ある病院総合診療医の備忘録

関東在住の総合診療医・老年病専門医です。日々の学びの書き留め用に。 Twitterもはじめました。 @GHhrdtk

【JC】凝固異常があっても胸腔穿刺は安全にできるか?(Chest. 2021 Nov;160(5):1875-1889.)

薬剤ふくめ凝固異常がある状況での胸腔穿刺や胸腔ドレーン留置は可能というレビュー

 

Safety of Thoracentesis and Tube Thoracostomy in Patients With Uncorrected Coagulopathy: A Systematic Review and Meta-analysis
Chest. 2021 Nov;160(5):1875-1889.

凝固異常がある状況での胸腔穿刺や胸腔ドレーン留置の安全性に関するシステマティックレビュー&メタアナリシス

対象は疾患(血小板減少,肝硬変,腎不全)ないし薬剤(抗血小板,抗凝固)で凝固障害がある患者
アウトカムは大出血と死亡率
18件の研究,5134例で大出血と死亡率は0%(0-1%)だった
Abstractの6件を除外して12例のメタ解析も死亡率と大出血は0%だった(0-2%)
サブグループ解析でも同様の毛家だった
胸腔穿刺や胸腔鏡下手術を受けた未補正の凝固障害患者において、大出血や死亡率の高い合併症はまれであった。今回の結果は、適切に選択された患者において、胸腔穿刺や胸腔鏡下手術が安全に実施できることを示唆している。

【JC】在宅設定においてアルツハイマー型認知症患者の鎮痛管理は不十分?(J Am Geriatr Soc. 2021 Dec;69(12):3545-3556)

高齢者や認知症患者での疼痛管理の不十分さはGeriatricでの問題の1つです

在宅設定での検証と鎮痛による機能改善を証明した研究になります

 

Pain treatment and functional improvement in home health care: Relationship with dementia
J Am Geriatr Soc. 2021 Dec;69(12):3545-3556

Key Points
・疼痛を有する在宅医療患者において、認知症は鎮痛薬使用の可能性が低いことと関連していた。
・鎮痛剤の使用は、より多くの機能的改善と関連していた。


Background

アルツハイマー認知症(AD)の36-70%の人が急性期ないし急性期後の治療で疼痛を経験していると言われている
・疼痛を適切に治療しないとADに関連した精神神経症状(興奮,焦燥,抑うつなど)を悪化させ,認知機能や身体機能低下,QoL低下,再入院や死亡につながる
・ADの患者は認知機能正常な人に比べて痛みを自己申告する可能性が低いため,痛みが十分に認識されず,臨床医も疼痛の評価が難しいと感じている
・在宅ケア設定でも急性期後の状況で疼痛の評価の治療の適切性を研究する必要性が示されている
・AD患者の在宅ケア設定における疼痛治療の程度や、疼痛治療がこれらの患者の機能的転帰に与える影響を調査した研究はない

ということで行われた研究

背景:疼痛管理は急性期後の機能回復に重要であるが,AD関連認知症の高齢者は疼痛に対する治療が不十分であることが多い。①日常的に疼痛があるアルツハイマー関連疾患と鎮痛薬の使用の関係②アルツハイマー認知症の有無にかかわらず鎮痛薬が機能に与える影響,の調査を目的とした
方法:6048人を対象とした縦断的データの分析。
結果:アルツハイマー認知症は全ての鎮痛薬(OR 0.66),オピオイド(OR 0.54)の使用の低下と関連していた。非オピオイドの使用は関連がなかった(OR 0.94)。鎮痛薬の使用,非オピオイドの使用はADLの改善と関連していたが,オピオイドの使用はADLの改善と関連がなかった。
結論:アルツハイマー認知症は在宅ケア設定において鎮痛に対する治療が不十分な可能性があるが,疼痛管理は機能改善に不可欠である。臨床医と政策立案者は機能を改善するためにアルツハイマー認知症をもつ高齢者における適切な疼痛管理を確実に行うべきである。

 

【JC】高齢者はBPPVに対する耳石置換法は成功しにくいか?(J Am Geriatr Soc. 2021 Oct 26. doi: 10.1111/jgs.17485)

Effect of age on treatment outcomes in benign paroxysmal positional vertigo: A systematic review
J Am Geriatr Soc. 2021 Oct 26. doi: 10.1111/jgs.17485


BPPVは高齢者の転倒リスクを高める可能性がある
BPPVの治療のための耳石置換法の有効性に対する年齢の影響を調べるシステマティックレビュー

16の研究,3267人の患者が対象
1回目での成功率は高齢者のほうが若年者より低かった(67% vs 72.5%,P<0.001)
完全に回復するには高齢者のほうが若年者より回数が多かった(1.5 vs 1.4,P<0.02)

全体的な成功率は同等だった(高齢者 94.6% vs 若年 97.5%)
再発率は高齢者のほうが多かった(23.2% vs 18.6%,P=0.007)
 
結論:高齢者でもほぼ同等

急性心不全治療下での「水分制限」のエビデンスは!?(J Hosp Med. 2021 Dec;16(12):754-756.)

JHMのTWNDRより、EF低下した心不全患者が急性非代償性心不全で入院するとき、水分制限、の意味はあるのか?
恥ずかしながらこれ全然知らなかったので勉強になりました。。。
※TWNDRは明確な結論や臨床実践の基準を示すものではありません。興味ある人は是非今回の論文や関連文献を読んでみてください😊
 

Things We Do for No Reason™: Fluid Restriction for the Management of Acute Decompensated Heart Failure in Patients With Reduced Ejection Fraction
J Hosp Med. 2021 Dec;16(12):754-756.

WHY YOU MIGHT THINK FLUID RESTRICTION IS IMPORTANT IN THE MANAGEMENT OF ADHF IN HFREF PATIENTS

慢性心不全患者における長年の常識とエビデンスにより急性非代償性心不全における体液制限の根拠/基礎となっている

ガイドラインでも重症急性非代償性心不全(ADHF)の管理戦略として1日1.5〜2.0Lの水分制限を推奨している(Eur J Heart Fail.2016;18(8):891-975.J Am Coll Cardiol. 2013;62(16):e147-e239.)

しかし根拠となる論文は慢性心不全の塩分制限の論文であって,急性非代償性心不全でも水分制限の論文でもない(Clin Sci (Lond). 2008;114(3):221-230.)


WHY FLUID RESTRICTION IN THE MANAGEMENT OF ADHF IN HFREF PATIENTS MIGHT NOT BE HELPFUL

病態生理学的な観点では急性非代償性心不全における水分制限は、逆にRAASの活性化につながる可能性がある(Clin Sci (Lond).1988;75(2):171-177)

うっ血は動脈の灌流低下がRAASの活性化に繋がりNaと水分の貯留を誘発することにより発症する(Eur Heart J Suppl. 2016;18(Suppl G):G11-G18)

ADHFのバイオマーカーに関する最大級のデータベースの解析結果によると、限外ろ過膜療法中はRAASがさらに亢進することが示唆されている(JACC Heart Fail. 2015;3(2):97-107)

これらのデータから推定すると、ADHF患者の水分制限がRAASの活性化をさらに促進し、腎機能の悪化などの有害事象の原因となる可能性がある。

水分制限に対する最も適切で説得力のあるエビデンスは、Traversらによって行われたADHF患者の水分制限を検討した最初の無作為化比較試験である(J Card Fail. 2007;13(2):128-132.)
入院中のADHFの患者(n=67)を1Lの水分制限 vs 自由摂取で比較したが薬剤投与量,症状改善までの時間,入院中の体重に差がなかった。サンプルサイズが67人で水分摂取量の差が両群で400mlしかない研究だった。その後Alitiraにより、入院中のADHF患者(n=75)を積極的な制限(水分800m,Na800mg)と自由(水分2.5L/d以上,塩分3-5g/d)の2群に比較したところ臨床的な安定性,体重減少,利尿薬の使用,再入院について有意差は認められなかった(JAMA Intern Med. 2013;173(12):1058-1064)


WHEN FLUID RESTRICTION IS HELPFUL IN THE MANAGEMENT OF DECOMPENSATED HEART FAILURE IN HFREF PATIENTS

心不全末期で慢性的な低Na血症(Na<135mEq/L)の患者は状況に応じて成分を制限する。心不全で低Na血症を発症するのはアルギニン・バソプレシンの分泌により自由水の排出ができないこと(J Am Coll Cardiol. 2013;62(16):e147-e239.)や,アンジオテンシンIIによる渇きの刺激で自由水の摂取量が増加することや、糸球体濾過率の低下により腎臓からの自由水の排泄が制限されることなどがある。


心不全における低ナトリウム血症は主に自由水の調節障害によって起こる。米国及びヨーロッパのガイドラインではD期の心不全患者に対して明確に推奨している(Eur J Heart Fail.2016;18(8):891-975.J Am Coll Cardiol. 2013;62(16):e147-e239.)

しかし、この方法を支持する無作為化データはなく、観察データによると、ADHFの低ナトリウム血症に対する水分制限の影響は限定的であることが示唆されている(Cochrane Database Syst Rev. 2018;28(6):CD010965)


WHAT YOU SHOULD DO INSTEAD

エビデンスに基づいた薬理学的治療が行われている現在、水分制限は助けにならず、潜在的に害を及ぼす可能性があることが研究で示されている。むしろ、入院中のADHFのHFrEF患者には、エビデンスに基づく最新の薬物療法を行い、喉が渇いたら飲めるようによる。

RECOMMENDATIONS

・駆出率が低下したADHF患者には、エビデンスに基づきRAAS系統の遮断を行い、うっ血を緩和するためにループ利尿薬を開始する。
・駆出率が低下したADHF の患者は、低ナトリウム血症がなければ、のどが渇いたら飲むことができる。
・ADHF で低ナトリウム血症および/または利尿剤抵抗性を併発している患者には、水分制限の開始を検討する。

 

【JC】骨粗鬆症性骨折に対する二次予防介入の有用性(J Am Geriatr Soc. 2021 Dec;69(12):3435-3444)

Cost-effectiveness of secondary fracture prevention intervention for Medicare beneficiaries
J Am Geriatr Soc. 2021 Dec;69(12):3435-3444

Key Points

 骨粗鬆症性骨折後の二次骨折予防介入は,メディケア受給者にとってコスト削減になる可能性が高く,結果として健康アウトカムの改善とコスト削減につながる。

Why Does this Paper Matter?

骨折後に骨粗鬆症治療を受ける患者は少ない。
二次骨折予防治療の拡大が有益である。


・多くのエビデンスにも関わらず米国では適切な骨粗鬆症治療の実施率は非常に低い
・骨折後、その後数年以内に次の骨折を起こすリスクが特に高くなるため、に骨粗鬆症治療を開始することは、特に重要だが二次予防として薬物療法を開始する患者は10%~20%に過ぎない

ということで米国でメディケアを対象に行われた二次予防介入研究

背景:骨粗鬆症性骨折後の二次骨折予防介入の費用対効果を評価した。
方法:新たに骨粗鬆症の骨折を経験した65歳以上の米国メディケア患者を対象に,通常のケアと比較した二次骨折予防介入の費用対効果を評価した。薬物療法を開始し、継続して治療を受けた患者は、5年間治療を受けるものとした。アウトカム指標として、その後の骨折、生涯平均コスト、質調整生存年、質調整生存年あたりの増分費用対効果比があがった。
結果:ベースケース解析の結果、二次骨折予防介入戦略は、通常の治療よりも効果が高く、かつ費用も低い、つまり費用節約になることが示された。モデルの結果では、介入により予想される骨折数が5年間で約5%減少し、100万人の患者で約3万件の骨折が予防されることが示された。二次的な骨折予防の介入により,生涯にわたって平均418ドルのコスト削減と,患者1人当たり0.0299の質調整生存年増加が得られた。
結論:新規の骨粗鬆症性骨折に対する二次骨折予防介入は,通常のケアと比較して,健康アウトカムを改善し,医療費を削減する可能性が非常に高い。

【JC】VitDが高いと転倒に伴う入院が減る可能性がある(J Am Geriatr Soc. 2021 Nov;69(11):3114-3123.)

VitDの濃度が高いことのPositiveな効果(転倒による入院が減る)を検証した14-15年の研究。ベースラインの血中濃度測定もされていて待望の長期研究、ということで個人的には胸熱な研究です😊
 
ビタミンDに関しては何回か取り上げさせてもらっているのですが...今回はJAGSより(待望の!!)長期予後を調べた研究!!ということで色々背景要素を長く語ります。


・VitD補充は筋力,バランス,機能など転倒に関連する因子に良い影響を与える(J Am Geriatr Soc. 2010;58(11):2063-2068.J Am Geriatr Soc. 2011;59(12):2291-2300.)
・VitD不足は転倒のリスクの懸念があり,補充により転倒が減ることが示されている(J Am Geriatr Soc. 2010;58(11):2063-2068.)
アメリカ老年学会のガイドラインではVitD不足リスクがある人には補充を推奨している(J Am Geriatr Soc. 2014;62(1):147-152.)
・米国医学研究所では25(OH)VitDが20ng/mlであれば人口の97.5%が転倒や骨折などの骨格に関わる有害な結果から保護されるとしている
・国際的なガイドラインでも30ng/ml以上にすることを推奨している(J Clin Endocrinol Metab. 2011;96(7):1911-1930.Osteoporos Int. 2010;21(7):1151-1154.)

とこれだけVitD補充に関しては推奨されているのですが...

しかしっ!!
主なメタ解析ではよい結果が出せないという結果に・・
(JAMA. 2017;318(17):1687-1699.J Am Geriatr Soc. 2010;58(7):1299-1310.J Clin Endocrinol Metab. 2011;96(10):2997-3006.Lancet Diabetes Endocrinol. 2018;6:847-858)

これらは
・介入の用量,頻度,対象の人などがバラバラ
・Outcomeが自己申告の転倒だったり,フォローアップ期間が短い
などが原因ではないかと言われていた(VitD補充は不足の程度が高いほど効果があるとも言われています。 J Clin Endocrinol Metab 2007; 92:2058)
 
ということで
 
・ベースラインのVitDは全例測定
・客観的な指標(転倒による入院)で判断
・長期フォロー
 
行われた前向きコホート研究

Association between vitamin D status and long-term falls-related hospitalization risk in older women
J Am Geriatr Soc. 2021 Nov;69(11):3114-3123.

Key Point

・25(OH)VitDの値が高いほど身体機能の向上と関連していた
・25(OH)VitDの低下に伴い転倒リスクの上昇が認められた
・25(OH)VitDが75nmol/L(日本でよく使われる単位だと30ng/mL)以上を維持すると長期的な転倒にともなう障害リスク低減に役立つ可能性がある

Abstract

背景:ビタミンDの状態と高齢女性の入院を要する重大な転倒のリスクとの用量反応関係は不明である。14.5年間にわたる高齢女性の大規模コホートにおいて転倒関連入院との関連を検討した。
方法:70歳以上のオーストラリア女性 1348人 を対象にベースライン(1998年)の25(OH)VitDの濃度,握力,TUGを評価,転倒に関する入院のデーターをフォロー
結果:25(OH)VitDの中央値は66.9±28.2nmo/l(約 27±11 ng/ml)。低値/Low(50nmol/L=20ng/ml未満) 384人(28.5%),中値/Middle(50-75nmol/L=20-30ng/ml未満) 491(36.4%),高値/High(75nmol/L=30ng/ml以上) 473(35.1%),に分類された。多変量解析ではHigh群はLow群と比較して転倒関連入院が低かった(HR 0.76 95%CI 0.61-95)。25(OH)VitDの濃度低下に伴い転倒関連入院のリスクが上昇し,濃度が高いほどTUGの値がよかった。TUGを多変量調整に含めても転倒外傷との結果は変わらなかった(HR 0.76 95%CI 0.60-0.95)

結論:オーストラリアの高齢女性では25(OH)VitDを75nmol/L(30ng/ml)以上に維持することは筋機能維持に有用であり,入院を必要とする転倒を予防できる可能性がある。この関連は25(OH)VitDが高い女性にみられる身体機能の向上とは無関係である。

※nmol/L ng/ml 換算/2.5nmo/l = 1ng/ml)
 
という結果でした
個人的には「転倒による入院」以外のOutcomeもあれば...とは思いますし、VitDが高い=良い、にかんしては鳥と卵etcで色々難しいと思っています。
ですが、待望の長期フォローのPositive研究ということで胸熱でした😊
 

【JC】POLSTは重症患者やフレイル患者の治療強度に影響するか?(J Am Geriatr Soc. 2021)

POLSTは重症患者やフレイル患者の治療強度に影響するか?というシステマティックレビュー

ACPや終末期医療において選択肢にあがるPOLST、その効果に関してのレビューになります


The influence of POLST on treatment intensity at the end of life: A systematic review
J Am Geriatr Soc. 2021 Sep 22. doi: 10.1111/jgs.17447.

POLST(Physician Orders for Life-Sustaining Treatment)に関してのシステマティックレビュー

POLSTは広く普及しているが安全性や患者が望むケアの提供の改善に寄与するかは不明だった。重症患者やフレイル患者の治療強度に対するPOLSTの影響を系統的に判断するためのシステマティックレビュー

重症ないしフレイルで平均余命が1年未満の人が対象
主要アウトカムは死亡場所と高強度治療(死亡前30dないし90d以内の入院,死亡前30d以内のICU入室,最後の1wのケアの移行の数)

20件の観察研究,104554人の患者のうち27090人がPOLSTを行っていた
POLST利用者の55%は快適な措置のみの指示をうけていた
病院前設定ではほとんどの研究でPOLSTは院内死亡や高強度治療の減少と関連していた
急性期病院設定ではかなりの数の患者がPOLSTと一致しない治療を受けていた
全体的なエビデンスは中程度で一貫していた

結論として重症患者においてPOLSTがあると治療強度が低下する可能性があるという中等度のエビデンスが得られた。しかしPOLSTが意図しない結果をもたらす可能性も示唆された。POLSTのメリットを引き出し、リスクを抑えるための knowledge gapsがいくつか確認された。



※日本では日本臨床倫理学会より日本版POLSTが作成されています。興味ある人はぜひそちら関連のLinkを参照ください😊