターはない
・ほぼすべてのドパミン系薬剤がピサ症候群の発症と関連していると言われていますが、薬剤の種類と発症パターンに明確な関連は不明
・両側に向かって交互に傾く行動/メトロノームサインになる人もいる (10%)
Neurology 2015; 85: 1769–79
Clin Neuropharmacol 2015; 38: 252–54

パーキンソン病におけるPisa症候群の患者はそうでない人と比較して,高齢,罹病期間が長く,H&Y分類では重症でQoLが悪いことが多い(Neurology 2015; 85: 1769–79)
転倒や偏向歩行が起きやすい(Neurology 2015; 85: 1769–79.)

Pisa症候群と他の姿勢異常が併発することがある
10°以上の側屈と45°以上の前屈が同時に発生するとより重度の機能的制約や障害につながる

パーキンソン病が進行し姿勢変形がますます重症化すると軟部組織の病理学的変化は、可逆的な症候群からより永続的な症候群への移行を促進し,呼吸困難,疼痛の悪化,平衡感覚の障害につながる可能性がある

SPPB(Short Physical Performance Battery)に関して②

Get up and go/Timed up and goは色々情報得られるのですが転倒に関するエビデンスという点では実はふわっとしています(J Am Geriatr Soc. 2013 Feb;61(2):202-8.BMC Geriatr. 2014 Feb 1;14:14.Age and Ageing 2008; 37: 442–448)

なので個人的にはSPPBのほうに注目しています
転倒に関連して追加で調べてみました

※以前にSPPB(Short Physical Performance Battery)に関して扱かった記事はこちら
https://generalistcwtg.hatenablog.com/entry/2019/04/05/180000



The Short Physical Performance Battery (SPPB): A Quick and Useful Tool for Fall Risk Stratification Among Older Primary Care Patients
J Am Med Dir Assoc. 2021 Aug;22(8):1646-1651.

・SPPB(Low score)と1年間の転倒リスク RR 3.03
・SPPB(Low score)と4年間の転倒リスク RR 1.53

Short-Physical Performance Battery (SPPB) score is associated with falls in older outpatients
Aging Clin Exp Res. 2019 Oct;31(10):1435-1442.

・SPPBはPOMAと比較して非劣性というという結果(論文のFig1が綺麗でした,POMAは16項目あって非常に煩雑です...)
・SPPBは転倒と関連
・SPPBの総得点が10点未満は転倒歴と有意に関連(OR 2.16, 95% CI 1.16-4.20, p = 0.02).

Association between Short Physical Performance Battery and falls in older people: the Progetto Veneto Anziani Study
Rejuvenation Res. 2014 Jun;17(3):276-84

・SPPBのスコアが0-6の人は10~12の人よりも転倒を繰り返す可能性が高い
→女性では OR 3.46 男性では OR 3.82
・SPPBのスコアが7-9の人は女性のみ点灯を繰り返す可能性が高い(OR 2.03)

□追加

・SPPBは臨床的な変化に対する感受性にも関連している(J Gerontol A Biol Sci Med Sci.2008;63:160–164)といわれている
→1点の変化でも臨床的に有意
→1年以内にSPPBの点が1点減った人はその後5年の死亡率が上昇した(J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2005 Jul;60(7):894-900.)

サルコペニアの診断に中等度の価値がある(AUC = 0.644-0.770)。SPPB 8点をカットオフとすると重症サルコペニアに対して感度82-100%特異度36-41%(BMC Geriatr. 2020 Jul 13;20(1):242.)

●まとめ

・SPPBは転倒リスクの評価の一貫として使っても良さそう
・SPPBは転倒以外にも様々臨床的な予後と関連している
・SPPBは1点の改善でも有意そう

【Review アクセプト】CDSSに関するScoping review

【友情・努力・勝利】
Plus Ultra ということで成功の確約なくTrialをしたScoping review
なんとかIJERPHという雑誌にアクセプトをいただきました。共著の皆様には本当にありがとうございました!!

Scoping reviewはメリットも色々有るんですが、やってみてわかった難しさや限界、そしてなれない作業に共著メンバーに泣きつきまくり...などなど色々あったんですが...無事一つの形になってよかったです😊

今後どんどん台頭してくるであろう Clinical Decision Support System に関しての内容です。プライマリ・ケアの「診断」という領域だと、現状のエビデンスはCommonな慢性疾患がほとんどで急性疾患/症状やUncommon疾患にかんしてはまだわかっていない(なので期待してます!!)、という内容です

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